詳しく述べましたが、ここで話を岸田政権に戻します。このとこ
ろ、支持率が伸びていますが、岸田首相の「聞く力」を標榜する
姿勢が支持されているという人がいます。いったん決めた政策で
も、よりよいアイデアが出れば、それを取り入れるという柔軟な
姿勢が支持されているというのです。
「18歳以下への10万円給付」の政策があります。もともと
公明党が衆院選で掲げた政策です。所得制限なしで、現金10万
円を申請不要の「プッシュ型」で支給するというものです。
しかし、これに対して岸田政権、というよりも自民党は「待っ
た」をかけています。所得制限をつけるべきだというのです。親
の年収が960万円未満とすることと、5万円を現金で先に支給
し、残りの5万円は教育関連商品が買えるクーポン券にするとい
うものです。この条件で自公は合意しています。
これに対して、自治体によっては、政府の決めた方式では、か
えって経費がかかるので、現金で10万円を一括支給していいか
という意見が出され、岸田首相は、結果としてそれを受け入れて
います。首相本人としては「聞く耳」を大事にしたつもりでしょ
う。これまで自民党政権は、一度決めた政策を変更することはほ
とんどなかったので、この柔軟さは驚きをもって受け止められた
ものです。しかし、多くの自治体では、この政策変更によって大
きな混乱が起きているといわれます。
しかし、これは、あまりにもケチくさい政策だとは思いません
か。総額にして2兆円にしかならない政策です。世界第3位の経
済大国である日本の政策としては、あまりにもミミッチイです。
こんなものは、最初からポンと現金で年内に給付すべきです。所
得制限だの、クーポンなどの条件は財務省の意向でしょうが、こ
の役所は、どうしようもない役所であると思います。公文書を改
ざんしても反省しないし、何よりも30年もの間、日本をデフレ
のままにして平然としているのですから話になりません。
これに関して、岸田政権に一家言を持つ高橋洋平氏は、新著の
冒頭で次のように述べています。
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岸田政権のグダグダ感はあまりにひどいです。GOTOトラベ
ルもなぜ人の移動が一番激しく、観光業界や飲食店、小売業界が
一番儲かる年末年始を外したのか、私にはわけがわかりません。
日本経済のX字回復を求めるのなら、新型コロナの感染も十分
に収まり、需要も非常に高い年末年始を外すことなど考えられま
せん。GOTOトラベルもGOTOイートも、期待していた人た
ちは、かき入れ時を外されてガクッと来ています。
もし、今後、オミクロン株が流行し、またまた緊急事態宣言が
出たらどうなるのでしょうか。新型コロナで我慢してきた飲食店
観光業界、小売業界の方々が気の毒でなりません。
さらに、1月後半か2月から始まるとされるGOTOトラベル
も、平日と休日では特典や割引率を変えるという案も練られてい
るようです。いろいろな条件をつけたら、使い勝手が悪くなるこ
とがわからないのでしょうか。 ──高橋洋一著
『岸田政権の/新しい資本主義で無理心中させられる/
日本経済』/宝島社刊
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人の意見に耳を傾ける「聞く耳を持つ」ことは大変よいことで
あり、長たる人の心得としては立派なことです。しかし、それを
売り物にするのは考えものです。優柔不断であると思われるから
です。ある自民党の中堅参議院議員は、岸田氏を「バランスの岸
田だからね」というし、「本当に自分がやりたい政策がない」と
厳しく見る自民党関係者もいます。ある経済団体の幹部は「近衛
文麿を彷彿させる」と指摘する向きもあります。
近衛文麿という宰相は、名門貴族・近衛家の生まれで、戦前の
政界で貴族院議長や外相などの要職を歴任し、3度も首相を務め
た人物です。細川護熙元首相の祖父に当たる人です。
この近衛文麿首相は、優柔不断な宰相として知られています。
日中戦争の野放図な戦線拡大が危惧されたさい、蒋介石との首脳
会談で”手打ち”する構想が持ち上がったのです。この構想に近
衛は承知したのに、南京行きの航空機をチャーターしておきなが
ら、近衛は直前にドタキャンしています。この首脳会談を軍部の
側から進めていた石原莞爾は次のように激高したといわれます。
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2000年にも及ぶ皇恩を辱うして、この危機に優柔不断では
日本を滅ぼす者は近衛である。 ──石原莞爾
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近衛文麿首相について、昭和天皇は、近衛が亡くなったときに
次のように述べていたことが、初代宮内庁長官の田島道治氏の手
になる『拝謁記』に、次のように書かれていたことがわかってい
ます。
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(近衛は)意思が弱いし、悪(にく)まれたくないし、聞き上
手で、誰にでもかつがれる。 ──昭和天皇
田島道治著『拝謁記』より
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この話はさておき、なぜ10万円の給付をわざわざ現金とクー
ポン券に分けたかですが、現金で配ると「消費に使われず、貯蓄
に回ってしまう」からということになっています。これはおそら
く財務省の考え方であると思います。
異常なほど長く財務大臣に居座った麻生前財務相も、国民に現
金で給付すると「ほとんど貯蓄に回ってしまい、消費にまわらな
い」と口癖のようにいっていたからです。これは、果たして本当
のことなのでしょうか。
結論からいうと、このロジックはきわめておかしいのです。財
務省はその理屈を知っていて、この話法を使っているフシがあり
ます。 ──[新しい資本主義/第014]
≪画像および関連情報≫
●首相の座に就く岸田文雄氏はどんな人物なのか
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岸田文雄は祖父、父とも元衆議院議員で、安倍晋三元首相
と同じ政治家3代目である。1957(昭和32)年7月に
東京・渋谷区で通産官僚の父・岸田文武の長男に生まれた。
父の勤務の関係で小学校1〜3年はニューヨークで暮らし、
地元の公立学校に通った。帰国後、東京の永田町小、麹町中
開成高を経て早稲田大学法学部に進み、卒業後、日本長期信
用銀行(現在の新生銀行の前身)に就職した。
30歳で退職する。衆議院議員だった文武の地元秘書とな
り、広島市に移住した。早大時代から40年以上の友人の岩
屋毅(早大政経学部卒。衆議院議員)が述べる。
「昔から自己主張する人ではなく、人の話をよく聞く。ガ
ツガツしたところはない紳士。新しい宏池会のプリンスとい
う育てられ方をされ、謙虚で誠実な人柄でそつなくこなして
きた感じです」
秘書に転じたときから、政治家に、と志を立てた。岸田が
語る。「政治や官僚に触れる機会が多い環境で育った。小さ
い頃、アメリカにいて、人種差別など理不尽な世の中に対し
て、正義感とか義憤を人一倍強く抱いた。それが政治を志す
気持ちにつながった」「酒豪だが、行儀のよいイケメン」が
定評だ。秘書時代、広島県三次市出身で自動車メーカーのマ
ツダの重役秘書だった女性と見合い結婚した。後に岸田の選
対本部長を引き受ける林正夫(広島県議・元議長・自民党広
島県連幹事長)は、「秘書のとき、よくマツダに行くね、と
冷やかしたことがある。 https://bit.ly/3Ap5hrK
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近衛文麿元首相