する親書をよく読むと、そこに米国の意図を読み取ることができ
ます。まず、「銀行の不良債権や企業の不稼動資産が、早期に市
場に売却されていないことに強い懸念を感じる」とあります。
銀行に対する検査を厳しくすると、多くの不良債権が生み出さ
れます。ブッシュ大統領はそれらの不良債権が整理回収機構(R
CC)に買い取られたのはいいが、その多くが塩漬けになってい
ることを懸念しているといっているのです。
そして、それらを「最も効果的に資産を活用できる人たちの手
にゆだねて、機能を回復させることが必要である」といいます。
この場合、最も効果的に資産を活用できる人たちとは、要するに
「ハゲタカ・ファンド」のことであり、ブッシュ大統領は、整理
回収機構が抱えている不稼動資産を、外資(つまり米国のファン
ド)に早く委ねよといっているのです。安く買いたたくことがで
きるからです。極めてムシのよい話です。ちなみに、整理回収機
構とは、金融機能の再生及び健全化を行うための銀行・債権回収
会社のことです。
具体的な例を上げます。これはクリントン政権のときの話です
が、日本長期信用銀行(長銀)のケースです。長銀は、吉田内閣
が打ち出した「金融機関の長短分離」政策(短期金融は普通銀行
長期金融は長期信用銀行と信託銀行に担当)に沿って、1952
年に設立された銀行であり、長期資金の安定供給を目的にしてい
たのです。その設立の経緯から、吉田茂・池田勇人と連なる自民
党の宏池会(岸田首相の派閥)と関係が深かった銀行です。
長銀は、バブル景気時には積極的な融資拡大路線を行っていま
したが、それが仇となってバブル崩壊後の不況で巨額の不良債権
を抱えてしまいます。最終的に1998年に経営破綻し、一時国
有化されてしまうのです。
その破綻後の長銀のトップに就いたのが安斎隆氏(セブン銀行
初代社長で、現同行特別顧問)です。安斎氏は、1998年4月
に日銀で信用担当の理事に就任していますが、この役職は金融シ
ステムの安定に責任を持つ役職です。この安斎氏によると、6月
にサマーズ米財務副長官が来日し、当時の小渕首相、松永光蔵相
そして速水日銀総裁と相次いで会談しています。
来日の狙いは、日本の金融危機はアジア全体の経済・通貨不安
を再燃させかねないとして、抜本的な不良債権処理を日本に迫っ
たのです。確かに前年の1997年には、山一證券や北海道拓殖
銀行が破綻しており、長銀も処理を誤ると、平成不況を象徴する
大型倒産になりかねない状況だったからです。
そのとき、サマーズ米財務副長官は、速水日銀総裁に対し、日
銀の考査資料を提出せよと要求してきたそうです。速水総裁はそ
れを受け入れ、担当の安斎氏に対し、提出するよう命令してきた
といいます。この米国の要求は、きわめて無礼な話です。このと
きのいきさつについて、日経のレポートは、安斎氏の話に基づい
て、次のように書いています。
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考査結果は銀行の健全性を中央銀行として克明に調べた極秘の
資料だ。米国は日本に当事者能力がないとみたのか、考査資料を
手に入れ、不良債権問題に介入する姿勢が露骨だった。「今日は
用意できない。明日出す」。安斎氏はこう言い返し、最後まで渡
さなかった。米国には「指示を拒んだ」と言われたが、国家で解
決すべき問題だとの思いだった。長銀は2000年、米系ファン
ドのリップルウッドに譲渡された。サマーズ氏は、同ファンドの
トップと旧知の仲とされた。 https://s.nikkei.com/3AeFJxg
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ブッシュ米大統領が小泉首相に親書を送ってきたのは2002
年1月7日です。だが、このブッシュ親書は「極秘扱い」になっ
ています。その理由は日本国民の税負担で、米国企業が不良債権
を安く買い取るという露骨で身勝手な要求だったからです。
2002年1月27日に日本政府は、対応策をまとめています
が、内容は「空売り規制」など、株価対策などに重点を置かれた
ものになっていて、米国が親書で求めたものとは、ほど遠い内容
でした。これに対し、米国は「苛立ち」を強め、3月19日には
ハバードCEA委員長が自身が来日し、東京で講演し、「重要な
ことは資産の買取りが行われ、それが政府以外の民間の市場関係
者の手に早く入ることである」と強調しています。それは、大蔵
省出身の柳沢伯夫金融担当大臣の強い抵抗があったからです。竹
中経済財政担当大臣と柳沢金融担当大臣の意見は、まったく合わ
なかったのです。
2002年9月に入ると、事態は急展開します。まず、小泉首
相が訪米し、9月12日にニューヨークで、ブッシュ大統領と日
米首脳会談を行います。そこで小泉首相は「不良債権処理の遅れ
を認め、不良債権の処理を加速させる」ことを約束します。
そのとき、ハバードCEA委員長は来日しており、柳沢金融担
当大臣と竹中経済財政担当大臣と個別に会談し、不良債権処理を
加速させるために、さらに厳しい検査をし、公的資金注入も必要
であると説いていますが、竹中大臣は同調したものの、柳沢大臣
は、今はその必要はないと反対しています。
9月15日に帰国した小泉首相は、柳沢、竹中両大臣と個別に
会談し、不良債権処理の加速度について話し合っています。しか
し、両大臣の意見は次のように対立したままだったのです。
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◎柳沢大臣
不良債権処理は着実に進んており、大口債権の最終処理を1年
以内に実施できるよう大手行に義務付ける。
◎竹中大臣
これまでのやり方では市場や欧米は信用しない。経営状態が悪
い銀行には税金を投入し、国有化が必要だ。
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──[新しい資本主義/第012]
≪画像および関連情報≫
●「不良債権処理」で米国にどんな利益が?/日本共産党
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【問い】政府の「不良債権早期処理」方針の背景にはアメリ
カの要求があるとのことです。アメリカにとってどんな利益
があるのでしょうか。(埼玉・一読者)
【答え】「不良債権の早期最終処理」は、三月の日米首脳会
談で、当時の森首相が米側の要求にこたえて公約し、6月の
日米首脳会談でも小泉首相が「構造改革」の柱として約束し
たものです。
米国の要求の裏には、米国経済が減速するなか、日本の銀
行が身ぎれいになり「ジャパンマネー」でもっとアメリカの
国債や株を買い支えてもらいたいということがあります。ま
た身ぎれいになる銀行があれば、おいしいところはアメリカ
の金融機関が買収したり、合併したりできるという思惑もあ
ります。6月の首脳会談でブッシュ大統領が、「外国からの
直接投資の促進が重要だ」とのべたのも、この思惑を代弁し
たものです。
3月の日米首脳会談の直前、米の店頭市場(ナスダック)
は最大級の株安になり、続いて東京市場の株価が16年ぶり
に1万2千円を割りこむといったように、日米同時株安の状
況を呈していました。このままでは米国へ資金が流れず、ア
メリカの株は大変なことになる――これが、日本の銀行の不
良債権早期処理というブッシュ政権の要求につながっていま
す。アメリカ側の要求には、日本経済は米経済に密接に関係
しており、その日本経済が銀行の不良債権によって、悪く
なっているという認識があります。https://bit.ly/33R4svs
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ブッシュ米大統領と小泉首相