党内閣の発足後3カ月の支持率のグラフを付けていますが、これ
によると、岸田内閣は、小泉、安倍内閣に次ぐ第3位の地位を占
めています。菅内閣が74%からスタートし、3カ月で58%に
ダウンしたのとは対照的に、岸田内閣は、発足当時の59%から
65%に上昇しています。
これは、岸田内閣が発足した秋口から、デルタ株の感染が大幅
に下がるという幸運と、国の水際対策を強化してオミクロン株の
流入を防ぎ、他国に比べて流入の時間稼ぎに成功したことです。
もうひとつ「聞く耳を持つ首相」をアッビールし、一度政府と
して決めた政策でも、それに疑問が出されると、柔軟に変更する
などの対応も現在のところプラスに働いています。
しかし、肝心の「新しい資本主義」に関しては、実は疑問だら
けです。昨年の9月6日、自民党総裁選に向けた記者会見で岸田
氏は、「新しい日本型資本主義」を掲げ、次のようにいっていた
のです。
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新しい日本型資本主義とは、小泉改革以降の新自由主義政策を
転換することである。 ──岸田文雄氏
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このとき、岸田氏の手元の想定問答集には「小泉改革以降の新
自由主義政策の転換」ではなく、「竹中路線からの転換」と書か
れていたのですが、岸田氏は、あえて「名指し」を避けて、「市
場原理に任せるだけではうまくいかなかった」と述べているに過
ぎないのです。さらに「日本型」は誤解を招きやすいとして「新
しい資本主義」に訂正しています。
岸田首相が新自由主義からの転換を標榜したということは、誰
が考えても、竹中平蔵氏を政府から遠ざけることを意味していま
したし、それを期待する向きも多かったはずです。それほど、竹
中平蔵氏は、当時米国から強い要請のあった構造改革に辣腕をふ
るってきたからです。
竹中氏は、2000年7月からの森喜朗政権でのIT戦略会議
での民間委員に就任すると、2001年からの第1次小泉純一郎
政権では、経済財政政策担当大臣とIT担当大臣として入閣。2
002年からの改造内閣では、経済財政政策担当大臣として留任
し、また、金融担当大臣も兼任するようになります。
さらに竹中氏は、2003年の改造内閣でも留任し、内閣府特
命担当大臣として金融・経済財政政策を担当します。そして、2
004年7月の第20回参議院議員通常選挙に、自民党比例代表
で立候補し、70万票を獲得しトップ当選を果たしています。
2004年9月、第2次小泉改造内閣において、今度は参議院
議員として、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、郵政民営化
担当大臣に就任。小泉内閣の経済閣僚として、日本経済の「聖域
なき構造改革」の断行に辣腕を振るったのです。
2005年10月、第3次小泉改造内閣においては、総務大臣
兼郵政民営化担当大臣に就任。このとき、菅義偉前首相が副大臣
として竹中氏に仕えています。菅内閣が誕生したとき、真っ先に
会った民間人が竹中平蔵氏であったのも、このときの縁によるも
のと思われます。
しかし、2006年9月に小泉首相が引退を表明すると、竹中
氏も任期を4年近く残し政界引退を表明し、9月28日に参議院
本会議で辞職が許可されると、自民党からも離党し、慶応義塾大
学に復帰しています。その後、2012年からの安倍政権におい
ても、竹中氏は、官邸の未来投資会議などの有識者として影響力
を保持し、菅義偉政権でも官邸の「成長戦略会議」に名を連ねる
など、政権のアドバイザーとして、自民党政権に強い影響力を現
在も保持しているのです。
岸田首相としては、「新自由主義からの脱却」を標榜する以上
このさい、本人は否定するものの、その旗振り役であった竹中平
蔵氏をこのさい官邸から外すべきです。しかし、岸田首相には、
それができなかったのです。
竹中平蔵氏は、世界から経営者や、政治家らが集まるダボス会
議を主宰する世界経済フォーラムの理事を長く務め、国際的な人
脈や発信力は気になるし、わざわざ虎を野に放つのはマイナスと
考えたのか、小細工をして竹中氏を官邸に残しています。このあ
たりが岸田政権の弱さであり、「新しい民主主義」の実現に疑問
を抱くところです。
その小細工とは何でしょうか。
まず、菅政権時代の竹中氏の入っている「成長戦略会議」を廃
止し、首相みずから議長として政権の1丁目1番地とする「新し
い資本主義実現会議」を立ち上げ、そこからは竹中氏を外したこ
とです。それでは、竹中氏をどこに起用したのでしょうか。これ
については、「日経ヴェリタス」の編集委員、清水真人氏は次の
ように書いています。
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首相はデジタル社会の基盤となる規制・行政改革や法令見直し
を推進する司令塔として「デジタル臨時行政調査会」も主宰。さ
らに改革で実装が可能になるデジタル技術やサービスを都市と地
方の格差是正につなげる「デジタル田園都市国家構想実現会議」
も新設した。「田園都市国家」はかつて大平正芳元首相が提唱し
た構想が下敷きだ。首相は竹中氏をこちらに登用した。「官邸が
外すなら全て外せばよい。私もはや70歳。有識者も世代交代す
べきだ」と漏らしていた竹中氏も受け入れ、政権に「是々非々」
で動く。この微妙な落としどころには理由がある。
https://s.nikkei.com/3Fw8s1S
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竹中平蔵氏が政治に関わったのは2000年からです。しかも
彼は要職で経済・財政を担当しています。日本の長期デフレとは
無関係ではないはずです。一体彼は何をやったのでしょうか。
──[新しい資本主義/第009]
≪画像および関連情報≫
●竹中平蔵「アベノミクスは100%正しい」
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アベノミクスは、理論的には100%正しいと思います。
最近私は、「TINA」という言葉をよく使いますが、これ
は、英国の元首相のサッチャーの言葉です。TINAとは、
「There is no alternative」の略、 つまり「これ以外の方
法はない」という意味です。
ただ、これが本当に実現できるかどうかはわかりません。
これは政治の強い決意をもって実行してもらわないといけな
い。「アベノミクスが正しいかどうか」を議論するよりは、
「アベノミクスが本当に実現できるかどうか」を議論するほ
うがいいと思います。
今年のダボス会議では、参加者は皆、安倍さんを絶賛して
いました。「彼の言っていることは、正しい」という意見で
す。この間、経済学者のジョセフ・スティグリッツやアダム
・ポーゼンと内閣府で会議を行いましたが、彼らも同意見で
した。「安倍首相の言っていることは正しいので、きちんと
実行してほしい。それに尽きる」ということです。
デフレを解消しようと思ったら、これは貨幣的現象ですか
ら、金融を緩和しないといけない。財政については、短期に
は需給ギャップを埋めるけれども、長期には財政再建が必要
になる。そして、経済を成長させるためには、規制改革を進
めなければなりません。これらは、否定しようがないことで
す。まさしく、There is no alternative ですよ。繰り返し
ますが、問題はこれを実現できるかどうかです。まだ道のり
は、そうとう遠い状況です。 https://bit.ly/3qsZrSN
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自民党内閣発足3か月の支持率