2022年01月11日

●「レーガノミクスと新自由主義政策」(第5647号)

 新自由主義政策を国家が取り入れて実施すると、何が起きるで
しょうか。今朝は米国の例です。
 第2次世界大戦前の米国の資本主義は自由放任資本主義といっ
て、個人の経済活動の自由を最大限に保障し、国家による経済活
動への干渉・介入を極力排除しようとする思想や政策をとってい
たのです。この思想を経済学的に体系化したのは、経済学の父と
いわれるアダム・スミスです。
 しかし、1930年代に大恐慌を起きたことにより、その修正
資本主義として、市場の機能は不完全だと考え、政府による福祉
への介入など、市場経済への介入を肯定するケインズ主義が取り
入れられたのです。米国は、ケインズ主義に基づくニューディー
ル政策によって、大恐慌を克服しています。
 新自由主義は、1970年代にケインズ主義を批判し、盛んに
なった考え方で、政府の市場への介入を最小限にし、市場の働き
で社会全体の利益を最大にできるという自由放任主義に似た考え
方です。特徴としては様々なサービスの民営化や規制緩和などが
上げられます。
 さて、米国の場合です。1970年代以降、米国には新保守主
義(ネオコンサバティズム)、略してネオコンという政治イデオ
ロギーがあり、彼らは、新自由主義・市場原理主義の思想が利用
できると歓迎したのです。
 ネオコンというのは、自由主義や民主主義を重視して、米国の
国益や実益よりも思想と理想を優先し、武力介入も辞さない思想
です。もともと民主党のリベラル・タカ派だったのですが、以降
に共和党支持に転向して、共和党のタカ派外交政策姿勢に非常に
大きな影響を与えています。
 これらのネオコン一派が、1980年11月の米大統領選挙に
元俳優のロナルド・レーガンを担いで、当選に導いたのです。自
分たちの利益になると判断したからです。ネオコンの支援によっ
て、大統領になったレーガンは、大統領就任後の2月に、次のよ
うな演説をしますが、これについて、経済アナリストの菊池英博
氏は自著で次のように書いています。
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 1981年1月に就任したレーガン大統領は、2月18日に議
会で演説し、「アメリカは、大恐慌以来の最悪の経済的混乱にあ
る。インフレ率は12%、失業率は7・5%、金利は年20%で
ある」と国民に訴え、「経済再生計画」として、@小さい政府に
するために社会福祉関連予算を削減するが、「強いアメリカ」を
作るために軍事費を増加する、A所得税の最高税率を引き下げ、
法人税はいくつかの減税措置をとって大幅に削減する、B政府の
規制を大幅に縮小し、とくに環境問題などの社会的規制を撤廃す
る、C金融規制を緩和して安定的な金融政策を実現する、と述べ
たのです。まさに「トリクルダウン理論」「フラット税制」「ラ
ップァ一理論」などに沿った「供給サイドの経済学」の具体化で
す。さらにCは、マネタリズムの考えに従って、インフレ抑制の
ために通貨量を抑制して「ドル高」政策をとり、インフレ率を低
下させる方策を模索します。これらの政策は総合して「レーガノ
ミクス」と称せられますが、まさにこれは、戦後の福祉型資本主
義を破壊し、富裕層中心の新自由主義型資本主義への歴史的な政
策転換でした。               ──菊池英博著
   『新自由主義の自滅/日本・アメリカ・韓国』/文藝春秋
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 富裕層に対して減税し、企業に対しては法人税を下げる──素
人的に考えると、そんなことをすれば税収が減るのではないかと
考えます。しかし、こんな考え方もあるのです。
 富裕層の所得税を下げ、企業の法人税を下げると、ものが売れ
多くの投資が行われ、企業では、従業員の賃金を上げるところも
あって、経済全般に良い影響をもたらし、税収も上がるという考
え方です。これが「トリクルダウンの理論」です。
 これがウソであることは、安倍政権のアベノミクスで株価を上
昇させ、企業には法人税を減税しましたが、庶民には賃金が上が
るどころか、何の恩恵もなく、トリクルダウンなどは起きないこ
とがわかっています。おまけに消費税の税率を倍増させられ、そ
の分生活が苦しくなり、デフレに沈んだままです。
 「ラッファー理論」という理論があります。所得税率が0%と
100%という極端なケースを考えます。これは、政府にとって
税収を得ることは不可能です。なぜなら、0%では当然税収はゼ
ロであるし、100%では勤労する意欲がなくなるからです。し
たがって、0%〜100%のうちのどこかに最大の税収が得られ
る税率があるとします。
 もし、現在の税率がその「最適税率」を超える水準にあるとす
れば、減税によって、税率を「最適税率」まで下げることにより
税収を増やすことは可能である──これが、経済学者アーサー・
ラッファーによって提唱された「ラッファー理論」です。
 しかし、この理論には、実証的なデータは乏しく、その正当性
には多くの疑問があり、単にレーガノミクスの正当性を支える理
論のひとつに過ぎないとされています。
 レーガンの前任はカーター政権ですが、そのときの個人所得税
は14%〜70%、法人税の最高税率は46%でしたが、レーガ
ン大統領は、個人所得税の最高税率の70%を徐々に下げ、28
%、法人税も46%から34%まで下げています。それに加えて
減価償却期間の短縮などの実質減税をしているので、全体として
大幅な減税になったことは確かです。
 しかし、トリクルダウン理論はまったく機能せず、税収が激減
しただけです。当然ですが、これによって財政収支は大幅な赤字
に陥ったのです。これは、本来適正な税率によっては入ってくる
べき税収が負債、つまり国債に転化してしまったことを意味して
います。新自由主義政策を取り入れたレーガン時代の米国の状況
については、明日のEJでも継続します。
             ──[新しい資本主義/第004]

≪画像および関連情報≫
 ●「トリクルダウン理論」の解説
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   トリクルとは英語で水などがちょろちょろ漏れ出るの意。
  富裕層が潤い社会全体の富が増大すれば、富は貧困層にもこ
  ぼれ落ち、経済全体が良い方向に進むとする経済理論。その
  本質的なスタンスから「おこぼれ経済」とも言いなされ、現
  実的裏付けや社会科学的な立証はなされていない。
   この説が最初に注目されたのは、18世紀の英国の思想家
  で精神科医のマンデビルの著した『蜂の寓話』(1714年
  刊)からである。作中、蜂は巣の中で醜い私欲にまみれて葛
  藤するに過ぎないが、巣全体はその結果として豊かで富んだ
  社会となると考察した。こうした概念がアダム・スミスなど
  の古典派経済学を経て、ケインズらの近代経済学にも示唆を
  与えた。ただし、経済市場での需要(有効需要)に着目し政府
  が公共事業を増やすなどして、財政・金融的に介入する政策
  (総需要管理政策)に重きを置くケインズのマクロ経済学では
  トリクルダウン理論の部分はほとんど棄却されている。その
  一方で、供給側に着目する経済学派の中では、供給されたも
  のはいつかは消費され需要を生み出すという仮説に基づいて
  投資や供給力が拡大すれば経済成長が期待できるという論調
  もあり、この側面としてトリクルダウン理論が残っていた。
  1980年代にケインズ政策のほころびが大きくなる中で、
  米共和党レーガン政権が採用した経済政策では、後者の学説
  が色濃く反映され、トリクルダウン理論も強く主張されたが
  奏功しなかった。       https://bit.ly/3qPYD9D
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レーガン元米大統領.jpg
レーガン元米大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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