しょうか。今朝は米国の例です。
第2次世界大戦前の米国の資本主義は自由放任資本主義といっ
て、個人の経済活動の自由を最大限に保障し、国家による経済活
動への干渉・介入を極力排除しようとする思想や政策をとってい
たのです。この思想を経済学的に体系化したのは、経済学の父と
いわれるアダム・スミスです。
しかし、1930年代に大恐慌を起きたことにより、その修正
資本主義として、市場の機能は不完全だと考え、政府による福祉
への介入など、市場経済への介入を肯定するケインズ主義が取り
入れられたのです。米国は、ケインズ主義に基づくニューディー
ル政策によって、大恐慌を克服しています。
新自由主義は、1970年代にケインズ主義を批判し、盛んに
なった考え方で、政府の市場への介入を最小限にし、市場の働き
で社会全体の利益を最大にできるという自由放任主義に似た考え
方です。特徴としては様々なサービスの民営化や規制緩和などが
上げられます。
さて、米国の場合です。1970年代以降、米国には新保守主
義(ネオコンサバティズム)、略してネオコンという政治イデオ
ロギーがあり、彼らは、新自由主義・市場原理主義の思想が利用
できると歓迎したのです。
ネオコンというのは、自由主義や民主主義を重視して、米国の
国益や実益よりも思想と理想を優先し、武力介入も辞さない思想
です。もともと民主党のリベラル・タカ派だったのですが、以降
に共和党支持に転向して、共和党のタカ派外交政策姿勢に非常に
大きな影響を与えています。
これらのネオコン一派が、1980年11月の米大統領選挙に
元俳優のロナルド・レーガンを担いで、当選に導いたのです。自
分たちの利益になると判断したからです。ネオコンの支援によっ
て、大統領になったレーガンは、大統領就任後の2月に、次のよ
うな演説をしますが、これについて、経済アナリストの菊池英博
氏は自著で次のように書いています。
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1981年1月に就任したレーガン大統領は、2月18日に議
会で演説し、「アメリカは、大恐慌以来の最悪の経済的混乱にあ
る。インフレ率は12%、失業率は7・5%、金利は年20%で
ある」と国民に訴え、「経済再生計画」として、@小さい政府に
するために社会福祉関連予算を削減するが、「強いアメリカ」を
作るために軍事費を増加する、A所得税の最高税率を引き下げ、
法人税はいくつかの減税措置をとって大幅に削減する、B政府の
規制を大幅に縮小し、とくに環境問題などの社会的規制を撤廃す
る、C金融規制を緩和して安定的な金融政策を実現する、と述べ
たのです。まさに「トリクルダウン理論」「フラット税制」「ラ
ップァ一理論」などに沿った「供給サイドの経済学」の具体化で
す。さらにCは、マネタリズムの考えに従って、インフレ抑制の
ために通貨量を抑制して「ドル高」政策をとり、インフレ率を低
下させる方策を模索します。これらの政策は総合して「レーガノ
ミクス」と称せられますが、まさにこれは、戦後の福祉型資本主
義を破壊し、富裕層中心の新自由主義型資本主義への歴史的な政
策転換でした。 ──菊池英博著
『新自由主義の自滅/日本・アメリカ・韓国』/文藝春秋
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富裕層に対して減税し、企業に対しては法人税を下げる──素
人的に考えると、そんなことをすれば税収が減るのではないかと
考えます。しかし、こんな考え方もあるのです。
富裕層の所得税を下げ、企業の法人税を下げると、ものが売れ
多くの投資が行われ、企業では、従業員の賃金を上げるところも
あって、経済全般に良い影響をもたらし、税収も上がるという考
え方です。これが「トリクルダウンの理論」です。
これがウソであることは、安倍政権のアベノミクスで株価を上
昇させ、企業には法人税を減税しましたが、庶民には賃金が上が
るどころか、何の恩恵もなく、トリクルダウンなどは起きないこ
とがわかっています。おまけに消費税の税率を倍増させられ、そ
の分生活が苦しくなり、デフレに沈んだままです。
「ラッファー理論」という理論があります。所得税率が0%と
100%という極端なケースを考えます。これは、政府にとって
税収を得ることは不可能です。なぜなら、0%では当然税収はゼ
ロであるし、100%では勤労する意欲がなくなるからです。し
たがって、0%〜100%のうちのどこかに最大の税収が得られ
る税率があるとします。
もし、現在の税率がその「最適税率」を超える水準にあるとす
れば、減税によって、税率を「最適税率」まで下げることにより
税収を増やすことは可能である──これが、経済学者アーサー・
ラッファーによって提唱された「ラッファー理論」です。
しかし、この理論には、実証的なデータは乏しく、その正当性
には多くの疑問があり、単にレーガノミクスの正当性を支える理
論のひとつに過ぎないとされています。
レーガンの前任はカーター政権ですが、そのときの個人所得税
は14%〜70%、法人税の最高税率は46%でしたが、レーガ
ン大統領は、個人所得税の最高税率の70%を徐々に下げ、28
%、法人税も46%から34%まで下げています。それに加えて
減価償却期間の短縮などの実質減税をしているので、全体として
大幅な減税になったことは確かです。
しかし、トリクルダウン理論はまったく機能せず、税収が激減
しただけです。当然ですが、これによって財政収支は大幅な赤字
に陥ったのです。これは、本来適正な税率によっては入ってくる
べき税収が負債、つまり国債に転化してしまったことを意味して
います。新自由主義政策を取り入れたレーガン時代の米国の状況
については、明日のEJでも継続します。
──[新しい資本主義/第004]
≪画像および関連情報≫
●「トリクルダウン理論」の解説
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トリクルとは英語で水などがちょろちょろ漏れ出るの意。
富裕層が潤い社会全体の富が増大すれば、富は貧困層にもこ
ぼれ落ち、経済全体が良い方向に進むとする経済理論。その
本質的なスタンスから「おこぼれ経済」とも言いなされ、現
実的裏付けや社会科学的な立証はなされていない。
この説が最初に注目されたのは、18世紀の英国の思想家
で精神科医のマンデビルの著した『蜂の寓話』(1714年
刊)からである。作中、蜂は巣の中で醜い私欲にまみれて葛
藤するに過ぎないが、巣全体はその結果として豊かで富んだ
社会となると考察した。こうした概念がアダム・スミスなど
の古典派経済学を経て、ケインズらの近代経済学にも示唆を
与えた。ただし、経済市場での需要(有効需要)に着目し政府
が公共事業を増やすなどして、財政・金融的に介入する政策
(総需要管理政策)に重きを置くケインズのマクロ経済学では
トリクルダウン理論の部分はほとんど棄却されている。その
一方で、供給側に着目する経済学派の中では、供給されたも
のはいつかは消費され需要を生み出すという仮説に基づいて
投資や供給力が拡大すれば経済成長が期待できるという論調
もあり、この側面としてトリクルダウン理論が残っていた。
1980年代にケインズ政策のほころびが大きくなる中で、
米共和党レーガン政権が採用した経済政策では、後者の学説
が色濃く反映され、トリクルダウン理論も強く主張されたが
奏功しなかった。 https://bit.ly/3qPYD9D
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レーガン元米大統領