本主義に問題があると岸田内閣が考えているからです。現在の資
本主義は「新自由主義」といわれていますが、それと決別すると
いうのです。
新自由主義というのは、政府が経済に積極的に介入すべきであ
るとするケインズ主義とは対照的に、自由放任や自己責任を強調
する経済学の思想のことです。オーストリアの経済学者のハイエ
クや米シカゴ派のミルトン・フリードマンらが唱えた思想です。
その基本的なキーワードは次の3つです。
─────────────────────────────
@市場万能主義
A 小さい政府
B金融万能主義
─────────────────────────────
第1のキーワードは「市場万能主義」です。
フリードマンによると、自由な市場は価格機能によって資源の
最適配分ができるようになるので、富を最も効果的に配分できる
とします。そのためには、経済活動を可能な限り自由にすべきで
あると主張するのです。
さらに、市場に任せれば、失業問題は自然に解決するので、経
済活動の中心である企業活動を活性化させることを優先すべきで
あり、経済は供給サイドの強弱で決まるので、産業政策などは必
要なく、規制緩和と減税をすれば、供給サイドは強くなると主張
します。これが「供給サイドの経済学」です。
これは、政府が需要を管理し、調整することによって、経済は
安定し、成長するとするケインズ主義とは真っ向から対立するこ
とになります。
第2のキーワードは「小さい政府」です。
第1のキーワードの市場万能主義を実現するには、政府機能を
できるだけ縮小して小さい政府にし、富裕層に対して減税し、社
会保障制度を否定すればよいと主張します。そうすれば、富裕層
に富が集中し、経済が成長し、国家が栄える──これが新自由主
義者の主張です。しかし、これによって富裕層は栄えるが、中間
層以下はどうなるのかという批判が出るので、その理由付けのた
めに作られたのが「トリクルダウン」という考え方です。
経済政策は、所得を再配分することではなく、富を創造するた
めにあり、富裕層に富を集中させれば、富裕層は消費をするし、
投資もするので、中間層以下の人々は、そのおこぼれにあずかる
ことができるというのがトリクルダウンの考え方です。
第3のキーワードは「金融万能主義」です。
新自由主義は、小さい政府を主張するので、政府が行う財政政
策を否定し、中央銀行の行う金融政策を重視します。したがって
景気対策などは金融政策で行うべきであると主張します。しかし
そういう論拠に立つと、「大恐慌を解決したのは政府が大量の財
政出動をしたニューディール政策である」とする歴史的事実と論
理矛盾が起きてしまいます。
したがって、新自由主義者は「大恐慌を解決したのは、金本位
制を停止して管理通貨制にし、FRBが市場に資金を潤沢に放出
したからである」と主張します。これを「金融緩和回復説」と呼
んでいます。なお、このような金融万能主義のことを「マネタリ
ズム」といい、信奉者のことをマネタリストといいます。
ベン・バーナンキ氏という人物がいます。大恐慌の研究家とし
て著名な大学教授であり、あのリーマンショックの時のFRB議
長(日本でいえば日銀総裁)を務めていた人物です。彼は、根っ
からのマネタリスト、つまり、ミルトン・フリードマンの信奉者
として知られています。2002年にブッシュ米大統領(子)が
開催したフリードマンの誕生祝賀会において挨拶し、大恐慌につ
いてフリードマンに対し、次のように語っています。バーナンキ
氏は当時FRBの理事を務めていたのです。
─────────────────────────────
大恐慌の原因は、FRBの資金供給が不十分であったからだと
するあなたのご指摘は正しかった。FRBは2度と過ちはいたし
ません。 ──ベン・バーナンキ
─────────────────────────────
バーナンキ氏は「デフレを克服するには、ヘリコプターからお
札をばらまけばよい」と発言したことから、「ヘリコプター・ベ
ン」とか、「ヘリコプター印刷機」の異名をつけられ、デフレで
苦しむ日本に対しては、2001年3月からの日銀の量的金融緩
和政策は中途半端であり、物価がデフレ前の水準に戻るまで、紙
幣を刷り続け、さらに日銀が国債を大量に買い上げ、減税財源を
引き受けるべきだと訴えています。
安倍前政権になってからの日本は、「アベノミクス」と称して
黒田日銀総裁は、ほぼバーナンキ氏の主張に近い政策を取り続け
てきているものの、デフレからの脱却もトリクルダウンも起きて
おらず、株価が上昇しただけです。
バーナンキ氏は、2017年に来日し、5月24日に日本銀行
内で講演したさい、次のように語っています。これは、どのよう
に考えても反省の弁として受け取れます。
─────────────────────────────
私はよく理解できていなかった。特に初期の論文では楽観的過
ぎた。中央銀行がデフレを克服できると決意して金融緩和策を行
うことに私は確信を持ち過ぎた。 ──ベン・バーナンキ氏
─────────────────────────────
リーマンショック時の2006年から2014年までFRB議
長を務めたバーナンキ氏は、かねてからの主張通り、超金融緩和
を実施していますが、どうも彼はその結果に納得がいかなかった
ようで、FRB議長を退任するとき、「量的金融緩和の経済効果
は理論的に証明されていない」と周囲に打ち明けたということが
伝えられています。これは、バーナンキ氏の疑問として伝えられ
ています。 ──[新しい資本主義/第002]
≪画像および関連情報≫
●バーナンキFRB前議長、リーマン破綻「不可避だった」
ニューヨークのシンポで
───────────────────────────
【ニューヨーク=佐藤大和】米連邦準備理事会(FRB)の
ベン・バーナンキ前議長(60)は、2014年10月8日
ニューヨークで「日経アジアン・レビュー(NAR)」が協
賛した、シンポジウムで講演し、任期の大半を費やした20
08年の金融危機への対応を振り返った。米大手証券リーマ
ン・ブラザーズの破綻は「不可避だった」と釈明した一方で
その後の一連の対策で「金融システムはより強固になった」
と自信も示した。
バーナンキ氏が講演の冒頭で強調したのはリーマンの経営
問題が取り沙汰されていた08年9月当時の雰囲気だ。そも
そもなぜリーマンを救わずつぶしたのか――。破綻の影響が
あまりに甚大だっただけに、いまもFRBが最大の批判を浴
びるのはこの点だ。
この批判を心外だとバーナンキ氏はいう。「むしろ(放漫
経営の)リーマン破綻やむなしと傾いていたのは英米経済紙
の社説や専門家。我々にそんな甘い認識はなかった」と反論
した。「破綻回避に全力をあげたが、バンク・オブ・アメリ
カはリーマンではなくメリルリンチを救済した。バークレイ
ズは(英国)当局の介入でリーマンの買収を見送った」と内
幕も明かした。「リーマンからは顧客、取引先のみならず従
業員も逃げ出していた」という状態で、手の打ちようがなく
なっていた。 https://s.nikkei.com/3sU6fdL
───────────────────────────
日本銀行で講演するバーナンキ氏