2007年07月19日

●なぜ、財政政策を否定するのか(EJ第2125号)

 経済政策を調べていくと、経済学界はそのよって立つ思想の対
立の激しい世界であることがわかってきます。そして、その流れ
をさかのぼると、「マルクス主義」と「ケインズ主義」に行きつ
くのです。前回のEJで取り上げた丹羽春喜教授によると、冷戦
を次のように定義づけているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 冷戦とは、経済思想的には、マルクス主義とケインズ主義の対
 立である。               ――丹羽春喜教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 マルクス主義陣営は「ケインズ主義は軍拡を意味する」として
ケインズ的政策論を誹謗・中傷したのです。しかし、ソ連や東欧
の共産圏諸国の経済が極度の不振に陥り、1960年以降になる
と、マルクス主義陣営の政治的、社会的、経済的パワーは全世界
的に弱体化するに至ったのです。
 ところがこの20年ほどを見ると、米国において新古典派経済
学者グループが反ケインズ主義を唱えるようになり、それに隠れ
マルクス主義者たちが呼応するようになったのです。丹羽春喜教
授によると、日本の旧経済企画庁はそういう一派によって占めら
れていたというのです。
 こうした反ケインズ主義を唱える一派が主張するのが財政再建
であり、財政均衡なのです。自民党の憲法調査会が「財政均衡」
を憲法に明記しようとしていることから考えても、日本の経済学
界も反ケインズ主義の傾向が強いことがわかります。とくに財務
省はその巣窟であるといえます。
 もともと経済政策には、財政政策と金融政策の2つがあり、経
済の局面に合わせてそれぞれの政策を使い分けるべきものである
と考えます。少なくとも2つの政策がよって立つ経済思想によっ
て、どちらかが封印されるようなことがあってはならないと思う
のですが、現状は財政政策は劣勢であり、金融政策が大きな力を
得ているように感じます。
 実は国のとる経済政策と戦争には密接な関係があるのです。あ
の大恐慌が発生したときの米国大統領はフーバーでしたが、彼は
信仰にも似た均衡財政論者であり、あの不況期において財政出動
を一切考えなかったのですから、徹底しています。
 そのため世界経済は大恐慌に突入してしまったのですが、さら
なる悲劇を生んだのはドイツなのです。というのは、当時のドイ
ツ首相のブリューニングも均衡財政論者であり、その不適切な経
済運営によって、ただでさえ疲弊していたドイツ経済は奈落の底
に沈んでしまったのです。
 そこに突如として登場したのはヒットラーなのです。一般的に
ヒットラーというと、類まれなるカリスマ性で一挙にドイツ国民
の心を掴んだと思われていますが、ヒットラーが国民の強い支持
を勝ち取ったのは、彼のとった経済政策の成功にあるのです。
 当時のドイツは、クー氏によると「陰」の局面にあったのです
が、ヒットラーは積極財政を打ち出し、あっという間に30%の
失業率を2%までに劇的に引き下げてしまったのです。
 そのあまりにも見事な経済政策の成果でヒットラーは神格化さ
れ、絶大なる人気を掌中にしたのです。しかも、ヒットラーがド
イツに好景気をもたらしたのに、当時のイギリスやフランスは依
然として均衡財政にこだわり、景気回復が大幅に遅れ不況が継続
していたのです。
 ドイツ国民は、イギリスやフランスとのあまりの違いに驚き、
ヒットラーを賞賛したのです。当時の米国はルーズベルト大統領
のニューディール政策による公共事業によって、ようやく景気の
回復がはじまっていたのですが、もともと均衡財政論者のルーズ
ベルトは、1937年に財政再建をはじめ、せっかく上昇しつつ
あった景気を潰してしまったのです。
 この間もドイツの経済は活性化し、米英独仏との経済格差は拡
大したのです。これによってヒットラーは自信過剰になり、今な
らイギリスとフランスを敵に回しても勝てると踏んで、第2次世
界大戦を引き起こしたのです。
 実はヒットラーは米国を非常に警戒していたのです。とくに米
国が1935年に完成させたボーイングB−17四発重爆撃機を
極度に恐れていたのです。なぜなら、ドイツにはこれに匹敵する
爆撃機は一機もなかったからです。
 しかし、この爆撃機は緊縮財政が組まれていたため、生産が大
幅に遅れ、ヒットラーが開戦に踏み切った1939年9月の時点
では、わずかに30機が配備されていただけだったのです。ヒッ
トラーはこういう情勢を分析して開戦に踏み切り、連戦連勝を重
ねたのです。
 イギリスの著名な経済学者であるジョ−ン・ロビンソン女史は
ヒットラーの経済政策について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ケインズ革命はトライアンフ――勝利ではなく、トラジェデイ
 ――悲劇であった。ケインズがなぜ失業が発生したかの説明を
 始める前前に、ヒットラーがその解決法を見つけてしまったか
 らだ。           ――ジョ−ン・ロビンソン女史
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在もドイツはバランスシート不況下にありますが、EUのマ
ーストリヒト条約の縛りで、思い切った財政出動が打ち出せない
でいます。欧州連合(EU)は、通貨ユーロの信認を保つため、
財政収支を2010年までに均衡させる目標を掲げており、その
ため、ドイツは苦肉の策の経済運営を強いられています。
 結局ドイツは2008年度予算において、新規国債の発行を前
年度比40%削減し、税収の自然増収を見込んで法人税減税を実
施し、2011年に均衡させる計画を立てています。
 これに対して、サルゴジ大統領が率いるフランスでは、財政再
建を一時棚上げし、経済活性化を講じ、2O12年に財政均衡を
実現するとしていますが、果たしてうまく行くかどうか結果が注
目されます。        ――[日本経済回復の謎/34]


≪画像および関連情報≫
 ・サルコジ流EUと摩擦――ブリュッセル――岸善樹
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フランスのサルコジ大統領が打ち出した2兆円近い減税案を
  めぐり、仏と欧州連合(EU)の摩擦が激しくなっている。
  自国の成長路線を優先する仏に対し、EU域内では「財政規
  律を定めたEUルールの棚上げだ」との反発が強い。5月の
  発足以来、ドイツとの協調で欧州を引っ張ってきたサルコジ
  政権だが、ここにきて仏伝統の「独自路線」が顔をのぞかせ
  ている。      ――2007.7.10付、朝日新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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