事が掲載されたのです。
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◎五輪アブリ
内閣官房調査/職員、見積もり漏らす
──2021年8月21日付、朝日新聞
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ちょうどEJは、テーマとして日本政府のデジタル化の問題を
取り上げています。特許庁の基幹システム計画については、5年
という年月と54億5100万円という巨額の資金を無駄にして
結局開発中止に追い込まれています。しかも、特許庁技官の3名
が収賄容疑で逮捕されるという深刻なおまけ付きです。
この五輪アプリの事件について検討する前に、前提条件として
知っておくべきことから述べることにします。
日本がデジタル化に遅れていることは、誰でも知っていること
ですが、1970年代から80年代にかけては、日本はデジタル
化において世界のトップにいたのです。このようにいうと、ウソ
だと思う人もいると思いますが、本当のことです。日本が世界を
リードしていたデジタルイノベーションの例を以下に上げてみる
ことにします。年代はおおよそです。
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@液晶ディスプレイ 1968年
Aリチウムイオン電池 1979年
Bスーパーコンピュータ 1970年
C光媒体 1972年
DQRコード 1992年
Eデジタルカメラ 1970年
FDVD 1990年
G非接触ICカード技術 1995年
H太陽電池セル 1955年
I多機能携帯電話 1996年
https://bit.ly/3D2NmYO
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1900年代は、これほど日本初のデジタル技術があるのに、
なぜ日本のデジタル化(情報技術)は遅れているのでしょうか。
情報技術は、1980年代を境に大きく変貌したのです。それ
以前のデジタルシステムは、メインフレームコンピュータを中心
とするシステムのことです。メインフレームコンピュータとは、
大組織の基幹業務用などに使用される、いわゆる大型コンピュー
タのことです。
ところが1990年代以降に米国を中心にIT革命が進展し、
コンピュータの仕組みが大きく変化することになります。PCが
導入され、オープンな仕組みが採用されることになったのです。
オープンな仕組みとは、公開(オープン)されている仕様に準拠
したソフトウェアやハードウェアを利用することで、異なるベン
ダーを組合せて構築されたシステムのことです。
ちなみに、ベンダーとは「売り手」を指す言葉です。売り手で
あるベンダーがソフトウェアなどを作っている場合は製造者(メ
ーカー)ともいいます。一方で、自分で製造せず、どこか別のと
ころから仕入れている場合もありますが、これもベンダーと呼ば
れるのです。
メインフレームの場合は、1社のみのハードウェアおよびソフ
トウェアで構成されることが多かったのですが、オープンシステ
ムになると、マルチベンダーになることが多くなります。
このようなオープンシステムを組織化する役割を担う業者のこ
とを「SIer/エスアイヤー」と呼んでいます。日本の有力な
SIerとしては、富士通、日立製作所、NTTデーター、NT
Tコミュニケーションズ、NEC、IBM、日鉄ソリューション
ズなどがあります。
SIerの「SI」とは、システムインテグレーションの略で
あり、コンピュータやソフトウェア、ネットワークなどを組み合
わせて利便性の高いシステムを作ることです。顧客のシステムイ
ンテグレーションを一括で受託する専門事業者をシステムインテ
グレーターと呼びます。
しかし、日本の場合の問題点として、野口悠紀雄名誉教授は次
のように述べています。
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問題は、日本の場合には組織とSIerが固定的な関係になっ
てしまうことだ。こうなる大きな理由は、組織のトップにITの
知識を持った人が少なく、SIerに丸投げしてしまう場合が多
いことだ。SIerとしては、より効率的な仕組みを作るよりは
従来の仕組みを維持し、それを更新し続けることによって利益を
得ることに関心が向く。このようにして、組織別のバラバラな仕
組みが温存され、全体としての最適化が達成されない事態が生じ
たのである。 ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
『良いデジタル化/悪いデジタル化/
生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
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最大の問題は、省庁やユーザー企業の情報部門にITエンジニ
アが少なく、どうしてもSIerに丸投げしてしまうことです。
諸外国の場合は、ユーザー企業に多くのITエンジニアを抱えて
おり、開発を主導しているので、社内へのノウハウの伝播が容易
であり、社内にノウハウが蓄積されるのです。
これに対して日本の場合は、ITエンジニアがSIerやベン
ダーに所属しているので、開発に当たってはどうしてもSIer
やベンダー主導になってしまう。もちろんユーザー企業では、I
Tエンジニアは育たないし、システム開発のノウハウもユーザー
企業に残らないのです。こういうやり方なので、ユーザー企業と
SIerが癒着してしまうのです。
──[デジタル社会論V/011]
≪画像および関連情報≫
●「日本のシステム業界は丸投げ文化である」
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開発の実態として丸投げが横行していることは多くの関係
者が認めるところである。それにもかかわらず、本当の当事
者はそれを認めたがらないため、状況は改善されない。
ユーザ企業側で、丸投げにより恩恵にあずかれるのは発注
担当者だけである。実質的に何も仕事をしなくてもSIベン
ダからお殿様扱いされ、システムができあがっているのだか
ら、こんな楽なことはない。
仕事の流れは単純だ。ユーザ企業の発注担当者は発注権限
に基づき発注を行うが、要件定義書ひとつ作成するわけでは
ない。せいぜい、数枚程度のメモ書きのようなものがあるだ
けである。お抱えの元請けベンダの営業マンも慣れたもので
ある。仕様もあいまいなままに「なんとかしましょう、お任
せください」を通用させてプロジェクトをスタートさせてい
く。スタートのいいかげんさが後に尾を引くことは誰もが経
験していることであろう。度重なる仕様の追加要求を「ご無
理、ごもっとも」とばかりに受け入れ、際限なくプロジェク
トのスコープは膨張していく。それでも、なんとか、とにも
かくにも納品までこぎ着け、営業マンは次の仕事を頂戴しに
行くわけである。
その結果、割を食うことになるのは、SIベンダの技術者
とシステムのエンドユーザ、そしてユーザ企業の経営者であ
る。開発メンバには無理が、ユーザ企業にはさまざまな意味
で損害が襲いかかってくる。 https://bit.ly/2XQhw1v
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野口悠紀雄名誉教授