2021年08月17日

●「厚労省による屋上屋システム構築」(第5552号)

 2020年6月頃の話ですが、病院ではマスクや防護服などの
必須の医療部品が不足してコロナ医療に支障をきたすという事態
が発生したのです。
 厚労省は、こういうときに備えて「EMIS」というシステム
を用意し、2006年から運用を開始しています。阪神淡路大震
災が発生したさいに医療機関同士で情報をうまく共有することが
できず、特定の病院に患者が集中するなど効率的な災害対応がで
きなかったことを教訓として構築されたシステムです。EMIS
は、次の言葉の省略したものです。
─────────────────────────────
    ◎EMIS
     Emergency Medical Information System
─────────────────────────────
 したがって、もしEMISがちゃんと機能していれば、必要な
医療物資が病院で不足するはずがなかったはずなのです。ところ
が、肝心な医療物資の項目は「医薬品・衛生資器材」とあるだけ
で、必要な物質ごとの必要数を入力できなかったのです。愕然と
した厚労省は、EMISの開発やメンテナンスを担当していたN
TTデータに対応を指示しましたが、担当者から戻ってきた返答
は、次のようなものだったのです。
─────────────────────────────
 もし、システムを改修するとなると、大改修になり、関係者の
同意や改良後の動作検証などが必要となるので、月単位の時間が
かかる。
 ──NTTデータ三嶋大二郎救急医療ソリューション担当部長
        2020年6月25日付、日本経済新聞電子版
               https://s.nikkei.com/3CQD0eo
─────────────────────────────
 「月単位」と聞いて厚労省は、このシステムの改修をあきらめ
急遽臨時のシステムを作って対応したと思われます。明らかな二
重投資です。厚労省の地域医療計画課は、「EMISは自然災害
に特化していたため」と釈明していますが、2018年春の救急
・災害医療提供体制に関する有識者会議で、専門官は「感染症流
行時でも使える」と明言しているのです。
 それでは、EMISは自然災害時には本当に役に立っていたの
でしょうか。実は2018年と2019年の地震時にEMISは
接続不良に陥っています。このとき、さすがの厚労省も肝心の有
事に使えないシステムに見切りをつけ、神奈川県で使っているク
ラウド型医療情報システム(サイボウズのサービスを利用)を採
用し、乗り切っています。EMISがなぜ肝心なときに、役に立
たないのかについて、日本経済新聞は次のように書いています。
─────────────────────────────
 厚労省はシステム所有者のNTTデータに任せっきりだった。
古い技術に機能が次々と加わり、肥大化。国と自治体が支払う年
間利用料は計3億円以上となり、国の負担は10年前の2倍を超
えた。厚労省は技術に疎く、NTTデータは維持管理で稼ぐこと
に執着する。自前の専用サーバーを持たずにネット上で設計を柔
軟に変えられるクラウド技術を敬遠してきた。
        2020年6月25日付、日本経済新聞電子版
               https://s.nikkei.com/3CQD0eo
─────────────────────────────
 いざというためのシステムが、いざというとき役に立たない。
まるでマンガです。システムがあまりにも複雑で、硬直的であり
後からの追加や修正に時間や手間がかかり、使い勝手がよくない
システムになっていたのです。
 それでは、クラウド型医療情報システムを導入したのだから、
EMISは廃止するのかというと、残すというのです。医師派遣
や搬送患者の情報登録など、新システムにない機能があるからだ
というのが理由です。これでは、システムが屋上屋になり、コス
トも何倍もかかることになります。
 厚労省ひとつとっても、ロコナ禍のような非常時になると、大
金を使って、いくつものシステムを屋上屋に開発し、積み上げて
しまうのです。それらが全体としてどのように関連しているのか
全体層が不明確になっています。新型コロナウイルス関連に絞っ
ても、以下のようにたくさんのシステムがあるのです。
─────────────────────────────
▼ワクチン関係
 V−SYS:ワクチン接種円滑化システム
 VRS:ワクチン接種記録システム
▼災害時医療情報共有
 EMIS:広域災害緊急医療情報システム
 GMIS:
 新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム
▼感染症の発生状況の把握
 HER−SYS:
 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム
 MESID:感染症発症動向調査
 COCOA:新型コロナウイルス接触確認アプリ
▼検疫
 空港検疫業務システム
 統合型入国者健康情報等管理システム
▼人材配置
 Key−Net:医師・看護師・医療人材の求人情報サイト
─────────────────────────────
 一番問題なのは、システムの発注側である厚労省の担当者が、
システムのことをまるでわかっていないことです。したがって、
システムの開発目的、何ができて何ができないか、既存システム
との関連性や機能、使い勝手にいたるまで、システムベンダーに
すべて設計を丸投げしてしまうのです。
             ──[デジタル社会論V/006]

≪画像および関連情報≫
 ●『倉持仁院長 菅首相に「僭越ながら申し上げます」酸素
  ステーションについて』へのユーザーの意見まとめ
  ───────────────────────────
   菅義偉首相 宇都宮市「インターパーク倉持呼吸器内科」
  の倉持仁院長が14日までにツイッターに投稿し、菅義偉首
  相が新型コロナウイルス対策として「酸素ステーションを」
  と述べたことに、「今どこかわからない国から空爆を受けて
  いるような日本。血だらけで手当が必要な人がたくさんいる
  のに酸素ステーションってなんだよ」と疑問を呈した。
   倉持院長は、菅首相が「酸素ステーション」について13
  日に発言したことを報じる記事を引用し、「こういった指示
  はオリンピック中に出しておくべき事。僭越ながら申し上げ
  ますが、酸素投与しなくて済むように投薬が必要です。コロ
  ナに対する酸素投与はあくまでも対症療法です。数もそんな
  にありません。ワクチンワクチンいうのはワクチンがきてか
  らお願いします!」と投稿した。
   さらに別の投稿で倉持院長は「コロナを見る医療体制を整
  えるには診療報酬制度で明確に決めなければ無理。医師会が
  勝手に病床作れっていってやったら罰せられます。きちんと
  国会で法整備し政治判断で早急に行うべき事。エビデンスな
  いね。これできないよねーって、安易に素人関係閣僚で票を
  考え、現状でできる事で対応が無能無責任」とも記した。
   倉持院長はまた、「今どこかわからない国から空爆を受け
  ているような日本。血だらけで手当が必要な人がたくさんい
  るのに酸素ステーションってなんだよ。空爆を止めさせるの
  が国の仕事!今すぐこんばんはガースーです、空爆をやめて
  くださいっていってください」と皮肉をまじえて要請した。
                  https://bit.ly/3jYXcSI
  ───────────────────────────
新型コロナに関係する情報システムの全体像.jpg
新型コロナに関係する情報システムの全体像
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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