2021年08月10日

●「デジタル庁創設の真の目的は何か」(第5547号)

 2020年6月26日の記者会見で、麻生財務相は次の発言を
しています。
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  一番ひでぇのが首相官邸だな。しょっちゅう音が切れる
                  ──麻生太郎財務相
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 何の話かというと、テレビ会議の話です。中央官庁ではテレビ
会議のできるように必要な設備は一応整っています。しかし、そ
れがすぐ「音が切れたり、つながりにくくなる」というのです。
いつの話をしているのかというと、2020年の各省庁がそうい
う状態だといっているのです。どうしてこんな状態に、なってし
まっているのでしょうか。
 これについて、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、近著にお
いて、次のように述べています。
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 中央省庁は、オンライン会議システムについて、各省庁が個別
に日鉄ソリューションズ、NTTコミュニケーションズ、富士通
などと契約して通信網を構築した。そしてマイクロソフトの「ス
カイプ・フォー・ビジネス」やシスコの「ウェブエックス」など
をバラバラに採用してきた。
 同じ省庁内のオンライン会議は専用LAN(構内情報通信網)
を使うため支障はないが、他省庁や外部との会議では、システム
に接続ができず、わざわざ他省庁に出向いたり、会議に参加でき
なかったりする職員が出た。こうした記事を読んでいると、さら
に疑問が膨らむ。同じ省庁内でテレビ会議ができても、あまり意
味がない。せいぜい在宅勤務に使えるくらいだろう。実際には、
在宅勤務にも使えなかった。2020年5月には、テレワークの
申請を断られる職員が相次いだそうだ。容量の制限で回線に限り
があるからだ。     ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 何のことはない。各省庁でIT予算をバラバラに取得し、大手
ITベンダーに丸投げして、それぞれ勝手なシステムを構築して
いたことになります。タテ割の弊害がモロで出ているということ
になります。
 要するに、2021年9月1日発足のデジタル庁の真の目的は
「IT調達予算の一元化」にあるのです。対象となる政府IT予
算は毎年およそ7000億円ですが、これまで各省庁が個別に要
求していたものを内閣官房に一本化することで、各省庁で同じよ
うなシステムをつくる無駄を省き、真に必要なデジタル投資を増
やすことに目的があるのです。
 しかし、デジタル庁を創設することで、それが本当にできるか
ということになると、これまでの日本のIT化の経緯を振り返る
と大きな疑問が生じます。これまでも同じようなことを繰り返し
てきているからです。
 日本は、2001年に「IT基本法」を制定しています。この
法律の正式名称は次の通りです。
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     高度情報通信ネットワーク社会形成基本法
    2000年11月制定/2001年1月施行
─────────────────────────────
 この法律は、インターネットの利便性を享受できる環境整備を
整え、同時に打ち出した「イー・ジャパン戦略」によってその実
現を図ろうとしたのです。「イー・ジャパン戦略」の政府文書に
は、次の記述があります。
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 我が国のIT革命への取り組みは大きな遅れをとっている。変
化の速度が極めて速い中で、現在の遅れが将来取り返しのつかな
い競争力格差を生み出すことにつながることを我々は認識する必
要がある。       ──政府「イー・ジャパン戦略」より
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 2001年というと、平成13年、森喜朗内閣のときです。森
首相はITを「イット」と呼んで話題となり、顰蹙を買ったもの
の、今から考えると、ITに関するいろいろな施策を展開して内
閣でもあったのです。森内閣は、企業へのPC導入を加速させる
ため、税制優遇措置を設けたり、全国レベルで無料のPC教室を
開いてITリテラシーをマスターさせるなどの施策が展開されて
いるのです。これは正しい対応といえます。
 さて、「イー・ジャパン戦略」では、必要なインフラ整備やそ
の用途である行政デジタル化目標を掲げていましたが、インフラ
整備の方は早急に達成できたものの、行政のデジタル化──電子
行政「国の全行政手続きのオンライン化」の方は、20年が経過
した2021年の現在でも完全に未達になっています。
 2006年の安部第1次内閣でも「IT新改革戦略」を掲げて
「世界一便利で効率的な電子行政」という目標を掲げているもの
の進んでいるとはいえないのです。しかし、全行政手続きをオン
ライン化する目標では、2018年には86%まで達成したもの
の、その利用件数は46%にとどまっており、2006年目標の
50%に届いていないのです。
 ここまでEJは、「デジタル社会論T」「デジタル社会論U」
として、主としてデジタル社会への変貌が金融機関にどのような
影響を与えるかの視点に立って書いてきましたが、今度は日本の
デジタル化の問題を中心に、次のタイトルにしたがって、書いて
いくことにします。
─────────────────────────────
  デジタル庁の創設で日本のデジタル化は本当に進むのか
   ── 日本のデジタル化政策の問題点を探る ──
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/001]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタル庁を創設するという政府が、コロナ対策でデジタル
  を活用できないわけ
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   政府は新型コロナに関する様々なデータを持っているはず
  です。それなのに、何故それらを公表しないのでしょうか。
   ・感染が拡大時および減少時に、人々の行動はどうだった
    のか。
   ・どのような行動を取れば、感染する可能性が高まるのか
    低くなるのか。
   ・旅行が原因の感染者は何人で行ったのか、何泊したのか
    移動手段は何だったのか。
   ・飲食が原因の感染者は何人で行ったのか、時間帯はいつ
    か、お酒を飲んだのか。
   政府がこれらのデータを具体的な数字で示せば、国民全体
  で避けなければならない行動を認識・共有することができま
  す。しかしそれができないのは、これらのデータを公表する
  と、これまでの政府が意固地になって続けてきた経済振興策
  「GоTо」事業や感染抑止の指針がおおよそ誤りだったと
  ばれてしまうからなのかもしれません。
   政府筋によれば、たとえば会食の参加者が4人や3人の場
  合でも感染者が増えているといいます。政府のいう「会食は
  4人以下で」という基準が、実は感染を拡大させていたとい
  うわけです。中世のヨーロッパで大流行したペストにしても
  第1次大戦中に世界中に拡大したスペイン風邪にしても、過
  去の歴史が私たちに教えてくれるのは、人々の移動の増加が
  感染症拡大の主たる原因になっているということです。
                  https://bit.ly/3jCNJ3i
  ───────────────────────────
政府のIT戦略会議での森総理(当時).jpg
政府のIT戦略会議での森総理(当時)
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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