2021年07月07日

●「スタートアップと組む日本の銀行」(第5526号)

 JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスという米国
の代表的な金融機関の変貌について調べてきましたが、日本の銀
行はどう対応しているのでしょうか。日本の銀行についても少し
調べてみることにします。
 日本の銀行も頑張っています。まず、取り上げるべきは、20
15年からはじまったMUFG(三菱UFJフィナンシャル・グ
ループ)の次の取り組みです。
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    MUFGデジタル・アクセラレータ・プログラム
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 これは、邦銀初のスタートアップアクセラレータ・プログラム
のことです。
 このプログラムは、決済、融資、資産運用などのフィンテック
領域や、AI、ブロックチェーン、IоTなどの先端技術を活用
した事業領域を主な対象として、MUFGが総力をあげて事業プ
ランのブラッシュアップ、プロトタイプの構築支援、事業プラン
の方向性に合わせたパートナー選定、アライアンスなど、事業化
に向けたステップを全面的に支援する約4ヶ月間のアクセラレー
タプログラムです。
 MUFGでは、2016年までの10年間で、銀行窓口を訪れ
る顧客が約4割減少する一方で、ネットバンキンクの利用者は、
この5年間で約4割増えています。つまり、明らかなデジタルシ
フトが起きているのです。
 そういうわけで、MUFGは、2023年までに窓口で店員が
接客する支店を半減させ、自動化の進んだ次世代店舗を増加させ
る計画をかなりのスピードで実行しています。私がよく行く池袋
の東口駅前には、三菱UFJ銀行が2店舗あったのですが、今年
から駅に近い店舗はATMだけになり、遠い方が窓口業務を行う
次世代店舗に変貌しつつあります。こういう銀行店舗改革が日本
の各地で起こりつつあります。
 JPモルガンの「イン・レジデンス」やMUFGデジタル・ア
クセラレータ・プログラムのような試みは、本来自らをディスラ
プスト(破壊)しかねない新興フィンテック企業と組む戦略です
が、実は双方にメリットがある妙手なのです。この提携によって
新興フィンテック企業側と、既存金融機関側の双方が得られるメ
リットについて、田中道昭氏の本から引用します。
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◎フィンテック企業側のメリット
 @既存金融機関の顧客にリーチできる
 A知名度や消費者からの信用が増す
 B複雑な金融規制やコンプライアンスへの理解が向上する
 Cリスク管理ノウハウを獲得できる
 D資金調達力がアップする
 Eグローバル決済システムにアクセスできる
 F独自に銀行免許を取得しなくてよい
◎既存金融機関が受けるメリット
 @レガシーシステムの制約を受けることなく、新しいアイデア
  を試すことができる。
 Aビッグデータや人工知能など先端技術を活用したサービスを
  顧客に提供できる
 B融資などのサービスを、従来より低コストで素早く顧客に提
  供できる
 C今までは手が回らなかった、ややニッチな領域のサービスも
  提供できるようになる
 Dカスタマーエクスペリエンスを改善し、ミレニアル世代など
  新規の顧客層の開拓が期待できる。    ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
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 MUFGは、日本の銀行のなかでは、DX(デジタルトランス
フォーメーション)の取り組みでは一番進んでいるといえます。
MUFGは2017年9月に「デジタルトランスフォーメーショ
ン戦略」を発表していますが、そのなかで、「伝統的な銀行業務
からの脱却」を宣言しています。
 その本気度は、CDTO(チーフデジタルトランスフォーメー
ション)という役職を設け、取締役専務執行役員の亀澤宏規氏を
就任させています。さらに「デジタル企画部」を設置し、外部の
知見も活用する体制を整えています。このCDTOという役職と
デジタル企画部という組織について、MUFGのCDO(チーフ
・デジタル・オフィサー)である安田裕司氏は、次のようにコメ
ントしています。
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 銀行は今デジタル化の洗礼を受けて、ディスラプターの挑戦を
受ける立場にあります。これまでのビジネスモデルが変わってい
く中で、どうしていくのかは大きな課題です。金融機関が長年培
ってきた“信頼”や“品質”といったものに解を求めていくこと
になるのではないかと思います。
 仮想通貨(暗号資産)による送金なども話題になっていますが
銀行は送金のインフラをすでに多大なコストをかけて作っていま
すし、マネーロンダリング対策には膨大な労力をかけています。
 それを生かした新しいビジネスモデルなどは、スタートアップ
企業とうまく組み合わせることによって、いろいろと提供できる
のではないでしょうか。そのようなデジタルトランスフォーメー
ションに関しては、CDTOという役職とデジタル企画部という
部署が別にあります。われわれは、そういう動きの役に立つよう
に、正しいデータを使いやすいように提供することによって、デ
ジタルトランスフォーメーションに貢献するということです。縁
の下の力持ちのような存在ですね。  https://bit.ly/3ykJNKk
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             ──[デジタル社会論U/054]

≪画像および関連情報≫
 ●国内企業でも急増しはじめた「CDO」とは?
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   「CDO」という役職をご存じだろうか。
   CDOは、チーフ・デジタル・オフィサー(最高デジタル
  責任者)、またはチーフ・データ・オフィサー(最高データ
  責任者)の略だ。CEO(最高経営責任者)やCOO(最高
  執行責任者)が組織の業務執行を統括するように、CDOは
  組織のデジタル変革を経営の視点で推進する役割を担う。
   欧米では、CDOという役職が4〜5年前から使われ始め
  すでに多くの組織(企業だけでなく、行政や公共機関なども
  含む)が、CDOを設置している。主にCDOを対象とした
  コミュニティであるCDOクラブが把握している範囲でCD
  Oという役割を担う人材はすでに6000人を超えている。
  このことからも、世界的には一般化した役職であることがわ
  かると思う。一方、国内ではこれまで実際に「CDO」とい
  う肩書きを持つ人がほとんどいなかった。ところが2018
  年に入り、まさに「CDO元年」と言えそうな動きが出てき
  ている。筆者が所属しているCDOクラブジャパンの調べに
  よると、2018年に入ってから、国内企業でCDOまたは
  それに類する肩書きを任命された人が少なくとも40人に増
  えたと見られる。
   必ずしも肩書きが、その人のミッションを適切に表すもの
  とは限らないが、国内でCDOという肩書きが増えていると
  いうことは、それだけデジタル変革の必要性を痛感している
  組織が多くなっている、ということを示している。
                  https://bit.ly/36c00W2
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三菱UFJ銀行本社ビル.jpg
三菱UFJ銀行本社ビル
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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