2021年07月02日

●「ペイパルマフィアが活躍している」(第5523号)

 GAFAを代表とする巨大IT企業によるフィンテック攻勢に
対して、既存金融機関はどのように対応しているのでしょうか。
この問題についても考えてみることにします。既存金融機関とテ
クノロジー企業との攻防です。
 すべては、リーマンショック後に起きているのです。リーマン
ショックとは、米国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホ
ールディングスが、2008年9月15日に経営破綻したことに
端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象のこと
をいいます。そのとき、何が起きたでしょうか。
 そのとき、米国政府は70兆円もの公的資金を投入し、金融機
関の救済を図っています。このとき、国の資金が投入されなかっ
た大手金融機関は絶無です。そうしないと、金融システム危機が
発生し、米国の経済が壊滅してしまうからです。さらに世界を牽
引している米国経済が破綻すると、世界経済にも深刻な打撃を与
えることになるからです。
 しかし、この国家を挙げての金融機関への救済措置は、市民に
とって不条理なものに感じられたのです。「従来は顧客を無視し
て好き放題に荒稼ぎし、それによってバブルがはじけると、国の
お金で救済されるとは納得がいかない。なぜなら、そのお金は市
民が収めた税金なのだから」という批判です。
 この市民の批判の高まりは、次第に金融機関に対する怒りとい
うか、嫌悪感に変わり、それが新しいテクノロジー企業による金
融サービスを求める雰囲気を高めたといわれています。そのとき
登場した企業が「ペイパル」です。
 ペイパルは、1998年12月にピーター・ティール氏とイー
ロン・マスク氏によって設立されています。2002年にイーベ
イに買収され、その子会社になっていましたが、2015年7月
に「ペイパル・ホールディングス」の社名で独立し、現在も高成
長を続けています。今や2億5000万人が利用する世界最大級
の決済サービスになっています。
 ペイパルがイーベイに買収されたとき、ペイパルから多くの人
材が流出しましたが、その人材のことを「ペイパル・マフィア」
と呼んでいます。シリコンバレーで影響力を持つ人材をそう呼ん
でいるのです。
 電気自動車メーカーの「テスラ」を経営し、ロケット開発会社
「スペースX」も手掛けるイーロン・マスク氏、世界で7億人以
上が登録するSNS「リンクトイン」を創業したリード・ホフマ
ン氏、ユーチューブの創業者の一人であるチャド・ハーリー氏な
どもペイパル・マフィアです。
 これらのペイパル・マフィアが創業したスタートアップ企業の
7社が、ユニコーン企業に成長しているのです。ユニコーン企業
とは、企業としての評価額が10億ドル(約1250億円)以上で
非上場のベンチャー企業のことです。
 注目すべきは、「グル」と呼ばれているピーター・ティール氏
です。彼は、2004年8月にフェイスブックに50万ドルを出
資し、フェイスブックの役員となっています。そして上場後に売
却し、10億ドルを手にしています。彼は、フェイスブックの先
進性をちゃんと見抜いていたのです。
 ティール氏は、とくにペイパル出身者には必ず出資しています
が、これによって、米国のテクノロジー企業によってグルと呼ば
れているのです。単なる投資家というより、ティール氏は思想的
なリーダーであるといえます。ティール氏は、その代表的著書で
次のように述べています。
─────────────────────────────
 もちろん、新しい何かを作るより、在るものをコピーする方が
簡単だ。おなじみのやり方を繰り返せば見慣れたものが増える。
つまり1がnになる。だけど、僕たちが新しい何かを生み出すた
びに、ゼロは1になる。何かを創造する行為は、それが生まれる
瞬間と同じく一度きりしかないし、その結果、まったく新しい、
誰も見たことがないものが生まれる。
 この、新しい何かを生み出すという難事業に投資しなければ、
アメリカ企業に未来はない。現在どれほど大きな利益を上げてい
ても、だ。従来の古いビジネスを今の時代に合わせることで収益
を確保し続ける先には、何が待っているだろう。それは意外にも
2008年の金融危機よりもはるかに悲惨な結末だ。今日の「ベ
スト・プラクティス」はそのうちに行き詰まる。新しいこと、試
されていないことこそ、「ベスト」なやり方なのだ。
      ──ピーター・ティール著/関美和訳/NHK出版
    『ゼロ・トゥ・ワン/君はゼロから何を生み出せるか』
                      ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 「競争を避け、独占を目指す」──田中道昭氏は、これがピー
ター・ティール氏の哲学であるといっています。アマゾンのジェ
フ・ベゾス氏が、ビジョンこそ「オンライン小売市場全体を支配
する」というものであったものの、最初は非常に小さな市場であ
る書籍からはじめ、その後少しずつカテゴリーを拡大し、遂に世
界一のデパートを作り上げていることを上げています。
 これまでにない何か新しいものを生み出せば、その市場は競合
はなく、独占でき、先進的ビジネスモデルを確立できます。現在
世界中で起きつつある、デジタル決済革命についても、その開発
元であるペイパル自身が、いわゆる「ゼロ・トゥ・ワン」を生み
出し続け、さらに積極的なM&Aを実行し、フィンテック分野に
おいて、イノベーションを続けています。
 しかし、現行の金融機関は「ゼロ・トゥ・ワン」を生み出して
おらず、従来の古いビジネスに今の時代を合わせることによって
収益を上げようとしています。これでは人材が流出するばかりで
す。来週は、既存金融機関がフィンテック攻勢にどう対応してい
るかについて考えます。  ──[デジタル社会論U/051]

≪画像および関連情報≫
 ●ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか
  タブーへの挑戦・逆張り【誰も賛成しない本質】
  ───────────────────────────
  ◎久しぶりに、ガツン!ってくる本でした。
   この本ベストセラーになるのがうなずける内容でした。ま
  ず、逆張りをする投資家として有名なのだそうですが、この
  本を読むと、逆張りということではなく、現在のアメリカ・
  シリコンバレーの危機感に対する、ピーターティールの答え
  なのでしょう。日本にも全く同じ宗教にもにた競争主義教・
  未来はわからない教などがはびこっています。
   官僚主義・競争主義・ヘッジ・・・これらは、何も社会を
  変えていないこと、頑張っても利益があがらない社会を作っ
  てしまっていることを指摘しています。社会システムを変え
  ることに対して、もっと真摯に、一人に対して一つずつ、多
  くのことをやらずに、楽しいと思える仲間と真剣にやろう!
  ってことが書いてあるように思いました。
   また、ロースクール出身なのに、テクノロジー信者である
  こと、指数関数教の信者でもありそうです(笑)
  ◎未来をつくる一歩は、自分の頭で考えること
   未来は勝手に起こるわけではない。宝くじでもなく・・・
  ある成功したスタートアップも、その時に起こったので、成
  功したわけで、同じことをもう一度やっても成功しない。企
  業は実験でないので、統計的に成功する確率を言ったところ
  でまったくもってナンセンスであると。
                  https://bit.ly/3jsu5c1
  ───────────────────────────
ピーター・ティール氏.jpg
ピーター・ティール氏


posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]