ジョン×高速のPDCA」の続きです。このことに関連して、ピ
ーター・ディアマンデス氏のことをご紹介しました。ディアマン
デス氏は、シンギュラリティ大学のファウンダー(創業者)です
が、「シンギュラリティ」とは一体何でしょうか。
シンギュラリティは「技術的特異点」と訳されますが、発明家
であり、思想家であり、フューチャリストといわれるレイ・カー
ツワイル氏がいい出した概念です。
レイ・カーツワイル氏は、シンギュリラリティについて、自著
で、次のように述べています。
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シンギュラリティとはなにか?
それはテクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響が
もたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまう
ような、来るべき未来のことだ。
それは理想郷でも地獄でもないが、ビジネスモデルや、死をも
含めた人間のライフサイクルといった、人生の意味を考えるうえ
でよりどころとしている概念が、このとき、すっかり変容してし
まうのである。シンギュラリティについて学べば、過去の重大な
出来事や、そこから派生する未来についての見方が変わる。シン
ギュラリティを正しく理解できれば、人生一般や、自分自身の個
別の人生の捉え方がおのずと変わるのだ。シンギュラリティを理
解して、自分自身の人生になにがもたらされるのかを考え抜いた
人のことを、「技術的特異点論者」と呼ぼう。
──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
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シンギュラリティ大学というのは、その提唱者であるレイ・カ
ーツワイル氏と起業家のピーター・ディアマンデス氏が共同で設
立した大学のことです。
デジタル化が進むと何が起きるのでしょうか。
ピーター・ディアマンデス氏は、エクスポネンシャルな成長に
は「6つのD」が起きるといっています。
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1.デジタル化 ・・・ Digitized
2.潜行 ・・・・・・ Deceptive
3.破壊 ・・・・・・ Disruptive
4.非収益化 ・・・・ Demonetive
5.非物質化 ・・・・ Demoterialize
6.大衆化 ・・・・・ Democrative
──田中道昭著
『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
次世代金融シナリオ』/日経BP
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6つのD──言葉だけみると、非常に難しく感じますが、ディ
アマンデス氏は「デジタルカメラ」を例として説明しているので
それに基づいて解説します。
世界初のデジタルカメラが誕生したのは、1975年のことで
すが、開発したのは、イーストマン・コダック社のスティーブ・
サッソンという入社2年目の若きエンジニアだったのです。しか
し、そのときの画素数は、たったの0・01メガピクセル。これ
が、フィルムカメラに代わる第1のD「デジタル化」です。
それから画素数は倍々に増加していきますが、代わり映えしな
い時期がしばらく続きます。フィルムカメラ業界も、デジタルカ
メラの存在に脅威を感じてはいなかったようです。これが第2の
D「潜行」の期間です。
しかし、デジタルカメラは「デジカメ」として少しずつ普及を
はじめ、やがて爆発的な成長がはじまります。画素数は「億」の
カベを超え、デジタルカメラは、フィルムカメラ市場を「破壊」
する第3のD「破壊」に突入します。
この「破壊」によって、フィルムカメラ企業は、金銭という因
子が消滅し、収益源を失ってしまいます。これが第4のD「非収
益化」です。しかし、この段階で、ほとんどのフィルムカメラメ
ーカーは、デジタルカメラを生産し、フィルムカメラに代わって
会社を支えていこうと考えていたはずです。
しかし、それらのメーカーに第5のD「非物質化」が襲ったの
です。「非物質化」というのは、ものやサービスそのものが消え
ることを意味します。ここでスマホが登場します。デジタルカメ
ラは、スマホの機能のひとつになり、非物質化します。スマホは
この他、電話機、ICレコーダ、ゲーム機、テレビ、CDプレー
ヤーなど多くのものを非物質化したのです。
この「非収益化」と「非物質化」による当然の結果として、ス
マホさえ持てば、誰でもデジタルカメラを持つことになる第6の
D「大衆化」が起きるのです。エクスポネンシャルな技術進化が
もたらす連鎖反応の最終段階です。
この6つのDについて、ディアマンティス氏は、「直線的な思
考しかできない者にとって、6つのDは6人の死に神(デス)に
ほかならない」といっています。
この「6つのD」について、ピーター・ディアマンデス氏自身
によるシンギュラリティ大学における講演を視聴することができ
ます。時間は5分12秒です。
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◎ピーター・ディアマンデス氏による「6つのD」
https://vimeo.com/126866987
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これら「6つのD」は、DX──デジタルトランスフォーメー
ションにそのままつながります。DXが変えるのは、企業の一部
ではなく、全部です。ミッション、ビジョン、バリュー、戦略を
根こそぎ変える──それがデジタルトランスフォーメーションの
本質です。 ──[デジタル社会論U/035]
≪画像および関連情報≫
●勇猛果敢に、突き抜けろ!/シリコンバレーで進む経営戦略
のパラダイムシフト
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2015年8月にグーグルは大幅な組織改革を断行した。
持株会社としてアルファベットを新設し、グーグルそのもの
は、持株会社アルファベットの下で事業会社の一つとして位
置づけられることになった。
グーグルの他には、ネストやカリコなど、共同創業者の一
人であるラリー・ペイジが2011年にCEOに就任以来、
立て続けに買収もしくは出資してきた会社が並んでいる。ペ
イジの好むムーンショット(月にロケットを到達させるよう
な、スケールの大きい夢のあるプロジェクト)を実現するた
めに設立された研究部門グーグルXもその中に入っている。
こうしたグーグルの挑戦を理解するための手引となるのが
先ごろ翻訳が出されたピーター・ディアマンデスの『BOL
D(邦題「ボールド/突き抜ける力」)』だ。
ディアマンデスは、レイ・カーツワイルが提唱する「シン
ギュラリティ」を与件として未来を構想し実現することを目
的とするシンギュラリティ・ユニバーシティの設立者の一人
であり、賞金付き技術開発コンテストであるエックスプライ
ズの主催者の一人でもある。「B0LD」は、ディアマンデ
スが考える「エクスポネンシャル(指数関数的に性能が向上
する)テクノロジーが開く未来」に向けて「勇猛果敢(=B
OLD)」に取り組む方策を書き記している。
https://bit.ly/3uVKQ1i
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「6つのD」