考えてみます。
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・アマゾンは世界最大のオンライン書店である
・アマゾンは世界最大の電子商取引企業である
・アマゾンは優秀なウェブサービス企業である
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これらは、いずれも正しいですが、現在のアマゾンをあらわし
ているとはいえないのです。アマゾンは今や本だけでなく、生活
用品から家電、デシタルコンテンツ、生鮮食品などを含め、あら
ゆるものを売るストアになっていますし、世界一のレベルのクラ
ウド・コンピューティングサービスも提供する「エブリシング・
ストア」になっているからです。
問題は、アマゾンの業務拡大がきちんと計画されたうえでのこ
となのか、それとも偶然なのかについて、改めてアマゾンのミッ
ションやその目指す方向について、考えてみる必要があると思い
ます。そうすれば、今後アマゾンがどのようなビジネスを拡大し
ようとしているか、わかると思うからです。
『アマゾン銀行が誕生する日』の著者、田中道昭氏によると、
アマゾンの創業者ジェフ・ベソス氏は、事業に対して、次の3つ
のこだわりを持っていることを指摘しています。
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1.地球上で、最も顧客第1主義の会社
2.低価格×豊富な品揃え×迅速な配達
3.大胆なるビジョン×高速のPDCA
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第1は、「地球上で、最も顧客第1主義の会社」という、ミッ
ションです。これと表裏一体になっているのは、「カスタマーエ
クスペリエンス」へのこだわりです。
重要なのは「カスタマーエクスペリエンス」という言葉です。
ここで「カスタマー」というのは普通「顧客」と訳されますが、
これは、単にECサイトとしてのアマゾンの消費者だけを指す言
葉ではなく、アマゾンに出店しているショップや、クラウドコン
ピューティングAWSを利用する企業、アマゾン・プライム・ビ
デオなどの動画配信サービスに参画しているクリエイターを含む
アマゾンのビジネスにかかわるすべての人々の総称です。
そういうカスタマーエクスペリエンスとは、具体的に何を指し
ているのでしょうか。
これについて田中道昭和氏は、「人間として当たり前に持って
いる本能や欲望、要するにカスタマーの『わがままな要求に真正
面から応える』こと」といっています。それが発揮されたの例と
して、経営学でよくとり上げられるのは、アマゾンの電子書籍リ
ーダー「キンドル」です。
電子書籍リーダーが話題になったときのことをよく覚えていま
すが、当時の最上位機種はソニーだったと思います。しかし、最
近では、電子書籍端末としてはアマゾンの「キンドル」がベスト
マシンといわれます。「キンドル」について田中道昭氏は、次の
ように述べています。
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アマゾンのビジネスモデルにおいては、カスタマーエクスペリ
エンスこそが最上位概念です。だからカスタマーエクスペリエン
スの低い商品やサービスは、決してリリースしません。経営学の
世界では電子書籍リーダーの「キンドル」がよい例として語られ
ています。(中略)
一方、アマゾンはどうだったか。ベゾスは、キンドルの開発に
あたって厳しい条件を課しました。例えば、一度読み始めたらデ
バイスの存在を忘れるほどに自然な操作感があること。ダウンロ
ードにかかる通信料をユーザーに求めないこと。キンドル発売ま
でに10万タイトルをダウンロード可能な状態にすること。これ
らをすべてクリアしたキンドルだからこそ、電子リーダーの覇権
を取ることができたのです。 ──田中道昭著
『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
次世代金融シナリオ』/日経BP
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「キンドル」に関しては、私自身が持っていないので、ネット
で調べてみると、最新モデル「ペーパーホワイト」の評価に関し
ては、5点満点で次のようになっています。
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投票平均 カテゴリ平均 ランキング
デザイン 4・18 4・04 1位
処理速度 3・66 3・07 1位
機能性 2・89 2・96 1位
画質 4・52 3・96 1位
携帯性 4・55 4・28 1位
バッテリ 4・94 4・36 1位
https://bit.ly/3pr7ZY4
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何か欲しいものがあるとします。仮にそれが書籍だとします。
たまたま前から探している書籍がアマゾンで見つかると、すぐに
「欲しい」と思い、「できれば今日中に欲しい」と思うことがあ
るものです。これは、人間が本来持っている欲望です。
一昔前であれば、「欲しい」と思っても、「今日中に欲しい」
は、実現しないことはわかっています。それは、顧客の「わがま
ま」であるからです。しかし、アマゾンの場合、プライム会員で
あるなど、いくつかの条件を満たせばそのわがままが実現するの
です。これは、大変なことです。企業側がそういう人の要望に応
えようと考えていなければ、実現しないものです。
一度でもアマゾンでそういう体験をした顧客は、以後もアマゾ
ンを使い続けることはいうまでもないことです。それがエクスペ
リエンスです。 ──[デジタル社会論U/033]
≪画像および関連情報≫
●経営トップ自らが「カスタマー・エクスペリエンス」の重要
性を説く企業の強さから学ぶこと
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カスタマー・エクスペリエンスという言葉を耳にすること
が多くなってきていませんか。
日本語では、「顧客経験」「顧客経験価値」「感動体験」
などと訳されますが、要は、次のようなことを意味する言葉
です。
「『カスタマー・エクスペリエンス』とは、商品やサービ
スの購入前後のプロセスや利用時に顧客が体験する、「心地
よさ」「驚き」「感動」「誇らし」さなどの、感覚的だった
り、感情的だったりする付加価値のこと」。
では、企業がカスタマー・エクスペリエンスを意識するよ
うになってきたのは、なぜでしょうか。
それは、顧客の期待通りの、さらには期待を超えた対応を
することで、ポジティブな感情を企業やブランドに対して抱
いてもらう。それによりファンとなってもらい、より深いお
付き合いや、友人知人に口コミなどで推奨してもらうといっ
た効果につながることを狙っているからです。
カスタマー・エクスペリエンスが注目されるようになった
背景にあるのは、先進国を中心にさまざまな市場でコモディ
ティ化が進行し、商品やサービスそのものの価値だけでは優
位性のアピールが困難になってきたことです。これは日本も
例外ではありません。そうした市場環境の変化を敏感に察知
した企業は、競合との差別化を図り市場で優位性を得るため
の次なる施策として、カスタマー・エクスペリエンスを経営
や事業レベルでの新たな戦略的要素だと認識するようになっ
てきたのです。 https://bit.ly/3ijB4mO
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キンドル/ペーパーホワイト