です。企業にとって、CCCがマイナスで推移するということは
製品を作る前から資金が入ってくる状態を意味しており、その資
金を有効活用できるメリットがあります。
米国の多国籍コンピュータテクノロジー企業「デル」のCCC
はマイナス40日です。その秘密は、受注生産方式というビジネ
スモデルにあります。受注生産なので、在庫を多く持つ必要がな
いのです。とくに半導体などは陳腐化が激しく、棚卸資産を持た
ない方が合理的です。
デルの創業は1984年です。当初はごく小さなスタートアッ
プに過ぎなかったのですが、その頃から創業者のマイケル・デル
氏は、会社の成長スピードを加速するために、CCCをマイナス
にすることに強くこだわっていたのです。それを実現したのが受
注生産方式だったのです。例えば、デルの場合、PCの仕様を顧
客の要望に合わせて設計し、その段階で料金を受け取り、それか
ら何日かかけて製品を作り上げるのです。
CCCがマイナスであれば、売上高が成長している限り、事業
を行っているだけでキャッシュが創出されます。このため、新市
場への進出のさいに必要となる投資について、資金調達で頭を悩
ませる必要がないのです。CCCがマイナスであることは、企業
の成長を速めるという点で極めて有効です。
アマゾンの場合、CCCは次のようになっています。これによ
ると、物流倉庫にある商品が販売される約30日も前にすでに現
金になっていることをあらわしています。
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アマゾンのCCC=−28・5日
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どうしてアマゾンのCCCがこれほど大きいマイナスになるの
かというと、「マーケットプレイス」がその役割を担っていると
考えられます。マーケットプレイスとは、アマゾン以外の業者で
もアマゾンに出品できる仕組みのことであり、これについては、
既に述べた通りです。マーケットプレイスを利用する業者のほと
んどは、FBAを利用するので、商品の支払金額はアマゾンが一
括して受け入れ、アマゾンに入ってきます。アマゾンは、その商
品の購買金額から手数料を差し引いて、数週間後に出品業者に支
払いますが、そこには数週間のタイムラグが生じます。このいわ
ば、預り金によって、アマゾンのCCCがマイナスになっている
のです。この預り金はアマゾンが無利子で運用できる資金という
ことになります。
この預り金がどのくらいの金額になるかについて、成毛眞氏の
本には、あるコンサルタントの分析結果が紹介されています。
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2013年時点での試算だが、ある米在住流通コンサルタント
の仮説では、預かり金でアマゾンが無利子で自由に運用できる額
は19億ドルに達すると指摘している。これは、支払いまでの期
間を2週間と仮定して計算をした場合の数字だ。マーケットプレ
イスの流通総額を550億ドルと試算し、総額の約9割を2週間
後に業者に支払ったとして計算すると、550億ドル×O・9÷
1年(365日)×14日=19億ドル。アマゾンはマーケット
プレイスを運営することで、日本円にして、常時2000億円程
度の自由に扱えるキャッシュを手にしていることになる。これは
あくまでも2013年時点の推論だ。マーケットプレイスが当時
より拡大を続けている現在では、この金額はさらに増えているだ
ろう。 ──成毛眞著/ダイヤモンド社
『amazon/世界の戦略がわかる』
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アマゾンは、日本円にして「常時2000億円程度の無利子で
自由に扱えるキャッシュを手にしている」ということになります
が、これは大変なことです。これだけの資金があるからこそ、ア
マゾンは、次々と新しいことに投資できるのです。
もうひとつ、アマゾンは、品質にほとんど差のない書籍や日用
品の仕入れには、「カスケード」という独特のシステムを使って
行っています。ある商品を1千個仕入れる場合を考えます。
その商品を扱う複数の卸業者に同時に見積もりをとりますが、
そのとき、もっとも安い価格を提示した業者から必要分をすべて
買い入れます。もし、それが1千個に満たないときは、次に安い
価格を示した業者から買い入れ、それを1千個になるまで続ける
のです。これがシステムで、全自動で行われるのですが、このシ
ステムを「カスケード」といいます。
最も安い価格を示したAという業者から200個、次に安い価
格を示したBという業者から300個、さらに安い価格を提示し
た業者から150個というように仕入れていくので、結局最安値
で仕入れることになります。これが「カスケード」というアマゾ
ン独特の仕入れシステムです。
この「カスケード」という言葉は、アマゾン川にみられる高低
差の少ない、小さく連なった滝からきているそうです。アマゾン
があちこちの業者から、安い見積もり順に、必要個数に達するま
仕入れを続けるさまがアマゾン川の滝に似ていることから、そう
呼ばれるのです。
マーケットプレイス+FBAというシステムは、アマゾン独特
のものではありません。アップルの「アップストア」やグーグル
の「グーグルプレイ」によるアプリの販売も、これときわめてよ
く似た仕組みです。ウォルマートも遅ればせながら、マーケット
プレイスをはじめています。しかし、楽天をはじめ、日本の企業
でやっているところはないのです。
アマゾンは、ECという小売り事業を極限まで極め、多大の利
益を出しながら、株主に一度も配当を支払わないで、ひたすら投
資を続けていますが、一体何を目ざしているのでしょうか。それ
を明日からのEJで、少しずつ探っていたきいと思います。
──[デジタル社会論U/022]
≪画像および関連情報≫
●アマゾン/世界の最先端がわかる/その10
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もう一度キーワードである「キャッシュ・コンバージョン
・サイクル」(CCC)を説明します。「90円で仕入れた
ボールペンを100円で売る文房具屋」で例えてみます。
今日仕入れたボールペンの代金をその場で卸業者に支払い
それが売れたのが1か月後だったとします。その1か月の手
元の現金はマイナスですね。その現金の状況を把握するのが
「キャッシュフロー経営」ですね。しかし、さらにその現金
がいつまで回収されるのが、この「CCC」なのです。この
文房具屋はCCCは「プラス30日」です。
小売業としては一般的なレベルのかもしれませんね。また
日本の出版社のCCCは、一般的にプラス180日なんだそ
うです。つまり、日本の出版社は、だいたい出版から6か月
後に入金されるのが慣例なのです。「出版不況」といわれて
久しいですが、180日間出版社は借入金どで「食いつなが
なければ」ならないのです。CCCということが、いかに重
要かわかりますね。
CCCは通常プラスになると思いがちですが、ラーメン屋
の例が出ていました。ラーメン屋は日銭が入りますね。それ
に比べて材料や人件費は後払いなのです。CCCがマイナス
ということになります。ラーメン屋が新規参入されやすいと
いうのは、先にお金が入り、開店時の資金が少ないからなの
ですね。 https://bit.ly/3bKXNEy
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アマゾン川のカスケード