2021年05月19日

●「アマゾンが顧客を増加させる仕組」(第5491号)

 アマゾンと楽天の違いについて、楽天は「楽天市場」のスペー
スを賃料をとって貸すだけと述べましたが、実はアマゾンの「マ
ーケットプレイス」も楽天と同様なのです。ユーザーは、スペー
スを借りて商品を展示し、売れたらアマゾンからメールがくるの
で、自ら梱包して発送するのです。楽天と同じです。
 しかし、アマゾンの場合、マーケットプレイスにはFBA(フ
ルフィルメント・バイ・アマゾン)というサービスが用意され、
多くの出店者が利用しています。出店者がこのFBAを使うと、
どんな企業でも、アマゾンのインフラが活用できるのです。商品
の保管から注文処理、出荷、決済、配送、返品対応まで、すべて
をアマゾンがまとめて代行してくれます。FBAについて、成毛
眞氏は次のように説明しています。
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 人手が限られる個人商店や、中小企業にとってこのサービスは
非常に助かるだろう。アマゾンの配送機能やカスタマーサービス
機能を使って、世界中の何百万という顧客との接点を持つことが
可能になるのだ。FBAの倉庫は年中無休で稼働している。休日
でも即日発送できるので「すぐに欲しい」顧客の要望をくみ取り
機会ロスも防げるわけだ。
 また、利用料金も手軽だ。まず月額の固定費がない。発生する
のは、商品の面積や日数に応じた在庫保管手数料や、商品の金額
と重量に基づく配送代行手数料のみだ。それ以上の費用負担はな
く、これも中小企業にとっては大きな魅力だ。
               ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
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 FBAには、もっと驚くべきことがあります。楽天市場や他の
マーケットで売れた商品の出荷をアマゾンが代行することもFB
Aではできるのです。アマゾンが、2009年からはじめたサー
ビスで、「マルチチャネル」といいます。
 それもアマゾンが単に配送業務だけを引き受けるのではなく、
事前に契約で商品をアマゾンが預かり、アマゾンの倉庫から出荷
するのです。ネットでものを売る業者にとって、これはきわめて
便利なサービスといえます。複数のネット市場に商品を出店する
ネット通販業者でも、面倒な在庫管理や発送などの面倒な業務を
すべてアマゾンに託すことができるからです。このサービスを利
用する通販業者がアマゾンに出品しないはずがなく、結局アマゾ
ンの出品数が増加することになります。
 これらのサービスは、アマゾンが多くの倉庫を持つ物流会社で
あるからできることであって、アマゾンは最初からそれを狙って
倉庫の確保に努力していたことになります。
 マーケットプレイスの利用者には、さらに特典があります。そ
れは、アマゾン内に商品広告が出せることです。これは「スポン
サープロダクト」と呼ばれるクリック課金型の広告です。アマゾ
ンの顧客が何を検索したかのキーワードに連動して、画面の下部
に表示されます。クリック単価は2円からということで、ヤフー
の10円、楽天市場の50円と比べて、安く設定されています。
従業員の少ない企業にとっては、FBAと組み合わせることによ
って、商品の宣伝から出荷まで、すべてをアマゾンのみで完結で
きることになります。このサービスは、きわめて画期的なことで
あるといえます。
 なぜ、アマゾンは、最初から倉庫と在庫を持つにいたったのか
というと、ポリシーである「地球上で最も豊富な品揃え」を実現
するためです。「インターネット書店」の例で考えると、ネット
空間は無限であるので、売れ筋の書籍だけでなく、学術書など一
部の人しか購入しない書籍まですべて取り揃えることができると
はいうものの、これらの書籍はすべて仕入れて、在庫として持つ
必要があります。注文が入ったときに、少しでも早く注文者に届
ける必要があるからです。
 成毛真氏の本には、マーケットプレイスとFBAが生まれた背
景について、次の説明があります。
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 マーケットプレイスとこのFBAが生まれた背景には、古本の
「せどり」という習慣がある。せどりとは、古本の目利きが、価
値ある本を古本屋から安く見つけてきて高く売ることだが、まだ
アマゾンが本を中心に扱っているときに、この個人のせどりに、
オンライン販売の場を提供したことから始まる。
 その後、アマゾンは倉庫の空きスぺースを提供し、発送の代行
までもするようになった。そして、アマゾンが書籍以外に対象領
域を広げていくにしたがって、古本だけではなく、家電や飲料や
雑貨など、あらゆる商品にもこのサービスを提供した。リサイク
ル品だけでなく、新品もである。こうして個人から、企業もマー
ケットプレイスへ参入していったのだ。
 FBAは、こうして自然発生的に生まれたものだといえる。し
かし、驚くべきは、その圧倒的なスピードだ。そこに需要さえあ
れば、それは購買需要であれ、サービス需要であれ、企業からの
需要であれ、敏感に感じ取り、まさに光速で実現していくのだ。
         ──成毛眞著/ダイヤモンド社の前掲書より
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 アマゾンと楽天の違いにおいて注目すべき点があります。それ
は、楽天にとっての顧客は、あくまで楽天市場への出店企業であ
るのに対して、アマゾンの場合は、商品を購入する顧客であるこ
とです。
 この違いは大きいのです。楽天の場合は、出店企業の売上高な
どの情報に基づいて、融資などのビジネスに活用していますが、
アマゾンの場合は、顧客の購買行動のすべてのデータが取得でき
るからです。しかもアマゾンの場合、マーケットプレイスとFB
Aから入手できる顧客のデータは膨大なものであり、多くのビジ
ネスに活用できることになります。
             ──[デジタル社会論U/019]

≪画像および関連情報≫
 ●「アマゾンは楽天市場に勝ち続ける」/元本部長が断言
  した理由
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   アマゾンと楽天市場の最も大きな相違点は、アマゾンが自
  社で直販も行っているのに対し、楽天市場で商品を販売して
  いるのは、ほとんど全て出店している販売事業者であること
  だ。アマゾンは直販商品を販売するためにフルフィルメント
  センター(Eコマースにおける在庫、梱包、発送などを行う
  拠点、倉庫)をはじめとする独自の物流網を構築している。
  しかし、楽天市場では、基本的に配送は、販売事業者任せと
  なっていたため、配送サービスの充実化にはかなりの遅れを
  とっており、配送品質は不安定である。
   アマゾンにも販売事業者が出店するマーケットプレイスが
  あり、アマゾン全体の58%が、販売事業者に対し、在庫配
  送代行サービスであるFBA(フルフィルメント・バイ・ア
  マゾン)を提供し、配送の品質をアマゾンの高い「基準」に
  保つ施策が採られている。
   楽天市場もただ手をこまねいていたわけではない。最近で
  はドラッグストアチェーンを買収し、子会社化して直販事業
  にも進出した。また、販売事業者の商品を預かって出荷を代
  行する物流センターを千葉県市川市や兵庫県川西市、千葉県
  流山市、大阪府枚方(ひらかた)市などに設けて「楽天スー
  パーロジスティクス」と名付けた総合物流サービスの提供を
  始めている。          https://bit.ly/2RYUClo
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アマゾン.jpg
アマゾン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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