すが、書籍は誰が売ろうと品質に差がないし、梱包や発送が困難
ではないからです。このことはよく知られていることですが、日
本におけるネットでの書籍販売については、アマゾンにとって大
きなネックがあったのです。
それは日本には「再販売価格維持制度」というシステムがある
からです。再販価格維持制度とは、メーカーが卸売業に販売した
ものを再度小売業で販売する際の価格を再販売価格といい、この
再販売価格の維持を卸・小売業に求めた制度です。つまり、「定
価で売れ」ということです。現状は、書籍や雑誌や音楽CDにつ
いては、定価で売ることになっています。
その頃アマゾンは、米国では、書籍を大量に仕入れて、20%
引きで売るという安売り商法で急成長していたのですが、日本で
はその手が使えなかったのです。しかし、この制度のおかげで、
米国であれば値引きしていた定価の20%がそのまま収益になり
その資金で、小田原に巨大な物流センターをつくることができた
のです。現在、アマゾンは、日本国内に21か所の物流倉庫を有
する巨大物流業者でもあります。それはアマゾンのポリシーであ
る「地球上で最も豊富な品揃え」を実現するために不可欠なもの
であるといえます。
アマゾンの物流について、大前研一氏は、日本の出版業界が席
巻されてしまうほどの凄さと評して、次のように述べています。
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アマゾンの物流は、東販・日販よりもはるかに上だ。そのため
地方の小さな書店には、東販・日販よりもアマゾンに頼んだほう
が早く確実に本が届く。今では地方に行くと、東販・日販が自ら
書店に対し、「それはアマゾンに注文してください」といってい
るという話を耳にするくらいだ。このように、アマゾンに日本の
出版業界はすっかり席巻されてしまったが、今後は他の業界でも
同様のことが起こるのは間違いない。私は、次に危ないのは医薬
品業界ではないかと思っている。
──大前研一著/プレジデント社
『大前研一DX革命』
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アマゾンがいかに凄い企業かについて知るには、同じEC企業
である楽天と比較するとわかりやすいと思います。アマゾンと楽
天は、ともに1997年の創業ですが、当時日本では、PCの普
及もいまひとつで、インターネットも珍しく、ましてネットでは
人はモノを買わない時代に楽天は創業しています。
楽天は、インターネットで人々がモノを買わない時代に、イン
ターネット・ショッピングモールとして「楽天市場」を立ち上げ
2000年に上場しています。
アマゾンも同じEC企業ですが、楽天とは、ビジネスモデルが
ぜんぜん異なるのです。
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◎楽天
楽天市場は、インターネット上に構築された文字通り、「市
場」である。それは仮想商店街であり、ネット上に軒先、すな
わち、スペースを貸すことによって、出展企業から料金を得て
いる。つまり、楽天の顧客は出店企業である。
◎アマゾン
アマゾンは、あくまでも自社で仕入れた商品の販売である。
他業者が出品のマーケットブレイスもあるが、あくまで自分で
在庫を持ち、流通を管理している。つまり、アマゾンの顧客は
あくまでアマゾンでモノを買う消費者である。
──成毛眞著/ダイヤモンド社
『amazon/世界の戦略がわかる』
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ここで、アマゾンの「マーケットプレイス」について説明する
必要があります。「マーケットプレイス」とは、アマゾン以外の
外部業者が出品できるサービスのことです。つまり、アマゾンの
サイトに出ている商品は、すべてアマゾンの商品ではなく、他の
出店者の商品も入っているのです。もちろん、出店に際しては、
アマゾンの出店基準をパスした商品であり、お客としては、売っ
ている商品がアマゾンなのか、他の業者なのかに関係なく、全部
同じフォーマットで商品を買えるのです。もちろん、購入した商
品は、アマゾンによって梱包されて届けられ、支払いもアマゾン
を経由して行われます。
このマーケットプレイスで扱う商品は、アマゾン直販の品数の
30倍以上であり、2016年の時点で約3億5000万品目に
上がります。現在はもっと増えているはずです。アマゾンのこの
「マーケットプレイス」は、アマゾンのポリシーである「地球上
で最も豊富な品揃え」を実現するための政策です。
これに対して楽天は、あくまで出店者への場所貸しであり、商
品の梱包や配送はすべて出店業者で行われ、もちろん料金も各自
出店業者に支払われるのです。この楽天のビジネスモデルについ
て、成毛真氏は、次のように述べています。
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楽天のビジネスモデルとは「場所貸しなので、自身で物流網を
持つ必要がなく、時間もお金もかけずに、出店業者を手軽に増や
すことができる」仕組みだ。在庫も持つ必要がないので、リスク
も少ない。出店業者にとっては、楽天への他の出店者が多ければ
多いほどお客が集まる。そして、楽天にとっては、品揃えが充実
するという好循環が生まれる。初期に、楽天がアマゾンに比べて
事業を急拡大できた背景がわかるだろう。
──成毛眞著/ダイヤモンド社の前掲書より
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つまり、楽天はネットの地主のようなビジネスです。スペース
を開放し、手数料という名の地代を徴収するだけです。
──[デジタル社会論U/018]
≪画像および関連情報≫
●楽天、ビジネスモデルに亀裂 競争激化で無料化決断
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楽天が通販サイト「楽天市場」で予定する送料無料の統一
基準の導入をめぐり、2020年2月10日に公正取引委員
会から立ち入り検査を受けたことは、三木谷浩史会長兼社長
が築いてきたビジネスモデルに走った亀裂の深刻さを示して
いる。三木谷氏が送料無料化の実現にこだわる背景には、ラ
イバルの米アマゾン・コムとの競争の激しさがある。しかし
一方的な無料化決定に対する出店者の不満は大きい。楽天は
携帯電話事業などでも課題を抱えており、対応を誤れば経営
の不安につながりかねない。
楽天は10日、公取委の立ち入り検査について「厳粛かつ
真摯(しんし)に受け止め、全面的に協力していく」とする
コメントを発表した。ただ、「法令上の問題はないものと考
えている」とも改めて主張。三木谷氏も1月末の出店者向け
のイベントで「政府、公取委と対峙(たいじ)してでも実施
する」と述べている。
楽天は昨年末、楽天市場での商品の送料を一律無料にする
制度を今年3月18日に導入すると出店者側に通知した。現
在、送料は出店者ごとに設定され、利用者からは「支払総額
が分かりにくい」といった声があがっていたためだ。出店者
の中には、商品価格を安く表示して検索されやすくする一方
で、送料を割高に設定する事業者もいた。
https://bit.ly/3buDRWb
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「楽天」三木谷浩史会長兼社長