2021年04月06日

●「デジタル人民元戦略の狙いは何か」(第5464号)

 米中のデジタル覇権の「5つのシナリオ」の検討に入る前に、
中国問題グローバル研究所(GRICI)によって詳細に描かれ
ている中国のデジタル人民元戦略について、その概要を把握する
必要があります。
 同研究所の理事、白井一成氏は、中国のデジタル人民元戦略に
ついて、次のようにまとめています。
─────────────────────────────
 一帯一路で版図を広げつつ、「債務の罠」で他国に影響力を行
使する。同時にBSNによってイノベーションを加速させ、域内
の経済発展を促進させる代わりに、中国がデータを握る。また、
拡げた版図でデジタル人民元を流通させることで、金融を通じて
中国が支配的地位を確立する。超監視社会の実現であり、中国を
中心としたデジタルの冊封体制が完成する。デジタル法定通貨で
の戦いは、アメリカと中国の基軸通貨をめぐる熾烈な覇権争いの
幕開けを告げることになり、今世紀における地経学最大の問題の
一つとなろう。
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
─────────────────────────────
 このなかで、いくつか説明が必要な言葉があります。「債務の
罠」と「BSN」です。「債務の罠」とは何か。
 「債務の罠」とは、中国にインフラ整備などの支援を受けた国
が、借りた資金を返済できない場合、中国がその国を政治的影響
下に置くことをいいます。
 典型的な例がスリランカです。中国政府は一帯一路の名の下で
スリランカ政府にハンバントタ港の建設で13億ドルを貸し付け
ていましたが、その資金を期日までに返済できず、スリランカは
99年にわたる同港の運営権を、中国国有企業に譲渡することに
なったのです。
 続いて「BSN」とは何でしょうか。
 BSNは、中国が2020年4月に立ち上げたブロックチェー
ンプラットフォーム──Blockchain-based Service Network の
ことで、次の説明があります。
─────────────────────────────
 BSNの目的は、膨大な数の中小零細企業や学生などの個人に
BSNを活用したアイデア着想・イノベーションを促し、ブロッ
クチェーン技術の急速な発展と普及を加速させていくこと。BS
Nのホワイトペーパーによると、BSNの設計と構築コンセプト
はインターネットに派生しているとのこと。インターネットは、
TCP/IPプロトコルを使用したすべてのデータセンターの接
続によって形成されている。
 そして、BSNもブロックチェーン動作環境プロトコルのセッ
トの作成を使用したすべてのデータセンターの接続によって形成
されている。インターネットと同様に、BSNはクロスクラウド
クロスポータル、クロスフレームワークのグローバル・インフラ
ストラクチャ・ネットワークでもある。
                  https://bit.ly/3wpdI46
─────────────────────────────
 BSNについては、改めて取り上げて、その狙いなどについて
考えます。
 世界開発センターによると、中国が一帯一路関連事業で投資す
る68ヶ国のうち、24ヶ国は債務超過に陥るリスクを抱えてい
るといわれています。具体的には、南アフリカ、シエラレオネ、
カメルーン、ザンビア、アンゴラ、ジブチ、エチオピア、タンザ
ニア、トーゴ、マダカスカル、モンゴル、東ティモール、ミャン
マー、カンボジア、ラオス、パキスタン、スリランカ、クウェー
ト、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、パプアニューギ
ニア、バヌアツ、キリバスの24ヶ国です。
 スリランカにおける中国からの直接投資残高は5・7%、中国
との貿易総額に占める比率は13・5%──これを「スリランカ
基準」といいますが、直接投資の面では42ヶ国、貿易の面では
63ヶ国がこの基準を上回っています。
─────────────────────────────
   ◎上記24ヶ国に関して
    名目GDP ・・・・・・・  1・5兆ドル
    貿易総額  ・・・・・・・  0・7兆ドル
    中国との貿易総額 ・・・・ 1858億ドル
   ◎スリランカ基準のいずれかを満たす81ヶ国
    名目GDP ・・・・・・・ 11・1兆ドル
    貿易総額  ・・・・・・・  6・0兆ドル
    中国との貿易総額 ・・・・  1・5兆ドル
 ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編の前掲書
─────────────────────────────
 いわゆる一帯一路関連国は138ヶ国です。また、中国と国境
を接している国は14ヶ国です。具体的にいうと、東から北朝鮮
ロシア、モンゴル、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ア
フガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、ミャ
ンマー、ラオス、ベトナムです。このうち、北朝鮮とブータンを
のぞく12ヶ国が一帯一路関連138ヶ国に含まれます。このな
かで、中国への依存度が非常に高い国、キルギス、タジキスタン
、ラオスの3ヶ国も中国に隣接しています。
 これらの国々に対して、人民元決済を浸透させていけば、クロ
スボーダー人民元決済総額に対して、相応の影響力を与えること
ができるはずです。しかし、SWIFTのデータによると、人民
元の決済総額を米ドル並みにするにはするには、現状の人民元の
決済総額を20倍にする必要があります。中国が通貨覇権を米国
から奪うには、彼我の差は大きいのです。しかし、デジタル人民
元であれば、違った結果が出る可能性があります。中国がデジタ
ル人民元に賭ける狙いはここにあります。
              ──[デジタル社会論/064]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「一帯一路」、参加国なぜ増える?欧米諸国に衝撃
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   中国が主導するシルクロード経済圏構想「一帯一路」。参
  加する国が、だんだんと増えています。2019年3月23
  日には、イタリアが正式に参加を決定。主要7カ国(G7)
  のメンバーとしては初めてで、欧米諸国にとっては衝撃でし
  た。一帯一路とは何なのか、なぜ参加国が増えているのか。
  分かりやすく解説します。
  ――そもそも、一帯一路って何?
   中国が進める巨大な経済圏構想です。まず歴史的な背景を
  見てみましょう。中国とヨーロッパの間でははるか昔から、
  貿易が盛んに行われてきました。中国の絹がヨーロッパ大陸
  にたくさん運ばれたことから「シルクロード」と呼ばれ、一
  般的には中国の長安(現在の西安)からローマを結ぶ貿易の
  道を指します。
   一帯一路はいわば「現代のシルクロード」だと中国政府は
  言っています。2013年秋に、習近平国家主席が中国から
  中央アジアを通ってヨーロッパに至る「陸のシルクロード」
  に加え、南シナ海やインド洋を通ってヨーロッパ、アフリカ
  などに至る「海のシルクロード」を再現する構想を打ち上げ
  ました。中国政府は、陸の経済圏を「一帯」、海の経済圏を
  「一路」と名付けました。この二つを合わせて、中国語で、
  「一帯一路(イータイイールー)」、英語では「ワン・ベル
  ト・ワン・ロード」と呼ばれています。
                  https://bit.ly/3fHmO6l
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中国と国境を接する14ヶ国.jpg
中国と国境を接する14ヶ国
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論T | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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