2021年04月02日

●「デジタル覇権をめぐる米中の競合」(第5462号)

 「シナリオプランニング」という経営学の手法があります。以
下に定義を示します。
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 シナリオプランニングとは、起きるかもしれない未来のさまざ
まな姿を具体的に描くことで、最も確率の高い誰もが予想する未
来のみならず、インパクトの大きい未来のほかの可能性に備える
ための方法論です。つまり、シナリオ・プランニングのメリット
は、「必ず起きる未来」だけではなく、「不確実性の高い未来」
を想定の範囲内に入れることです。  https://bit.ly/3uf7u4V
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 中国問題グローバル研究所(GRICI)理事の白井一成氏は
同研究所の遠藤誉所長との共著において、米中のデジタル通貨へ
の関与について、シナリオプランニングを試みているので、その
概要を以下にご紹介します。一種の思考実験です。
 デジタル覇権に対する米中両国の関与姿勢を次のように分けて
考えることにします。
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            ◎積極的
            ◎消極的
            ◎傍 観
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 しかし、中国は既にデジタル人民元発行に舵を切っているので
中国については「傍観」を外し、中国の2つの可能性、米国の3
つの可能性、計5つの可能性について検討します。
 中国の2つの可能性とその主観的確率は次のようになります。
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      @中国の積極的関与 ・・・ 30%
      A中国の消極的関与 ・・・ 70%
─────────────────────────────
 まず、@の「中国の積極的関与」について考えてみます。可能
性としては、次の2つがあります。
 中国がデジタル覇権について積極策を行うということは、「資
本移動の自由化」が行われることが前提になります。この実現に
は、経済活性化のための市場原理導入による混乱を政治体制の維
持よりも優先する政府が出現することです。なぜ、「資本移動の
自由化」が前提かということについて、白井一成氏は次のように
述べています。
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 共産党の体制維持を最優先する中国が積極策をとるということ
は、政治体制の大転換によって、資本移動の自由化を行うことを
前提としている。政治体制に変化がなければ、国内の大胆な規制
緩和による企業の競争力向上、不透明な法律の改正、不良債権の
大幅な処理を進めることが困難で、中国の外から稼ぐ力は早晩失
われる。盤石なドル保有が為替の安定を保証しているとすれば、
その基盤が失われた際の資本移動の自由化は、中国からの資本流
出を招くだろう。
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
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 しかし、これは「共産党政権維持」を最優先する現在の習近平
政権では実現は困難であると考えられます。したがって、現体制
の延長では無理であり、新しい政治体制の下で、社会主義市場経
済が行われることが考えられます。これが1のケースです。
 2のケースは、政治体制が民主主義に転換するケースです。も
しこれが実現したら、新しい中国の誕生というべき劇的変化とい
うことになります。日本や米国をはじめとする自由主義陣営がこ
のような中国の出現を願い、これまでサポートをしてきたわけで
す。しかし、これは、現在では幻想に過ぎなかったことがわかっ
てきています。
 つまり、@の「中国の積極的関与」は、実現性がもっともあり
えないケースですが、可能性としてはゼロではなく、その主観的
確率は30%となっています。
 続いて、Aの「中国の消極的関与」について考えます。このケ
ースでは、中国が一帯一路向けにデジタル人民元を発行する可能
性があります。政権の政策が変わらない場合は、このケースの可
能性が一番高く、70%の主観的確率があります。
 この場合、デジタル人民元の信用力が重要になります。経常黒
字、豊富な外貨準備高が必要ですが、現在の中国は、この面の安
定性が揺らいでいるといえます。一帯一路経済が順調に成長する
ことが重要です。
 続いて、米国の3つの可能性とその主観的確率は次のようにな
ります。
─────────────────────────────
      @米国の積極的関与 ・・・ 30%
      A米国の消極的関与 ・・・ 60%
      B   米国の傍観 ・・・ 10%
─────────────────────────────
 @の「米国の積極的関与」について考えます。米国は既にドル
覇権を握っているので、現時点ではデジタル覇権までも積極的に
目指すとは思われず、関与しても消極的になります。しかし、今
後の情勢しだいで、米国の同盟国がデジタル法定通貨のコンソー
シアムを米国が主導するよう求めてきた場合は、米国が関与する
可能性もあります。
 しかし、中国の出方によって、米国が積極的関与に転ずる可能
性があります。中国のデジタル人民元が普及拡大し、それが米国
の通貨覇権に影響を及ぼすような状況になると、米国は今までの
姿勢を一転させ、積極関与に転換する可能性があります。そうい
う可能性があるので、主観的確率が30%になっています。@に
ついては、来週のEJでも述べます。
              ──[デジタル社会論/062]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタルをめぐる覇権争いを日本人は知らない
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   「AI(人工知能)でリーダーとなるものが世界を支配す
  る」。3年前、2017年にロシアのプーチン大統領が述べ
  た言葉である。
   時は経ち、2020年10月、私たちは新型コロナウイル
  スのパンデミックでリアルな人間同士の接触を避ける世界に
  生きている。このパンデミックは世界各国でデジタルテクノ
  ロジーへの依存をより一層加速させた。私たちがスクリーン
  越しに人と会話する時間は今や日常となった。
   そしてニュースを見ればアメリカ大統領選を前にしてティ
  ックトック買収問題をめぐって米中が思惑を巡らしている。
  中高生に人気の動画アプリが二大大国の政治と司法を巻き込
  み、マイクロソフトやオラクルといった巨大IT企業が買収
  を競うことになろうとは誰が予測できただろうか。
   ティックトックを開発したバイトダンス(北京字節跳動科
  技)は一流のAI開発者を数多く抱えることで知られ、その
  機械学習技術を用いてユーザーの嗜好を学習し、ユーザーが
  アプリを使用する時間を日々、増加させている。現在のAI
  はユーザーが気づくこともなく、アプリの裏側で大量のデー
  タを処理し、学習し続けているのだ。冒頭のプーチン大統領
  の言葉は今ではあまりに当たり前のことのように聞こえる。
  オンラインの世界での私たちの行動がデータとなり、AIに
  よって解析されていることは日常である。
                  https://bit.ly/31yhF8a
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米中デジタル戦争.jpg
米中デジタル戦争
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論T | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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