2021年04月01日

●「中国に立ちはだかる米国ドル覇権」(第5461号)

 中国問題分析の第1人者である遠藤誉氏が所長を務める中国問
題グローバル研究所の理事、白井一成氏は、米国とその他の国と
の関係について次のように述べています。
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 国のモデル化を考える上では、アメリカとその他諸国との関係
は「銀行」と「一般企業」との関係に近い。銀行と一般企業とは
資金を通じて表裏の関係にあり、重要な点も必然的に異なる。銀
行が存続するためには資金をどれだけ調達できるかが重要である
一方、一般企業が存続するためには、生存に最低限必要なキャッ
シュアウトフロー(資金の流出)の把握が重要である。
 覇権国家であるアメリカは、ネットワークの外部性(同じ財・
サービスを消費する個人の数が増えれば増えるほどその財・サー
ビスから得られる便益が増加するという現象)と軍事力で世界を
支配しているため、基軸通貨であるドルの信用力が重要である。
     ──遠藤誉・白井一成/中国問題グローバル研究所編
 『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社
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 白井一成氏は、「米国はネットワークの外部性と軍事力で世界
を支配している」と述べているが、「ネットワークの外部性」と
は何でしょうか。
 ネットワークの外部性──これはマーケティングで使われる用
語で、その代表例として、SNSを上げることができます。LI
NEやツイッターやインスタグラム、フェイスブックなどによっ
て代表されるSNSでは、利用者が増えれば増えるほどサービス
の質や利便性が上がります。数人の友達だけが使っているよりも
多くの人が利用するSNSの方が便利に決まっています。
 ネットワークの外部性の間接的効果としては、マイクロソフト
のウインドウズOSとマックOSを上げることができます。現在
では、大分事情が違ってきましたが、いわゆるデファクト・スタ
ンダートのOSの方が使っている人が多いので便利です。これも
ネットワークの外部性の現象であるといえます。
 米国の場合、輸入代金の支払いを含め、対外債務のほとんどは
自国通貨であるドル建てです。基軸通貨国である米国は、自らド
ルを作り出し、それを対外債務の返済に充てることができますが
米国以外の国ではそうはいきません。ドルを手当てする必要があ
るからです。
 中国はどうなのでしょうか。中国といえども、中国企業の対外
資産では、人民元建ての比率は依然として低く、ドル建てに偏っ
ており、民間銀行のドル調達は容易ではないのです。これに関し
て、既出の木内登英氏は、次のように述べています。
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 中国大手商業銀4行の年次報告書によると、2018年末時点
のドル建て債務は、ドル建て資産を上回ることになった。201
6年までは、ドル建て資産がドル建て債務を大きく上回っていた
のにである。こうした変化は、主に最大手の中国銀行によっても
たらされているようだ。2018年に中国銀行のドル建て債務は
ドル建て資産を700億ドル程度上回った。中国銀行はその年の
年次報告書で、こうしたドル建て資産と債務の不均衡は、簿外の
ドル資金で十分に対処されていると説明している。それは、通貨
スワップなどのデリバティブ取引だ。しかし、それらは、安定し
たドル調達手段であるとは言えない。
              ──木内登英著/東洋経済新報社
    『決定版リブラ/世界を震撼させるデジタル通貨革命』
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 上記の指摘に加えて、中国の中央銀行である中国人民銀行は、
日本銀行など他の主要中央銀行と違って、基軸通貨国の中央銀行
であるFRBと相互に通貨スワップ協定を結んでいないのです。
そのため、非常時において、民間銀行がドル不足に陥ったときに
FRBからドルを調達し、民間銀行を助けることはできないこと
になります。
 外貨準備があるではないかという人がいるかもしれませんが、
外貨準備を切り崩して民間銀行のドル調達を助けると、これは人
民元売りの為替介入と同じ結果を招き、それによる人民元安を引
き起こし、国外への資金逃避が拡大し、中国にとってマイナスの
結果になる恐れがあります。
 このように、中国にとって通貨覇権は、ドル覇権という大きな
壁が立ちはだかっています。国際送金を担うSWIFT(国際銀
行間通信協会)によると、決済総額のうちドルの構成比は金額ベ
ースで42・2%で第1位、ユーロは31・7%で第2位になっ
ています。
 BIS(国際決済銀行)の2019年のデータによると、為替
売買代金に占めるドルの構成比は第1位の88・3%です。同じ
2019年末時点のIMFのデータによると、外貨準備高に占め
るドルの構成比は60・9%で第1位、第2位は20・5%で、
ユーロが第2位です。
 この圧倒的なドル覇権に対して中国は、米国をのぞく各国と通
貨スワップ協定を締結しています。これに関して、既出の白井一
成氏は次のように述べています。
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 中国が締結した通貨スワップ協定のうち、人民元よりも市場シ
ェアが高い通貨(ドル、ユーロ、円、ポンド、豪ドル、カナダド
ル、スイスフランの7通貨)の引出限度額は、1・45兆人民元
(0・2兆ドル)である。中国のドル債務(0・5兆ドル)と比
較すると、やや心許ない。      ──遠藤誉・白井一成/
          中国問題グローバル研究所編の前掲書より
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 このような状況に加えて、フェイスブックの「リブラ」(ディ
エム)の発行宣言です。とくにリブラの場合、中国はドルを含む
通貨バスケットであることを重視し、デジタル人民元発行を決断
するに至るのです。     ──[デジタル社会論/061]

≪画像および関連情報≫
 ●中国通貨スワップの二面性【フィスコ世界経済・金融シナリ
  オ分析会議】
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   2013年以降に中国が、通貨スワップを締結したのは、
  40中銀、総額は3・7兆人民元(0・5兆ドル)に上る。
  2016年以降に契約締結が確認できたものに限定しても、
  総額は3・5兆人民元となる。引出限度額が大きい国・地域
  は、香港(4000億人民元)、韓国(3600億人民元)
  ECB(3500億人民元)、英国(3500億人民元)、
  シンガポール(3000億人民元)などである。
   日本も、2018年に中国と2000億人民元の通貨スワ
  ップを締結した。通貨スワップの契約内容の詳細が公表され
  ているわけではない。日本銀行のリリースでは、日本銀行は
  2000億人民元を、中国人民銀行は3・4兆円が引出限度
  額と明記されている。必要になった際には、日本は人民元を
  中国は円を引き出すことになる。
   中国の通貨スワップは二つの側面を持つ。中国が助ける側
  に回るケースと、助けてもらう側に回るケースである。中国
  は一帯一路外交を積極展開してきた。「習近平が外国を訪問
  する時に必ず要求する3つの神器」として、「人民元取引シ
  ステムの構築」、「通貨スワップ協定」、「適格外国機関投
  資家の限度枠撤廃」が指摘されており、中国の通貨スワップ
  協定は、人民元の国際化、あるいは一帯一路沿線国における
  人民元の普及も念頭に置かれている。
                  https://bit.ly/39wchXH
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中国の経常収支の推移.jpg
中国の経常収支の推移
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論T | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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