2021年03月23日

●「ソラミツ社はなぜ選定されたのか」(第5454号)

 今から考えると、2016年という年は、中央銀行によるデジ
タル通貨開発(CBDC)熱が一気に高まった年といえるかもし
れないのです。
 そもそもカンボジア国立銀行から、ソラミツ社に対して「スー
パーレッジャーいろは」のテストを行いたいというメールが届い
たのが、2016年12月13日のことです。
 2016年6月にソラミツ社は、リナックスが主催する「ハイ
パーレッジャー」というブロックチェーンの世界標準を目指すプ
ロジェクトに参加する決断をし、スイスのダボス会議で、ソラミ
ツ社のブロックチェーンの技術をプレゼンしています。
 宮沢和正氏は、このプロジェクトについて、次のように述べて
います。
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 このプロジェクトは、オープンなプロトコルと標準技術を開発
するためのさまざまな独立した取り組みをまとめたものだ。独自
のコンセンサス(合意形成)アルゴリズムとストレージ・モデル
を持つさまざまなブロックチェーン、アイデンティティのための
サービス、アクセス制御、およびスマートコントラクトなどの技
術が含まれている。
 アクセンチエア、エアバス、アメリカン・エクスプレス、バイ
ドウ(百度)、シスコ、ドイツ銀行、ダイムラー、JPモルガン
SAPなどの18社がプライムメンバーになり、世界の200社
以上の企業が集まって、ブロックチェーン技術の開発と標準化、
普及を図っている。日本からは、富士通、日立、NECがプライ
ムメンバーとして参加している。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
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 このとき、ソラミツ社は設立して半年しか経過しておらず、そ
ういうスタートアップ企業が、名だたる世界のテック企業の前で
プレゼンをしたのです。その審査結果は、2016年10月に発
表され、無名のソラミツ社は、最初のインキュベーションの3社
に選出されたのです。インキュベーションとは、「親鳥が卵を抱
く」「孵化させる」という意味を持つ英語「incubate」の名詞形
です。つまり、育成対象のフレームワークとして、IBM、イン
テルに次いで、ソラミツ社が選出されたのです。
 これは、大ニュースです。しかし、それを知る人はきわめて少
ない。当然ニュースが残っているはずだと思い、ネットをていね
いに探したのですが、発見できなかったのです。そこで、宮沢和
正氏の本から、その部分を引用します。
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 2016年10月、ニューヨークでハイパーレジャーの審査結
果の発表が行われた。200社を超える企業が集まり、ハイパー
レジャーの最初の「インキュベーション」(育成)対象フレーム
ワークとして3社が選出された。ハイパーレジャー参加企業の投
票による選考で、IBM、インテルという巨大企業と並んで、無
名のソラミツも世界標準候補として選ばれた。
 この時点では、プロトタイプしかでき上がっていない状況では
あったが、武宮や、当時ソラミツをサポートしていたエンジニア
の五十嵐太清が設計した日本発のブロックチェーン・アーキテク
チャーが世界に認められたのだ。
 ハイパーレジャー・プロジェクトはリナックスと同様、オープ
ンソースである。武宮たちが開発したプロトタイプは日本発の技
術であることを強調したネーミングである「IROHA」(いろ
は)と命名されていたが、この瞬間から「ハイパーレジャーいろ
は」に名称が変更された。オープンソースの性格上、その名称を
含むすべての知的財産権はハイパーレジャー・プロジェクトに無
償譲渡された。
 ソースコードもウェブ上にすべて開示した。世界中のエンジニ
アが無償で利用することができ、多くのエンジニアの英知を集め
ての改良が可能となった。たとえソラミツがなくなったとしても
良い技術であれば世界中の誰かが改良やサポートを続けてくれる
から、ソラミツが最初に開発した「ハイパーレジャーいろは」は
永久に生き続ける。       ──宮沢和正著の前掲書より
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 ソラミツがこのインキュベーション3社の1つとして選ばれた
のが2016年10月ですが、カンボジア国立銀行からメールが
きたのが2016年12月13日です。当然ウェブ上に公開され
ているソースコードを分析して、ソラミツ社にオファーを出して
きたことは確かです。
 ところが日本銀行は、2016年にブロックチェーンの基礎実
験をしています。やはり、リナックスが主催する「ハイパーレッ
ジャー」プロジェクトの3社のブロックチェーンを選定している
のですが、日本のソラミツ社が選ばれているのに、IBMの「ハ
イパーレッジャー・ファブリック」を使って実験をしています。
日銀が、なぜソラミツ社の「ハイパーレッジャーいろは」を採用
しなかったのかは不明です。
 日銀の実験結果については、認証局は1つ、検証ノード(取引
先の金融機関)は4〜16というきわめて小規模な設定で行われ
ているのですが、それでもレイテンシ(決済指図が送られてから
取引処理が行われるまでの時間)の拡大が確認されたとしていま
す。これは、検証ノードが増えるにしたがって、遅れが拡大する
ことになるので、ネックになります。ちなみに日銀の取引先金融
機関は500以上あるので、この遅れは大きな問題です。
 その点、カンボジア国立銀行は「ハイパーレッジャーいろは」
の決済処理能力の高さを評価しています。日銀としては、たとえ
日本企業であっても、無名のソラミツのブロックチェーンを選ぶ
気持ちにはなれなかったのでしょう。要するに信用していないの
です。何しろ相手は天下のIBMですから。
              ──[デジタル社会論/054]

≪画像および関連情報≫
 ●日本発祥のブロックチェーン「いろは」が商用版に、地域通
  貨や企業通貨への採用進むか
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   日本企業のソラミツが原型を開発したブロックチェーンの
  「ハイパーレジャー・いろは」が、このほど商用化バージョ
  ンの認定を受け、一般提供が始まった。企業を含めて無償で
  利用できる。スマートフォンとの相性がよく、決済や認証を
  必要とするシステムの構築に不可欠なコマンド群もあらかじ
  め定義。電子決済サービスの開発効率化にも大いに貢献しそ
  うな「いろは」の特徴と、それを主導するソラミツの事業を
  展望する。
   米国時間5月6日、ブロックチェーン基盤の「ハイパーレ
  ジャーいろは、以下「いろは」」は商用バージョン(V1・
  0)としての認定を取得し一般提供が始まった。「いろは」
  は、2016年2月創業の日本企業、ソラミツがその原型を
  開発して無償提供し、その後300名を超えるコミュニティ
  メンバーが参加して開発が進められてきた。オープンソース
  として無償での利用が可能で、開発者向けサイト GitHub を
  通じて誰でもダウンロードできる。
   「ブロックチェーン=仮想通貨(暗号資産)」との誤解は
  電子決済サービスに携わる業界関係者の中では少ないのでは
  ないかと思われるが、仮想通貨は「ブロックチェーンを利用
  したアプリケーション(サービス)の1つ」と位置付けられ
  る。それに対してブロックチェーンである「いろは」は、特
  定のアプリケーションを指す言葉ではなく、さまざまなアプ
  リケーションをその上に載せて動かすための、土台のソフト
  ウェアといえる。        https://bit.ly/38ZpVSU
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ハイパーレッジャーいろは.jpg
ハイパーレッジャーいろは
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論T | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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