かりであり、スタート以来のバコンの利用状況の情報はまだ入っ
ておりません。
しかし、2019年7月18日から約半年後2020年1月末
までのバコンのテスト運用のデータはあります。取引件数ベース
でリエルの利用は63%、ドルの利用は37%、取引金額ベース
でリエルの利用が56%、ドルの利用が44%になっています。
このように、バコンのパイロット運用後、リエルの利用が増加
しているのです。これについて、ソラミツの社長の宮沢和正氏は
その理由について次のように述べています。
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カンボジア全体のリエルの流通比率が22%、ドルが78%、
(世界銀行2017年)だったのに対して、「バコン」ではリエ
ル利用が約66%と大幅に増加した。なぜリエルが増えたのだろ
うか。現段階では入手できる情報が不足しており、定かではない
が、いくつかの理由が考えられる。
まず、デジタル通貨になったことにより、リエル紙幣のように
嵩張ることがなくなった。1米ドルが約4000リエルであり、
リエル紙幣は財布の中で非常に嵩張る。それが解消されたため、
国民がリエルを保持・利用することに抵抗がなくなった可能性が
高い。また、農村部に住み、近くに銀行の支店がない国民もオン
ラインで「バコン」の口座開設ができ、都市部で働く人からの仕
送りを簡単に受けることができる点もリエル利用が拡大した要因
と思われる。
──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
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バコン導入前のカンボジアでは、国全体で米ドルが約70%を
占めていたのです。カンボジア国内の両替比率では「1米ドル=
4000〜4100リエル」です。これでは、リエルを持ち歩く
場合、財布がパンパンになってしまうのです。しかし、バコンの
場合、デジタル通貨なので、財布がパンパンになる心配はないわ
けで、自国通貨リエルの復権につながるというわけです。
カンボジアのデジタル通貨「バコン」に日本のブロックチェー
ン技術が使われている──このことに日本は、どれほどの関心を
もっているのでしょうか。
当然、情報は伝わっているはずですが、あまり大きなニュース
になっていないようです。むしろ、フェイスブックのリブラ(デ
ィエム)の方が大きく扱われています。この点について、宮沢氏
の本には、次の記述があります。
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19年9月の「FIN/SUМ2019」で、私は「ハイパー
レジャーいろは」と「バコン」のプレゼンテーションをした。光
栄なことに、ソラミツは「UKアワード」を受賞した。このとき
傍聴していた山本幸三・自民党金融調査会長(衆議院議員)が、
「バコン」プロジェクトに関心を持った。同年11金融調査会デ
ジタル通貨推進プロジェクトチームの第一回が開催され、自民党
国会議員、財務省、金融庁、日本銀行のメンバー40人ほどが参
加した。私は「中央銀行デジタル通貨について」と題して「バコ
ン」の概要を説明した。
この会合がきっかけとなつて、事態は大きく動く。2020年
1月には山本議員をはじめ自民党のメンバー数名とソラミツの武
宮がカンボジア国立銀行を訪問した。一行は同銀行幹部と会って
「バコン」誕生の経緯やサービス内容の詳細について説明を受け
た。2月にはデジタル通貨推進PT第2回が開催され、「カンボ
ジア中央銀行デジタル通貨の発行実態と日本における提言」と題
して、山本議員がカンボジア出張について報告した。この場で武
宮が「バコン」の発行実態の数値情報、詳細な技術的背景、日本
で実現させる場合の課題や解決案などについて提案をしている。
──宮沢和正著の前掲書より
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当然のことですが、これは、日本のデジタル化に関係する重要
な案件であり、研究が進められていて当然です。山本幸三衆院議
員がといえば、元大蔵官僚で、自民党金融調査会長であり、金融
のプロフェッショナルです。
ところで、問題は、ソラミツのブロックチェーン「ハイパー・
レッジャーいろは」で果たして日本の人口をすべてカバーできる
かどうかです。カンボジアの人口は約1600万人に対して日本
の人口はその10倍近くあります。
ビットコインは、決済時の処理は非常に遅く、ブロックチェー
ンへの書き込みに10分を要し、1秒間に7件程度の処理能力し
かないのです。これに対し、「ハイパー・レッジャ−いろは」は
書き込みは1、2秒。1秒間に数千件の処理能力があるといわれ
ています。しかし、この速度は、通常のデーターベース・サーバ
ーよりはきわめて遅いのです。
「ハイパー・レッジャ−いろは」は、ブロックチェーンの種類
としては、「コンソーシアムチェーン」に属しています。ブロッ
クチェーンには、次の3つの種類があります。
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1. パブリックチェーン
2. プライベートチェーン
3.コンソーシアムチェーン
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1の「パブリックチェーン」は、管理者がおらず、不特定多数
が参加できるチェーンで、ビットコインはこのタイプです。2の
「プライベートチェーン」は、管理者のいるブロックチェーンで
金融機関が主として採用しています。3の「コンソーシアムチェ
ーン」は、特定の管理者が複数存在するブロックチェーンであり
バコンシステムは、このタイプに属しています。
──[デジタル社会論/051]
≪画像および関連情報≫
●カンボジアの国立銀行デジタル通貨を共同開発
日本発のブロックチェーン企業ソラミツとは?
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◎武宮様ご自身の経歴とソラミツ設立の経緯を教えて下さい
武宮氏(以下、武宮):もともとは米国の大学でコンピュ
ーターサイエンスを学んでいた時に来日して、日本電気(N
EC)で修論の研究を行いました。卒業後は日本で国際電気
通信基礎技術研究所(ATR)の研究技術員として働いてい
ます。その後、2013年1月に初めてビットコインを利用
しました。電子メールと同様の感覚でお金を送れることに大
変驚き、感動したことを覚えています。その時から私は、社
会の効率を向上する為にお金をデジタルデータに置き換える
技術を考え続けてきました。そして、ビットコインではあり
ませんが他の仮想通貨のコミュニティーに参加しはじめたの
です。そのなかで、NEМの合意形成システムとして、プル
ーフ・オブ・インポータンスを提案して、NEМの開発に参
加したりしました。そういった過程を経て、共同創業者であ
る松田、岡田と出会い、2016年2月にソラミツ設立にい
たったのです。
──ソラミツのミッションはどのようなものですか?
武宮:ソラミツ株式会社は、ブロックチェーン技術を用いた
システムを開発することで産業にイノベーションを起こし、
社会の効率を向上することを目的として設立しました。特に
金融業界はデジタル技術の可能性を十分に活かしきれておら
ず、社会ではデジタルマネーはまだ経済活動の基本となって
いません。 https://bit.ly/3tybVHD
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ハイパー・レッジャーいろは