ソラミツ社長の宮沢和正氏は次のようにコメントしています。
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中銀デジタル通貨以外の独自機能は競争領域てである。だから
各金融機関が自由に機能を追加することは理にかなっている。こ
の場合、利用者からみた「バコン」の使い勝手には大きな変更が
出ないように配慮しながら「バコン」の標準APIに独自機能を
追加する開発が必要となる。
これらの開発を、各銀行から一手に引き受ければ、ソラミツに
とっては大きなビジネスチャンスになる。カンボジア国立銀行は
国内にブロックチェーンのエンジニアを増やしていき「バコン」
システムの保守や拡張を国内のエンジニアに任せられるようにし
たい。タイやマレーシアとのクロスボーダー送金や決済において
も、自前のエンジニアで進めていけるようにしたいという目標が
あった。決済・送金だけではなく、証券・保険・不動産のトーク
ン化や小口化を進めて「バコン」で決済できるようにしたい。本
人確認も法律を整備してオンラインで完結するeKYCを導入し
たいといった計画も持ち上がっていた。
こうした目的を実現するため、カンボジア国立銀行とソラミツ
の利害が一致し、現地企業とソラミツ創業者の武宮が出資して、
合弁会社「ソラミツ・クメール」が誕生した。主に先述の開発を
担っていくエンジニア集団である。
──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
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この文中の「eKYC」は、 electronic Know Your Customer
を意味しており、本人確認をオンラインでできるようにするとい
うものです。なぜ、「eKYC」が必要かというと、カンボジア
国立銀行から次のような要望を受けたといいます。カンボジアで
は、多くの家庭の主婦が家計を助けるため、マレーシアにメイド
として働きに出ていますが、次の2つの問題点があるのです。
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@カンボジアへの送金手数料が非常に高い
A家に送ると、父親が浪費してしまうこと
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上記2つのうち、@については、バコンを使えば、カンボジア
とマレーシアとのクロスボーダー送金手数料を安くできます。
Aについては、バコンを家に送らず、送金を必要とするカンボ
ジアの学校や病院などに直接送れるようにしたいのです。そうす
れば、お金が別の目的に使われることを防げます。しかし、それ
には、オンラインによる本人確認とそのための法律改正が必要に
なってきます。そもそも「本人確認」は、「当人認証」と、「身
元確認」の2つに分かれるのです。このうち、「当人認証」には
次の3つがあります。
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1. 知識認証 ・・・ パスワードや秘密を聞く
2,所有物認証 ・・・ カードなど所有物を認証
3. 生体認証 ・・・ 身体的な特徴を認証する
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1の「知識認証」というのは、パスワードやあらかじめ登録し
てある「秘密」を聞いて認証する方法です。2の「所有物認証」
は、カードなどの本人の所有物で認証します。3の「生体認証」
は、身体的特徴や行動的特徴を認証するものです。
しかし、これらは、いずれも当人性を確認するだけであり、仮
に全部の認証を行ったとしても、その人の年齢などデモグラフィ
ックな属性はわからないのです。これに対して、「身元確認」は
性別、年齢、居住地域といった属性を認証します。法治国家で使
われる本人確認の方法は、全て「身元確認」です。
「2要素認証」というものもあります。これは、「知識認証」
と「所有物認証」など当人認証の手法を2つ使うということを意
味していますが、身元確認は含まれていません。これは、例えば
サイトにパスワードを入力してログインした後に携帯電話にショ
ートメッセージで認証番号を送るケースがありますが、これは携
帯電話の所有とパスワードの知識を認証しているので、「2要素
認証」になります。
しかし、これからのデジタル社会では、オンラインでの本人確
認が不可欠になります。これについて、宮沢和正氏は、次のよう
に述べています。
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日本においてもオンラインで完結する本人確認が法律改正によ
り認められるようになった。いままではオンラインで個人情報を
入力し、免許証のコピーなどの本人確認書類を添付しても本人確
認は完結せず、最終的には葉書などを郵送し、確実に本人が登録
住所に住んでいることを確認する必要が法律に明記されていた。
そのため、オンラインだけでは本人確認が完結せず、葉書などの
郵送の手間とコストがかかっていた。しかし、シンガポールなど
ではオンラインで完結する本人認証が確立しており、eKYCと
呼ばれている。
日本もソラミツなどが金融庁に働きかけた結果、自分の動画を
送るか、免許証などの写真付きの本人確認書類が画像のコピーで
はなく厚みがあるオリジナルであることなどをオンラインで提示
できれば、葉書などの郵送が不要になった。その結果、大きなコ
スト削減につながっている。ソラミツは、カンボジア国立銀行に
対して、同様の法律改正とeKYCシステムの導入を働きかけて
いる。eKYCが実現すれば、近くに銀行の支店がない農村部の
人々にとってもオンラインで口座開設ができるようになり、カン
ボジアにとって銀行口座開設率の向上と金融包摂が進む重要な施
策になる。 ──宮沢和正著の前掲書より
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──[デジタル社会論/050]
≪画像および関連情報≫
●eKYCとは何か?本人確認や銀行口座連携の手法、関連
サービスを解説
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デジタルによる本人確認の仕組みである「eKYC」が注
目が注目されている。本人確認の手法としては、アナログの
KYCが一般的であるし、それを電子化させたeKYCの概
念自体も古くからある。それが、新型コロナウイルス感染症
の感染拡大防止対策としてリモートワークへの移行と、通信
キャリアの銀行口座連携サービスにおける大規模な不正利用
事件が発生したことで、オンラインでの本人確認が話題に上
ることになった。本記事では TRUSTDOCKとLiquidなど、
eKYCサービスを提供する企業取材を基に、eKYCの概
要や市場規模、関連ビジネス、活用事例などを紹介。普及を
妨げる課題や今後の展望などを考察する。
eKYCとは、広義では「オンラインなどの非対面で本人
確認を行う」ことであり、狭義では、「『犯罪収益移転防止
法』などの法規制で定義されている具体的な手法」と捉えら
れる場合もある。
そもそも、eKYCは、複数の単語から成り立っている。
KYCは 「Know Your Customer (顧客を知る)」の略で、
顧客確認や本人確認を意味する。e は「electronic」の略で
あり、2つをくっつけてeKYC(電子的な本人確認)とい
うわけだ。eKYCを理解するには、まず、アナログの「e
KYC(本人確認)」について知る必要がある。
https://bit.ly/30MZtHt
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「eKYC」とは何か