の共同開発契約を調印したのは2017年4月のことです。それ
から8ヶ月でプロトタイプが完成し、さらに1年7ヶ月で本番シ
ステムが稼働しています。そして、コロナ禍によって少し予定は
遅れたものの、2020年10月、「バコン」システムの正式運
用が始まったのです。
世界初のCBDC(Central Bank Digital Currency) という
ことになります。これは、カンボジアはもちろんのこと、日本に
とっても画期的なことですが、日本ではあまり知られていない状
況にあります。
しかしソラミツは、2020年10月28日、中銀デジタル通
貨(CBDC)への貢献が認められ、ロンドン・べースの中央銀
行専門誌セントラル・バンキングが主催するアワードで、次の賞
を受賞しています。
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FinTech & RegTech Globsl Awards 2020
中銀デジタル通貨パートナー賞
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しかし、カンボジア国立銀行は、「バコン」はCBDCと認め
ていないのです。「バコン」は、「新しい通貨」ではなく、「新
しいモバイル決済システム」であると主張しているのです。なぜ
でしょうか。それは、「バコン」が中銀デジタル通貨とした場合
次の問題点があるからです。
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1.新しい通貨の発行には法律の変更が必要になるが、これ
は、かなりの時間を要する。
2.紙からデジタルへの変更は、紙幣が使えなくなるという
勘違いによる混乱が起こる。
──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジ
タル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
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「バコン」をCBDCと認めないのは、「バコン」導入の目的
が別のことにあるからです。このことを主張するのは、カンボジ
ア国立銀行の責任者のチア・セレイ統括局長です。
チア・セレイ統括局長は、添付ファイルを見ればわかるように
総括責任者としては考えられないほど若い女性です。チア・セレ
イ氏は、中央銀行にあたるカンボジア国立銀行(NBC)のチア
・チャント総裁の娘で、NBCにある各局を束ねる統括局長を務
めています。英国や豪州で教育を受け、流暢な英語を操る国際人
で、才色兼備として人気も高く、NBCの顔として世界的に知ら
れている人物です。
「バコン」の導入は、チア・セレイ統括局長の強い思いでもあ
ります。チア・セレイ統括局長によると、今回の「バコン」導入
の狙いは、自国通貨「リエル」の復権にあるというのです。主権
国家にとって、自国通貨は国のアイデンティティーであり、国民
のプライドでもあります。ところが、カンボジアでは、自国通貨
の「リエル」よりも、米ドルの方が普及し、定着してしまってい
るのです。これについて、チア・セレイ統括局長は次のように話
しています。
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「350万リエルで何が買えますか」と尋ねると、国民はどれ
くらいの額なのかを把握するのに、少し時間がかかる。それが、
「350万ドル」と言うと、瞬時に理解する。これがいまだに国
民の意識だ。リエルの信頼や安定性、強さの問題が原因ならば、
そこを改善すればいい。これが意識や習慣、国民心理の問題とな
ると、変えるのはとても難しい。政府が強制的にリエルを使えと
言っても、いい影響は出ないだろう。
脱ドルを迫るより、むしろリエルの日常的な利用促進を国民に
呼びかけていくしかないと考えている。国民が自主的に自国通貨
を採用するようになることが重要だ。 https://bit.ly/3v1XYTX
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公益財団法人・国際通貨研究所の2019年5月のレポートに
よると、2017年時点の銀行預金に占めるドルの割合は94%
であり、銀行貸出に占めるドル建ての割合は98%に達していま
す。カンボジア政府としては、2019年までに貸出ポートフォ
リオの10%以上を何とかリエル建てにしようとしたものの、達
成できていない状況です。かといって、急激な脱ドル化は経済を
混乱させるだけです。
そこで国外からドル建ての投融資は受け入れるものの、日常の
決済は、自国通貨で行うようにしたいとする願望が、独自デジタ
ル通貨「バコン」の開発の背景にあるといいます。要するに、チ
ア・セレイ統括局長の意図は、「国民が使いたくなる自国通貨を
作る」ことにあったのです。チア・セレイ統括局長は、次のよう
にも語っています。
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国民のライフスタイルが米ドルでつくられてきたのと同時に、
ビジネスも米ドル基盤。なぜ変える必要があるのかと言う人もい
る。ただ、気づいてほしい。金融政策はその国独自のものでない
とならない。経済成長が続く中、中央銀行が国民のためにできる
ことは増えているのに、私たちが刷るお金を使ってくれなければ
それすらもできない。問題が起きた時に責任をもって国民を助け
られるよう、私たちのお金を使ってほしい。米ドルへの執着は長
期的視点で見ると、決して国のためにはならないということを理
解してもらえるよう、啓発活動を続けている。まずは、物価をリ
エルで感覚的に瞬時に理解できるよう、リエルの値段表示を増や
したり、公務員給料をリエル建てにしたりして、意識の改善を図
っていく。時間がかかることは間違いないが、少しずつ国民意識
が変わってきているのを感じている。 https://bit.ly/3v1XYTX
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──[デジタル社会論/046]
≪画像および関連情報≫
●カンボジア、デジタル通貨の運用を開始──ソラミツの技術
を採用
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カンボジアの中央銀行は2020年10月28日、日本企
業の技術を採用したデジタル通貨の運用を開始した。ブロッ
クチェーンを基盤とする中央銀行デジタル通貨システム「バ
コン」はカンボジアのリテール決済と銀行間決済を支える。
カンボジア国立銀行は、フィンテック企業のソラミツ(東京
・渋谷区)と共同でバコンを開発。昨年7月からカンボジア
全土で試験運用を行ってきた。
カンボジア国内の電話番号を持っていれば、バコンのスマ
ートフォンアプリを使うことができる。デジタルリエルまた
は米ドルのウォレットを保有し、QRコード等を通じて個人
間や企業間の送金や、店舗での支払いが可能だ。
送金手数料はかからず、安全でスピーディなデジタル通貨
決済システムの導入は、金融基盤のデジタル化を進めるカン
ボジアにとって、大きな一歩となった。スマートフォンの普
及率は高まる一方、多くのカンボジア国民は銀行口座サービ
スなどの金融サービスにアクセスできない状況にある。東南
アジアの国々にとっては共通する社会課題で、バコンはカン
ボジアの金融包摂を強化する施策の一つでもある。ソラミツ
はブロックチェーン「ハイパーレジャーいろは」の開発に参
画してきた。カンボジア中央銀行は、同技術がバコンのリテ
ール決済部分に最も適していると判断し、ソラミツとの共同
開発を進めてきた。 https://bit.ly/3ru4kJt
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チア・セレイ統括局長