2021年03月10日

●「『バコン』はどういうシステムか」(第5444号)

 カンボジア国立銀行の狙いは、ファイナンシャル・インクルー
ジョン(金融包摂)にあります。貧困や難民などに関わらず、誰
もが取り残されることなく金融サービスへアクセスでき、金融サ
ービスの恩恵を受けられるようにすることです。
 そのためにカンボジア国立銀行は、実態調査を実施し、次の問
題点を把握しています。
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 1.決済・送金サービス事業者は、銀行口座を通していない
  ので、中央銀行は取扱金額が捉えることが困難である。
 2.もし、決済・送金サービス事業者が経営破綻した場合、
  利用者からの預かり金を十分保全できない状況である。
 3.このままでは、相互運用性がないため、複数の決済・送
  金サービスが乱立し、利用者や店舗の利便性に欠ける。
 4.決済・送金サービス事業者のなかには、資金繰りに影響
  が出て、店舗への代金の振り込みまでに時間がかかる。
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 これら4つの問題点に対して、カンボジア国立銀行は、解決策
として、次の2つの案が検討されたのです。
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【プランA】決済・送金サービス事業者を既存の銀行間システ
 ムに組み込み、管理する方法。この場合、決済・送金サービ
 ス事業者にとってコンプライアンス・コスト(法規制順守の
 ためにかかるコスト)が重荷となる。
【プランB】中銀がネットワークを整備したうえで、決済・送
 金サービス事業者を含む金融機関をこれに参加させ、相互連
 結して、いわば全国共通の財布を作る方法。この場合、コン
 プライアンス・コストは抑えられる。
        ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジ
  タル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
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 カンボジア国立銀行は、「プランA」と「プランB」を慎重に
検討した結果、「プランB」を選択し、これを実現するためには
ブロックチェーン技術が不可欠であるので、業者の選定を行い、
2016年12月に、ブロックチェーン技術を開発しているソラ
ミツを含む数社に絞って、システムの構築を打診したのです。そ
の結果、ソラミツ株式会社が選定されています。
 カンボジアのデジタル通貨「バコン」とは、どのような通貨な
のでしょうか。
 デジタル通貨システムに、ブロックチェーン技術がどのように
からんでいるかについては、技術的に難解であるので、改めて述
べることにし、全体のイメージを掴んでいただくために、通貨シ
ステムの概要について述べます。
 「バコン」は、現金と同等の価値を有し、転々流通可能なトー
クン型のデジタル通貨です。「トークン」という言葉は、さまざ
まな文脈で使われることがあり、明確な定義がありませんが、仮
想通貨業界では、一般的に既存のブロックチェーン技術を利用し
て発行された仮想通貨のことを指して「トークン」と呼ぶことに
なっています。
 「バコン」のアプリは、世界中のスマホ利用者が利用している
アップストアかグーグルプレイからダウンロードできます。しか
し、「バコン」アプリを実際に利用するためには、カンボジアの
携帯電話番号を入力し、SMS認証を受ける必要があります。S
MS認証というのは、スマホの電話番号を使って、本人確認を行
う認証手段の一つです。
 カンボジアに在住し、カンボジアの携帯電話番号を登録してい
る人であれば、誰でも簡単にオンラインで「バコン」口座を開設
し、決済や送金ができるようになります。
 海外からの旅行者については、カンボジアの携帯ショップでパ
スポートを提示して本人認証を受けたあと、カンボジアのSIM
カードを購入し、電話番号を登録すれば「バコン」が使えるよう
になります。
 「バコン」への入金は、リエルか米ドルの現金を参加している
銀行の窓口か送金事業者の店舗に持って行けば「バコン」と交換
できます。「バコン」を入手すれば、スマホの簡単な操作で、個
人間や企業への送金ができるほか、QRコードをスキャンして、
店舗などでの決済を簡単に行うことができます。
 ところで、カンボジアは、なぜ、この時期にデジタル通貨「バ
コン」導入を急いだのでしょうか。これについて、ソラミツ社長
である宮沢和正氏は、次のように述べています。
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 金融インフラの整備が遅れている発展途上国では、政府や中央
銀行が積極的に金融包摂に乗り出さなければ、「デジタル人民元
(DCEP)」のような他国のデジタル通貨やフェイスブックの
「リブラ」のような民間デジタル通貸に市場を奪われてしまう恐
れがある。したがって他国のデジタル通貨が世界に普及する前に
自国による金融包摂を実現することが最重要課題であり、そのた
めには迅速に自国のデジタル通貨を普及させ、通貨の独立性を保
つ必要がある。これが金融包摂、金融政策力の維持、自国通貨の
強化の意味である。       ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 現在、カンボジアでは自国通貨のリエルと米ドルが流通してい
ます。しかし、このところ、自国通貨のリエルの流通が弱くなっ
ており、国全体の流通額では70%が米ドルです。その交換比率
は次の通りです。
─────────────────────────────
      1米ドル=4000〜4100リエル
─────────────────────────────
 つまり、「リエルの復権」もデジタル通貨導入の動機のひとつ
になっているのです。実際に「バコン」導入後、その発行額は全
体の60%に達しています。 ──[デジタル社会論/045]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜカンボジア中銀はデジタル通貨を発行するのか?
  ───────────────────────────
   カンボジアの中央銀行デジタル通貨「バコン」を開発する
  ソラミツの宮沢和正氏(特別顧問)が2020年1月20日
  都内のイベント「デジタル通貨と規制セミナー」に登壇。2
  020年から導入される予定のブロックチェーンを基盤とし
  た「バコン」を紹介し、「なぜカンボジアが中銀デジタル通
  貨を発行するのか?」について「金融包摂」「自国通貨の強
  化」「国家全体の決済アーキテクチャを簡素化する」という
  3つの理由を指摘した。
   少額のリテール決済から高額の銀行間取引までできるバコ
  ンは、2019年7月から実用化のテスト運用を行っている
  段階だ。カンボジア最大の銀行アクレダを含む9つの銀行な
  どと接続して、実際のお金の価値を使って数千人のユーザー
  が送金や店舗での支払いを行っている。正式なシステムの稼
  働は2020年内を目指す。
   開発を進めるのは日本のブロックチェーン企業ソラミツ。
  特別顧問の宮沢氏は、過去に電子マネー「エディ」(現・楽
  (楽天エディ)立ち上げの中心的や役割を果たした人物であ
  り、今回もプロジェクトリーダーとして構想から仕様書を作
  成し、推進してきた。デジタル通貨「バコン」は、カンボジ
  ア国立銀行が各銀行にバコンを発行し、各銀行が利用者に展
  開する「間接発行」方式を採用。「直接発行」方式と比較し
  て、中央銀行が本人確認や口座管理を行う必要がないため負
  荷が減り、各銀行の役割は、現在と同じものを維持できると
  いう。             https://bit.ly/3v4cZVi
  ───────────────────────────
ソラミツ/宮沢和正社長.jpg
ソラミツ/宮沢和正社長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論T | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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