日本においては、アリババほどは知られていませんが、中国広
東省深センに本拠を置く持ち株会社で、ネット関連の子会社を通
じ、SNS、インスタントメッセンジャー、ウェブホスティング
サービスなどを提供しています。そのテンセントは、今やゲーム
事業でも利用者を増やし世界一の売り上げを記録。コロナ禍のな
か、ビジネスコミュニケーションツール事業を拡大しています。
このテンセントの最大の売りは、SNSの「ウィーチャット/
微信」です。中国版LINEともいわれ、11億人以上のユーザ
ーを持ち、主に中国・マレーシア・インド・インドネシア・オー
ストラリアなど、中国を中心とした海外ではポピュラーなメッセ
ージアプリです。そしてLINEが決済アプリ「LINEペイ」
をやっているように、テンセントも「ウィーチャット・ペイ」を
運営しています。
テンセントというIT企業の恐るべき技術力を見せつけた有名
な話があります。昨年のことですが、時価総額で日本のトヨタを
抜いた米国のテスラという企業をご存知でしょうか。
そのテンセントの研究部門である「キーン・セキュリティ・ラ
ボ」は、テスラの有名なEVセダン「モデルS」に遠隔攻撃され
る脆弱性があることを発見し、ネットワーク経由で車内システム
に侵入して、リモートからドアを解錠したり、運転中の車両のワ
イパーやブレーキを作動させたりできることをユーチュープで公
開したのです。
もちろん、テンセントは、脆弱性情報を公開する前にテスラへ
報告しており、テスラは即時に脆弱性を修正しています。この技
術は、2017年の世界最大のセキュリティカンファレンス「ブ
ラックハット/2017」で、テンセントのセキュリティ技術者
が攻撃方法の詳細を解説し、世界を驚嘆させています。
テンセントの「キーン・セキュリティ・ラボ」は、新技術への
先行研究を通じた車両安全の向上という使命のもと、自動車メー
カーのコネクティッドカーの技術開発に対する助言を通じ、その
セキュリティ機能の強化をサポートし続けています。
テンセントの今後について、日経ビジネス編集部は、次のよう
に予測しています。
─────────────────────────────
テンセントは拡大を続けている。同社は、アニメ、映画、そし
てドラマなど、日本が得意とする娯楽分野に進出を始めている。
18年8月のアジア競技大会ではゲームの腕を競う戦いが公開競
技として実施されたが、テンセントは競技種目となる6ゲームの
うち5つに関与していた。
オランダのゲーム市場調査会社「ニューズー」によると、17
年のゲーム事業売上高の世界ランキングでテンセントはトップに
立った。同社は当初、利用者数が11億人を突破したウィーチャ
ットで中国のインターネット社会をけん引していたが、17年に
は事業の中核はゲームとなっていた。
17年の売上高、約2377億元(約4兆円)のうち、オンラ
インゲームは約978億元(約1兆6600億円)と4割を占め
る。中国は人件費の安さを武器に、衣料品や家電、スマートフォ
ンなどの分野で日本を圧倒した。テンセントは日本がよりどころ
とする、創造力を要する分野でも日本を超えようとしている。
(中略) 同社は、世界で11億人のユーザーを抱えるウィー
チャットを提供し、近年では世界一のゲーム事業売上を達成して
いる。中国政府によるゲーム規制や、米国からウィーチャットが
規制を受けるなど逆風も吹きつつあるが、コロナ禍でのビジネス
コミュニケーションツールの市場では事業拡大を続けている。今
後も同社の動向から目が離せない。 https://bit.ly/3dvsRtt
─────────────────────────────
アリババにしてもテンセントにしても、プラットフォーマーで
あり、決済業務を起点にして、着々と金融業に参入しようとして
きています。これらのプラットフォーマーが次に狙っているのは
個人や中小企業を対象とする貸出業務です。貸出業務は、フィン
テック企業も始めていますが、プラットフォーマーの貸出しも増
加しつつあります。
次のデータは、プラットフォーマーとフィンテック企業が行う
合計貸出額を1人当たりの規模で各国比較したものです。
─────────────────────────────
◎プラットフォーマー/フィンテック企業の貸し出しビジネス
アルゼンチン ・・ 1・5ドル
ブラジル ・・・・ 0・9ドル
中国 ・・・・・・ 372・3ドル
フランス ・・・・ 9・3ドル
日本 ・・・・・・ 3・4ドル
韓国 ・・・・・・ 115・6ドル
メキシコ ・・・・ 1・2ドル
英国 ・・・・・・ 110・3ドル
米国 ・・・・・・ 126・3ドル
──木内登英著/東洋経済新報社
『決定版リブラ/世界を震撼させるデジタル通貨革命』
─────────────────────────────
突出しているのは、中国の372ドル(2017年)であり、
韓国、米国、英国が続いています。日本は、わずか3・4ドルに
過ぎないのです。ほとんどは、フィンテック企業による貸し出し
ですが、韓国、アルゼンチン、ブラジルは、プラットフォーマー
による貸し出しの比率が高くなっています。なかでも韓国は突出
しています。
しかし、フィンテック企業とプラットフォーマーによる貸出の
総額が、銀行も含む貸出全体に占める比率はけっして高くなく、
主要国のなかで最大の中国でさえも、その比率はわずか3%にも
達していないレベルに過ぎないのです。
──[デジタル社会論/034]
≪画像および関連情報≫
●銀行はいずれなくなる?グローバル・プラットフォーマー
の戦略とは?
───────────────────────────
ITとAIの進化に伴って最も劇的な変革が起きる代表的
な業界は金融業界でしょう。昔ながらの銀行は大きく業態を
変えるか、もしくは無くなることになるかもしれませんね。
<先端技術進歩で銀行業務3分の1奪われる?>
(2018年4月12日付 日本経済新聞)
「シティグループが3月にまとめた銀行の未来に関するリ
ポートは、最大で3分の1の銀行業務が大手ハイテク企業や
新興のフィンテックによって置き換えられる可能性を指摘し
た。北米では2025年までに支払いや資産運用、融資など
の分野で34%の売り上げを失うと予想している。リポート
は『銀行員が将来について心配することといえば、フィンテ
ックよりビッグテック(大手ハイテク企業)だろう」として
有力な競合相手として米アマゾン・ドット・コムやフェイス
ブック、中国のテンセントやアリババを挙げた』」
今、世界中でフィンテック企業が続々と誕生し、すごいス
ピードで成長しています。また、グーグル、アマゾン、フェ
イスブック、アリババなど「ビッグテック」がそういうフィ
ンテック企業を買収したり、提携したりして自社のエコシス
テム(生態系)に取り込んで業務領域を拡大しています。い
わゆる「プラットフォーム戦略」ですね。「プラットフォー
ム戦略」とは、関係する企業やグループを自社の「場」(プ
ラットフォーム)にのせることで、新しいビジネスのエコシ
ステムを構築する経営戦略です。 https://bit.ly/3dwvcoa
───────────────────────────
テスラEVセダン「モデルS」