2020年11月05日

●「2017年の声明には問題がある」(EJ第5364号)

 「X論文」で有名な米国の外交官、ジョージ・ケナンのことを
知る日本人は今やほとんどいないでしょう。彼の書いたX論文が
きっかけになって、日本に自衛隊が誕生したといえるのです。X
論文というのは通称で、論文の正式名称は次の通りです。機密を
要するので、タイトルを隠しているのです。
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                  ジョージ・F・ケナン著
 『ソヴィエトの行動の源泉』The Sources of Soviet Conduct
                  https://bit.ly/3kNXtr5
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 この論文は、ソ連の封じ込めを柱とする米国の冷戦政策につい
て書かれています。時の米国務長官ジョージ・マーシャルは、ケ
ナンを新設の政策企画本部の初代本部長に抜擢し、ソ連の封じ込
め政策を立案させ、実行しています。そうして行われた冷戦のの
結果、1991年12月にソ連は崩壊することになります。
 そのケナンがGHQによる日本の指導者の公職追放が行われた
直後の日本に来て、愕然としたのです。「マッカーサーのやり方
ではいずれ日本は赤化する」と。その指摘によってGHQは間違
いに気付き、基本方針を変更し、1950年に、朝鮮戦争がはじ
まったこともあって、同年8月に、自衛隊の前身になる警察予備
隊が創設されたのです。
 日本学術会議はそういう日本の混乱期に創設されています。し
たがって、1950年の「戦争を目的とする科学の研究には絶対
に従わない決意の声明」も納得できるし、1967年の同趣旨の
声明も理解できます。当時は、現在の中国や北朝鮮のように、日
本にとって直接脅威になる存在がなかったからであり、防衛目的
であっても「軍事や戦争は絶対NO」だったからです。
 しかし、事実上の軍隊である自衛隊をこれまで日本政府は、覆
い隠してきたように思います。国民に戦争を想起させる言葉をな
るべく使わないようにしてきています。その成果(?)というべ
きことが起きてきています。
 それは、「自衛隊で一番エライ人はだれか」と聞かれて、正確
に答える人が少なくなっていることです。日本以外の国であれば
この質問には子供でも答えられます。「元帥」とか「大将」とい
うようにです。
 自衛隊では「統合幕僚長」がトップです。統合幕僚監部の長で
あり、制服組の最高位者のことです。普通の国では「大将」とい
うことになります。どういう人が統合幕僚長になるのかというと
階級が陸将、海将、空将のいずれかで、陸上幕僚長、海上幕僚長
または航空幕僚長のなかから、持ち回りで選出されることになっ
ています。そのようなこと、自衛隊の関係者でもない限り、知っ
ている人は少ないでしょう。それほど、日本人は、政府から意識
的に、軍事、軍隊、兵器など、戦争を想起させられるものから遠
ざけられているのです。
 それだけに、1967年から50年後の2017年の日本学術
会議による「軍事的安全保障研究を拒否する声明」には強い違和
感があります。それが、今回の菅政権による日本学術会議会員の
任命拒否につながってきているといえます。
 確かに日本人は完全な平和ボケにかかっています。2016年
から2017年というと、北朝鮮が核実験とミサイル発射を何度
も行った年です。しかも、北朝鮮のミサイルは、日本を飛び越え
て、グアムに向って飛んでいるのです。それでも日本人は「米国
が何とかしてくれる」と思っています。
 次の対話を読んでください。櫻井よしこ氏と、作家でジャーナ
リストの門田隆将氏の対話です。
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櫻井:ピューリッツァー賞を受けたアメリカのジャーナリスト、
 ボブ・ウッドワードの著作によると、アメリカはその時(20
 16年)、80発の核兵器を用意して北朝鮮を攻撃するシナリ
 オまで描いていた。米朝関係は極度の緊張状態にありました。
門田:まさにギリギリの状態でした。ですから、日本の国民は科
 学者に対して、ミサイルを防ぐ、ミサイルから守る技術の開発
 を期待していた。ところが、その翌年に学術会議は、「軍事研
 究は行わない」という声明を引き継ぐ方針を打ち出しました。
 これは、「国民の生命・財産を守るためには私たちは協力しま
 せん」というに等しい。
櫻井:しかも2017年は、中国共産党が軍民融合で科学技術を
 発展させていくことを掲げた中央軍民融合発展委員会を設置し
 習近平主席が主任に就任しています。米朝関係、中国の動きな
 どを見ると、日本の周辺が緊迫しているのがわかるはずなのに
 学術会議は軍事研究にノーをつきつけた。
門田:ここで正体を現したと言えます。つまり一体、日本学術会
 議は何のために存在しているのか、ということです。国民は問
 いたいと思いますよ。ひよっとしたら、あなたたちは日本のた
 めではなく、共産主義や中華人民共和国の利益のために存在し
 ているのですか?と。
         ──月刊「Hanada」2020年12月号より
─────────────────────────────
 櫻井よしこ氏や門田隆将氏の指摘は厳しいですが、理屈は通っ
ています。日本の領土である尖閣諸島周辺では、毎日中国の公船
がやってきて、我が物顔に振る舞って、日本の漁船を追いまわし
ています。北朝鮮は、核実験やミサイル発射は現在は少し控えて
いるものの、いつ再開するか、わからない情勢にあります。危機
は、すぐ眼前にあるのです。
 しかし、メディアはその事実は報道するものの、そのトーンは
極めて控え目です。国民の意識に至っては、まるで「見て見ぬふ
り」をしているようです。政府も日本学術会議の会員の任命を拒
否をする前に、学術会議側とそのあり方について十分協議するべ
きであったと思います。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/108]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平主導「軍民融合」が示す軍事経済の始まり
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   肩書マニアと揶揄されるくらい、組織トップの肩書を自分
  のものにしたがる中国の国家主席・習近平に、また一つ肩書
  が増えた。新たに設置される中央軍民融合発展委員会の主任
  である。そもそも、軍民融合とは何なのか。なぜ党中央の委
  員会まで作って、その指揮を習近平自身がとりたがるのかを
  考えてみたい。
   2017年1月22日に、政治局会議が招集され、中央軍
  民融合発展委員会の設置が正式決定し、習近平が主任となっ
  た。軍民融合が統一的な党中央の指導によって進められるこ
  とになる。ところで軍民融合とは何なのだろう。ここ数年、
  習近平は軍民融合の掛け声の下、2016年8月には、中国
  航天科技集団など中央軍産企業、大手金融機関など13企業
  による初の軍民融合産業発展基金を設立している。基金規模
  は302億元にのぼる。
   一見すればこれは軍産企業の民営化であり、軍事技術の民
  生利用促進かと思うのだが、報道の詳細を読むと、そう単純
  なものでもないようだ。フェニックステレビの軍事チャンネ
  ルが比較的明解に説明していたので、それをもとに考えてみ
  る。フェニックステレビはこう言っている。「軍民融合とは
  国家の運命の大事に影響するものである。軍民融合がうまく
  できなければ、軍備が落ちぶれるだけでなく、国家経済が破
  たんする。           https://bit.ly/380TjZ7
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ジョージ・F・ケナン.jpg
ジョージ・F・ケナン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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