しく述べることにします。その前提として、オーストラリアにつ
いて知る必要があります。
オーストラリアは、「オーストラリア連邦」という連邦制です
が、より正確にいうと、政体は「立憲君主制・連邦制」というこ
とになります。国家元首は、イギリス国王・女王、すなわち、エ
リザベス女王が兼務するかたちになっています。次の6つの州と
その他の特別地域に区分され、首都はキャンベラです。
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≪州≫
1.ニューサウスウェールズ州 シドニー
2.ビクトリア州 メルボルン
3.クイーンズランド州 ブリスベン
4.南オーストラリア州 アデレード
5.西オーストラリア州 パース
6.タスマニア州 ホパート
≪特別地域≫
7.首都特別地域 キャンベラ
8.北部準州 ダーウィン
https://bit.ly/3k6rUYK ─────────────────────────────
それぞれの州には知事がいますが、州知事は「首相」と呼ばれ
ています。そしてオーストラリア全体を仕切る首相(連邦首相)
がいます。現在は、スコット・モリソン氏が連邦首相です。
世界中にいる中国人を「華僑」といいますが、中国共産党は、
たとえ外国籍を取得していても、それらの在外華僑を中国政府の
目的のために動員する戦略を2000年からとっています。これ
を「僑務工作」といいます。
中国共産党は、ターゲットを州知事の首相に絞って入念な工作
を仕掛けてきています。そのターゲットにされた1人がメルボル
ンを擁するビクトリア州のダニエル・アンドリューズ知事です。
このアンドリューズ知事は、こともあろうに独断で中国の進める
一帯一路プロジェクトに加盟しようとしているのです。
2018年に連邦政府の外務省から「連邦政府の方針と合致し
ない」といわれているにもかかわらず、既に基本合意を交わして
しまっています。2019年10月には、さらに詳細な覚書にも
署名し、2020年6月に最終的合意書を交換する予定だったの
ですが、コロナの関係で止まっています。
アンドリューズ知事は、労働党に所属していますが、その労働
党内部からも反対の声が上がっているにもかかわらず、聞く耳を
持たないのです。これについて、米国のポンペオ国務長官は、次
のように懸念を表明しています。
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もしこれにより、通信分野で米国に害を及ぼすことがあれば、
米国は重要情報共有において、オーストラリアをシャットアウト
することになり得る。 ──ポンペオ米国務長官
https://bit.ly/2FlORbB ─────────────────────────────
これに関して、アンドリューズ知事は、次のように強く反論し
ています。
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これはビクトリア州の経済と雇用に寄与するもので、ビクトリ
ア州民のためにやっていることだ。中国とすべてにおいて合意す
るものではない。たとえば、香港に関しては連邦政府と同意見で
ある。しかし、ビクトリア州のためになることをやるのはいいこ
とだ。 ──ダニエル・アンドリューズ知事
『月刊Haneda』 /セレクション
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「一帯一路計画」がビクトリア州で発動すると、一体何が起き
るのかについて考えてみます。
まず、中国の巨額の融資によって、大規模なインフラの開発が
行われます。しかし、この工事を実施するのは、中国企業であり
多くの中国人労働者が投入されます。その多くはそのままビクト
リア州に住みついてしまいます。これも中国のひとつの狙いなの
です。中国村が出来ると、やがて政治を左右し、ますますオース
トラリアは中国に傾斜せざるを得なくなります。
ビクトリア州のオートスラリアの企業に関しては、一帯一路関
連事業の第三国の仕事が優先的に割り振られるので、仕事は増え
るはずです。通常であれば、わざわざ中国から労働者をオースト
ラリアに連れてこず、ビクトリア州の企業を使ってインフラ開発
をやるべきですが、そういうことはけっしてしないのです。ここ
が中国のズルイところです。すべてを中国が握っている方が何か
と都合が良いからです。
問題は、インフラ開発に要する巨額の費用の返済です。もし、
返済ができなくなると(そうさせるのが中国の狙いですが)、そ
のインフラをカタに取られ、中国が最初から狙っている港などを
強制的に99年間中国が借り受ける契約にサインさせられること
になります。いわゆる「債務の罠」です。そういう例は、枚挙に
にいとまがないことです。スリランカは、インフラ建設のカタに
ハンバントタ港を事実上失っています。
それにしても、アンドリューズ知事は、なぜそこまで、中国の
罠に嵌ってしまったのでしょうか。あまりにも、中国寄りに成り
切ってしまっています。これについては、次のレポートが参考に
なります。
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情報戦略アナリスト/山岡鉄秀著
『「目に見えぬ侵略」で豪、州議会大物が家宅捜査』
『月刊Haneda』 /セレクション
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──[『コロナ』後の世界の変貌/073]
≪画像および関連情報≫
●「一帯一路」と中国債務の罠/小原篤次氏
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ギリシャ危機は、政権交代をきっかけに、国債、つまり国
の借金を過少申告したことが明るみになって起きた。政権交
代しても「借金」は引き継がれる。同様のことがスリランカ
やマレーシアで起きている。
中国による「債務の罠」として、メディアが注目している
のが、スリランカ南部の港、ハンバントタ港である。スリラ
ンカ政府が、中国からの融資を受けて建設した港湾の運営が
赤字続きで、しかも同政府が返済能力を欠き,返済資金を工
面するため、2017年末,中国国営企業に運営権を譲渡し
た。ハンバントタ港は,2015年までスリランカ大統領を
務めたラジャパクサ氏の出身地、同国南部に、中国の融資で
空港などとともに建設された。空港は、大統領にちなんで、
「マッタラ・ラージャパクサ国際空港」となった。中国の政
策銀行のひとつ中国輸出入銀行からの融資で建設され,施工
は中国土木大手傘下の中国港湾工程(CHEC)が担った。
スリランカ政府は2017年末、港湾運営会社の株式の大
半を中国国有港湾大手の招商局港口に譲渡したうえで,99
年間におよぶ長期リース契約で11億ドルを回収する計画で
ある。債務と株式を交換するスキームはデットエクイティス
ワップと呼ばれる。招商局港口はこれに先駆けて、主力港コ
ロンビア港のターミナル運営会社の株式の大半を取得してい
る。 https://bit.ly/32iR4Nx
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ダニエル・アンドリューズ州知事