いて、WBSの滝田洋一氏の意見を参照にご紹介します。
米国経済の深刻さをあらわす事実があります。3月の新規失業
保険申請者数が990万人、ほぼ1000万人に達していること
です。急速な雇用市場の悪化です。その結果、4月3日に発表さ
れた米国の失業率は4・4%、2月の3・5%から、0・9ポイ
ントも跳ね上がったのです。いや、これでも過小評価で、現在の
米国の失業率の実勢は10%に近いともいわれています。
米国の失業者の対応について、WBSの滝田洋一氏は、次のよ
うに述べています。
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失業者の増加に対しては、雇用そのものを積み増す公共投資が
浮上している。トランプ大統領は「2兆ドル規模のインフラ投資
で雇用の再建が必要だ」と主張し始めた。1930年代のルーズ
ベルト大統領のニューディールを思わせる公共投資政策である。
ペロシ下院議長も「次は高速通信網や水道インフラの整備など
を盛り込むべきだ」と強調。民主党の十八番である公共投資にト
ランプ大統領が乗ったことで、民主党も共和党もなくなった。
──滝田洋一著
『コロナクライシス』/日経プレミアシリーズ
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これに対して、日本の日銀総裁に当るFRBのパウエル議長は
どのように対応したでしょうか。
3月15日、FRBは17日と18日に予定していたFOMC
(連邦公開市場委員会)を前倒しして開き、緊急利下げを行って
います。フェデラルファンド金利を1%引き下げ、0〜0・25
%とする決断を行ったのです。これは、2008年12月に実施
したゼロ金利政策の復活です。
それに加えて、量的緩和として国債5000憶ドルと住宅ロー
ン担保証券(MBS)2000億ドルを合わせて、7000億ド
ルを買い入れすることを決めています。
トランプ大統領は、株価を上げるための利下げを求め、ことあ
るごとにFRBに「パウエル議長を解任する権限がある」と、プ
レッシャーをかけていたのですが、パウエル議長は、頑としてト
ランプ大統領の要請を無視していたのです。それだけにトランプ
大統領は、今回のパウエル議長の素早い決断を高く評価し、「金
融当局におめでとうといいたい」といっています。このFRBの
決断について、滝田洋一氏は次のように述べています。
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パウエル議長はFOMC後の記者会見で「市場の流動性に強い
ストレス」と指摘した。3月16日、日本銀行も18〜19日に
開く予定だった金融政策決定会合を前倒しし、追加の金融緩和を
決めた。カギとなるのは株式を購入するための上場投資信託(E
TF)の買い入れ増額だった。それまでの年6兆円を年12兆円
に倍増したのである。 ──滝田洋一著の前掲書より
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FRBの決断はこれだけではないのです。3月23日になると
FRBは、連銀法13条(第3項)の発動に踏み切っています。
連銀法13条(第3項)とは何でしょうか。これには、少し説明
が必要になります。
米国の中央銀行制度は「連邦準備制度」といわれ、ワシントン
D.C.にある「連邦準備制度理事会/FRB」が全国に散在する
連邦準備銀行(連銀)を統括しています。その連銀の通常の貸出
対象は銀行だけですが、この条項を発動すると、銀行以外の金融
機関や企業、ファンドなどに対しても、融資ができるようになり
ます。そのため「伝家の宝刀」といわれているのです。
2008年のリーマンショックのときも連銀法13条を発動し
ています。まさに「何でもやる」という姿勢です。具体的には、
雇用主、消費者、企業へのお金の流れを支援するために新たな基
金を発足させ、銀行を後押しするとともに、FRB自身もお金を
出そうというのです。滝田洋一氏は次のように述べています。
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大手の雇用主のためには、FRBが社債の購入に踏み切ること
にした。社債の購入はベン・バーナンキ、ジャネット・イエレン
の2人のFRB議長経験者によるアドバイスである。米国ではこ
ういう時の当局者の結束は固い。通常の中央銀行の仕事は、金融
システム維持のための「最後の貸し手」である。それに対し、今
のFRBは、コロナで止まった経済を動かす「最初の貸し手」と
なったのだ。(中略)
果たして米議会で3月27日に成立した大型経済対策には、F
RBが新たに4兆ドル相当の社債購入や融資ができるような仕組
みが組み込まれた。コロナで打撃を被った企業に資金提供する基
金を立ち上げる。この基金の貸し倒れに備えて財務省は4250
億ドルの資本を拠出する。大型経済対策のための法律の条文には
「企業や州政府、地方政府などへの貸出を支援する金融システム
に流動性を供給する目的で、FRBにより設立された基金あるい
はプログラム」とある。その流動性供給の手段のなかに、「発行
体からの債務やその他株式の直接買い入れ」という文言があるの
が目を引く。 ──滝田洋一著の前掲書より
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「1ドルの損失吸収力、つまり資本があれば、10ドルの融資
が可能である」──これはFRBのパウエル議長の言葉です。こ
のように、米国は財務省とFRBの役割分担が明確になっていま
す。財務省はリスクを吸収する資本部分、FRBは焦げ付きの恐
れのない負債部分の面倒をみるという分担です。
滝田洋一氏は、これら米国の一連のコロナとの戦いのための対
策は、政府と中央銀行が一体となったまさにマネーのバラマキ、
すなわち、へりコプターマネーと同様であるといっています。そ
の成否はコロナとの戦いの期間にかかっているといわれます。
──[『コロナ』後の世界の変貌/029]
≪画像および関連情報≫
●米4800億ドルの追加対策合意/中小企業の給与補填増額
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【ワシントン/河浪武史】トランプ米政権と与野党の議会指
導部は4月21日、4840億ドル(約52兆円)の追加の
新型コロナウイルス対策で最終合意した。中小企業の雇用対
策などに3700億ドルの追加資金を用意し、医療体制の整
備にも1000億ドル強を投じる。上院は関連法案を同日可
決。下院も23日に通過する方向だ。これまでの3回の経済
対策と合わせ、財政出動は3兆ドルに迫る。
トランプ大統領は21日の記者会見で「中小企業に追加資
金を供給するため、迅速に関連法を成立させる。その後は、
すぐに『経済対策第4弾』の議論に入るつもりだ」と表明し
た。同席したムニューシン財務長官は「これまでの中小企業
の資金支援で既に3000万人の雇用維持につながった」と
政策効果を強調した。
追加対策の柱は、中小企業への資金支援の拡大だ。3月末
に成立した2・2兆ドルの経済対策には、中小企業の給与支
払いを補填する3500億ドルの雇用対策を盛り込んだ。今
回はさらに3100億ドルを追加。資金規模は6600億ド
ルと当初の1・9倍に増える。中小の雇用対策費は開始2週
間で上限に達して受け付けを停止していた。追加資金を用意
して早期に支援を再開する。https://s.nikkei.com/38tPr1b
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FRBパウエル議長