2007年07月12日

●財政出動は悪ではない(EJ第2121号)

 政府が実施する経済政策は、財政政策と金融政策があり、政府
はそれぞれの経済情勢に合わせて2つの経済政策を行うのです。
これら2つの経済政策の中で、最近では財政政策がすこぶる評判
が悪いのです。
 財政政策の評判が悪いのは、必然的に多額の財政赤字を伴うか
らであり、それが嫌われるからです。そして、最近では財政政策
を唱える学者やエコノミストがあまり財政政策を強調すると、古
い時代遅れの政策を唱えるケインジアンとしての評価を受ける傾
向が強いのです。その典型的なエコノミストはクー氏です。その
ため金融政策派の学者やエコノミストが増えてしまったのです。
 しかし、これは次の2つの点においておかしいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.国家にとって必要なときは財政赤字が増えてもやらなけれ
   ばならないときがある
 2.財政赤字が将来世代の負担を増やすという意見があるが、
   それは正しくないこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回は上記1について考えます。日本は、既に対GDP比で、
150%以上の財政赤字残高があります。昨今においてこれは何
とかしなければならないということで、財政再建が大きなテーマ
になってきています。
 これはけっして間違ったことではありませんが、前政権におい
て、政府、というより財務省が増税を認めさせるコンセンサスを
作ろうと、現在の財政赤字の巨額さを意図的に訴えるキャンペー
ンを張ったり、借金時計まで作って借金が時々刻々増えているこ
とを強調するやり方は間違っていると思います。
 財政赤字が一定の規模に達すると、国の経済に致命的な打撃を
与えるというような規準は存在しないのです。国家がそれを必要
とするときは、たとえ財政赤字が積み上がっても、やらなければ
ならないことがあるのです。
 1945年時点において英国は、対GDP比で250%の財政
赤字を抱えていたのですが、英国はスピットファイヤー戦闘機や
アブロランカスター爆撃機の増産を続けたのです。もし、英国が
財政赤字を気にしてそれをやめていたら、英国はヒットラーの率
いるドイツの一部になっていたかもしれないのです。
 バランスシート不況時――それが契機になってデフレになる時
期においては、政府の財政支出だけが経済のデフレスパイラルを
防ぐことがわかっています。そういう時期には間違っても財政再
建をやってはならないのです。なぜなら、それをやっても財政赤
字は減るどころか増えてしまうからです。
 これは、1996年からの橋本政権、1998年後半からの小
渕政権、そして森政権を経て2001年からの小泉政権が実施し
た経済政策とその結果を分析すればわかることなのです。
 1996年に日本は、当時G7で最高の実質4.4%のGDP
成長率を誇っていたのです。既に不動産価格は急落していたので
すが、バブルの頂点からせいぜい6年前の1985の水準であり
賃料はそれほど下がっていなかったのです。そこに注目して外国
から投資家が日本の商業用不動産を買いにきていたのです。つま
り、日本の不動産は投資対象として十分魅力的であったのです。
 したがって、もし橋本内閣が適正な経済政策を行っていれば、
GDP成長の勢いは維持され、国内の資産価格もこうした外人投
資家の買いによって早く底を打ったと思われるのです。
 しかし、橋本政権が財政再建をはじめたことで経済は変調し、
5・四半期連続でマイナス成長となり、経済がメルトダウンして
しまったのです。そのため、せっかく外国から投資物件を買いに
きた外人投資家たちに対し、投資物件の購入前に必要なデュー・
デリジェンスという手続きがとれなくなってしまったのです。
 デューデリジェンスとは、主に投資用不動産の取引を行うとき
や企業が他社の吸収合併――M&Aや事業再編を行うとき、ある
いはプロジェクトファイナンスを実行する際、果たして本当に将
来的に見て適正な投資なのか、また投資する価値があるのかにつ
いて判断するため、事前に詳細に調査を行う手続きです。
 しかし、経済がメルトダウンしてしまったために、将来の収益
見通しはたたなくなり、手続きができなくなったのです。先進国
においてこのようなことが起こるのは珍しいことなのです。そし
て、商業用不動産価格はこれによって1997年の水準からさら
に53%も下落し、ほとんどの企業がバランスシートに大きな問
題を抱えるようになってしまったのです。
 リチャード・クー氏のバランスシート不況論を知れば知るほど
従来から経済政策の中にある次の不可解な図式を改める必要があ
ることを感じます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      財政再建 ・・・・・ 良いこと
      財政出動 ・・・・・ 悪いこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 EUのマーストリヒト条約では、加盟国の財政赤字には「国内
総生産(GDP)の3%以内であること」という上限が儲けられ
ています。この規定は何となく正しいように見えますが、上記の
図式にしたがっており、問題があります。なぜなら、これによっ
て、そのときどきの国の経済状況に応じて、有効な経済政策を実
施する自由度を縛っているからです。
 クー氏によると、現在ドイツとフランスの経済は、バランスシ
ート不況の中にあり、財政出動が求められているからです。仮に
ここで財政赤字が拡大しても、バランスシート不況が起こるのは
最短でも数十年に1回の頻度であり、その不況からの脱出のため
に大量の国債を発行して莫大な財政赤字を抱えたとしても、それ
を修復するのに必要な年数は確保できるのです。
 2003年にEU経済・財務相理事会(ECOFIN) は独仏
両国に対する処分を保留する決定を下しています。財政出動が必
要な状況にあるからです。  ――[日本経済回復の謎/30]


≪画像および関連情報≫
 ・マーストリヒト条約とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  マーストリヒト条約は、欧州連合(EU)創設のための条約
  で、3つの柱からできています。
  (1)欧州共同体(EC)の改正 … 通貨統合を目的とする
  (2)共通外交安全保障政策 … 外交・安全保障における欧
     州一体化を目的とする
  (3)司法・内務協力 … 警察協力・難民対策などにおける
     各国協調を目的とする
  マーストリヒト条約では、通貨統合の計画や、通貨統合参加
  に対する国内経済の一定基準が定められ、1991年12月
  合意、1993年11月発効となりました。なお、マースト
  リスト条約は、1997年6月に合意したアムステルダム条
  約(新欧州連合条約)で強化され、2000年12月に合意
  したニース条約でEU加盟国拡大を踏まえた改正が行われて
  います。      http://www.findai.com/yogo/0325.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

u`[hEN[.jpg
posted by 平野 浩 at 04:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。