貨幣理論などというような大袈裟な理論ではなく、見たままの、
当たり前のことをいっているだけではないかと主張しています。
リンゴが木から地面に落ちるのを見て、「リンゴが落ちた」と
いい、地球は平らで端の部分は瀧になっているというのに対して
地球を一周したが、そんな瀧なんてなかったという事実をいって
いるだけというのです。
錯覚している人が多いのです。例を上げると、多くの人は、民
間銀行は預金というかたちで資金を集め、銀行はその預金をベー
スにして企業や個人に貸し出しをすると考えています。そんなこ
とは、常識じゃないかというわけです。
これについて、井上智洋駒澤大学准教授は、次のように述べて
います。
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主流派経済学者は、まず家計が民間銀行に預金し、その預金を
基に企業に貸し出しを行うと考えがちです。これを「又貸し説」
と言います。その後企業は、賃金や配当といった形で家計にお金
を供給します。しかし、この順番だとそもそも家計は最初に預金
すべきお金をどこから得たのか謎が残ります。
それに対し、MMTはまず貸し出しの際の預金通貨の創造があ
り、そのお金を企業は投資や賃金の支払いに使います。賃金を得
た家計はそのお金の一部を預金します。要するに、MMTが主張
しているのは、又貸し説は間違いであって、万年筆マネー論が正
しいということです。貸し出しの際に預金通貨が創造されるとい
うことは、貸し出しを行う度に、世の中に出回るお金「マネース
トック」(現金十預金)が増えていくことを意味します。
──井上智洋著
『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
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最初に、家計が預金するのではないのです。銀行が貸し出しの
さいに預金通貨という万年筆マネーを創造し、そのお金を企業は
投資や賃金の支払いに使うので、そうして得たお金を家計は、そ
の一部を銀行に預金するのです。預金が先にあって、そこからお
金を貸すのではないのです。これをMMTでは「スペンディング
・ファースト」といっています。
「約50兆円しか税収がないのに、毎年100兆円を超える予
算を使っている。これじゃ借金が累積して日本は破綻する」とい
われますが、MMTでは「税は政府支出の財源ではない」という
のです。「何をバカなことを!」というなかれ、よく考えてみる
と、そもそも歳入(税収)を歳出(政府支出)に使うのは、不可
能なのです。
これについて、経済評論家の三橋貴明氏は、なぜ不可能なのか
について、次のように説明しています。
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確定申告は、例えば2019年であれば「2019年1月1日
から12月31日」までの課税期間の収入・支出、控除等を税務
署に申告し、納付すべき税額を確定する。確定申告の時期は「2
020年2月16日から3月15日までの1ヶ月間」である。繰
り返すが、2019年の経済的な行為について、我々は翌20年
2月及び3月に申告しているのだ。つまりは、2020年3月以
降、確定申告後の税金支払いまで、政府は最終的な税収を得られ
ないことになる。
ところが、政府は2020年の予算については普通に執行して
いる。おカネを支出しているのだ。政府は税収や国債発行(民間
金融機関からの借入)なしでも、予算を支出できる。というより
も実際にしている。支出が先、つまりは、スペンディング・ファ
ーストである。 https://bit.ly/3dU52tc
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具体的に、どのようにして政府支出をするのかというと、それ
はきわめて簡単なのです。財務省が「財務省証券」を発行し、そ
れを日銀に持ち込み、その金額を日銀の政府当座預金口座に電子
的に記入してもらうだけです。政府は、このようにして、徴税や
国債発行なしでも、ごく簡単にお金を発行できるのです。
これは、これは、政府の一時的な借金のように見えますが、日
銀は政府の子会社であり、事実上政府がお金を発行しているのと
同じなのです。これは、「明示的財政ファイナンス(OMF)」
と呼ばれています。OMFは、次の言葉の略です。
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◎明示的財政ファイナンス(OMF)
Overt Monetary Financing
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この明示的財政ファイナンスについて、井上智洋准教授は、次
のように解説しています。
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(明示的)財政ファイナンスというのは、政府が貨幣発行を財
源に支出を行うことです。これは、実際に行われていることで、
MMTの文脈では、中央銀行がキーストロークによって作り出し
たお金を、政府が支出に充てることを意味します。
ただし、実際には政府支出の財源が租税や国債であるかのよう
に偽装されています。支出と同額の税金を徴収したり国債を発行
したりすることによって、あたかも財政ファイナンスを行ってい
ないかのような装飾が施されているというわけです。OMFは、
その装飾をはぎとって、あからさまに、財政ファイナンスを実施
しようということです。 ──井上智洋著の前掲書より
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この説明で印象的なのは、「政府支出の財源が租税や国債であ
るかのよう偽装されている」という部分です。つまり、これは、
表向きは政府支出は税収や国債であるように国民には思わせる必
要があるということを意味しています。
──[消費税は廃止できるか/061]
≪画像および関連情報≫
●なぜ今、現代財政理論なのか/鷲尾香一氏
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2019年初めから、現代貨幣理論(MMT)という新た
な経済理論がメディアなどの盛んに取り上げられた。MMT
の最大の特徴は、「財政赤字に問題はなく、政府が財政再建
を行わなくとも、財政が破たんすることはない」という考え
方で、その成功例として、政府債務がGDP(国内総生産)
の240%にも達しながらインフレにも陥らず、財政破たん
もしていない「日本」が取り上げられているためだ。
国内では数年前から「政府総債務残高が家計純金融資産残
高を上回なければ、国債消化に困難が生じることはなく、財
政危機が起きることはない」という考え方「現代財政理論」
が、一部の学者やエコノミストのあいだで唱えられている。
MMTでは財政について、不況期には、政府が借金をしても
(財政赤字でも)、政府支出を増加させることで資金が民間
に回り、景気が回復すると考える。
不況時の財政黒字は、民間に資金が回っていないことを意
味し、不況時に財政支出を行わないと、不況は一段と深刻化
するという考え方だ。そして、「政府債務がどれだけ膨らん
で、財政赤字となろうとも、財政再建を行わなくとも、債務
不履行に陥ることはない」と理論付けている。
https://bit.ly/39vNW1m
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経済評論家/三橋貴明氏
様々な方が登場し、この理論を天動説に対する地動説であると指摘しておられますが、それならば世界で一番早くこの問題を指摘した堂免信義さんを取り上げないのは、失礼ながら片手落ちではないかと思います。
堂免さんはソフトウェアの世界では有名人ですが、還暦を迎えてから独自で経済学に関する著作や論文を発表された方なので、経済学者には注目されていないきらいがあります。
最初の著作は2005年の『日本を滅ぼす経済学の錯覚』(光文社)で、すでにこの時、貯蓄から投資がなされるのではなく投資が貯蓄となることに気がつかないことが経済学の致命的問題であることを指摘されています。
その後、『「民」富論』(2008 朝日新書)、『日本を貧困化させる経済学の大間違い』(2010 徳間書店)、『脱・資本論』(2014 Kindle版)と続き、論文も京都大学「紅」にて数編発表されていますが、いずれも理論的かつ実証的な内容で参考になるものと考えます。
とくに『脱・資本論』(Kindle)では、問題点の指摘だけでなく、最終章において電子マネーを使った新しい通貨の創造により問題が解決されることを述べていて、政策論としても一読の価値があると思います。