2020年03月27日

●「政府はエリートでなければならぬ」(EJ第5215号)

 「ハーヴェイ・ロードの前提」という言葉があります。ジョン
・メイナード・ケインズが、英国のケンブリッジのハーヴェイ・
ロード6番地に住んでいたことから、そう呼ばれます。一国を治
める者は「ハーヴェイ・ロードの前提」を満たす必要があるとい
うように使われます。これは、次のことを意味する言葉です。
─────────────────────────────
 「ハーヴェイ・ロードの前提」とは、政府は民間経済主体より
も優れた政策判断を下すことができる。     ──ケインズ
─────────────────────────────
 これに似た言葉にプラトンの「哲人政治」があります。これは
古代ギリシアの哲学者プラトンが、その著書『ポリテイア』にお
いてあらわした政治理念であり、次のことを意味しています。
─────────────────────────────
 政治とは「正義」を実現することであり、善のイデアによって
国民を導くことであるから,哲人が王となるか、あるいは、王が
哲人とならなければ,実現されない。      ──プラトン
─────────────────────────────
 要するに、これらは「高度に学問を修めた賢いエリートが国を
治めなければならない」ということをいっているのですが、単な
る理想論に過ぎません。なぜなら、民主的に選挙で選ばれたリー
ダーというものは、どうしても大衆受けを狙った愚かな選択をし
てしまうものだからです。
 ジェームズ・M・ブキャナンという米国の財政経済学者がいま
す。彼は次の本のなかで、「ハーヴェイ・ロードの前提」、すな
わち、ケインズ主義的財政政策を批判しています。
─────────────────────────────
 ケインズは、少人数の知識エリートによる政策運営を理想とし
ていただけでなく、現実の政治も基本的には、そのように動いて
いると想定していたのである。──ジェームス・M・ブキャナン
      &リチャード・E・ワグナー共著/大野一(翻訳)
         『赤字の民主主義/ケインズが残したもの』
                   日経BPクラシックス
─────────────────────────────
 要するにブキャナンは、選挙で選ばれた政治家の下でケインズ
政策が行われている限り、財政赤字が巨額化することは避けられ
ないというのです。むしろ、選挙で選ばれたわけではない中央銀
行のエリート官僚の手で行われる金融政策の方が、「ハーヴェイ
・ロードの前提」を満たすともいっています。
 伝統的なケインズ政策において、景気が悪いとき政府は、道路
や橋を建設するなどの公共事業を行い、雇用を確保するとともに
景気を刺激し、逆に景気が良いときは、インフレにならないよう
に、政府支出をコントロールする──これらは、政治家の裁量に
よって行われます。
 このような裁量的なコントロールではなく、状況に応じて的確
に正しい措置が自動的に行われる装置のことを経済学では、次の
ようにいいます。
─────────────────────────────
   ビルト・イン・スタビライザー(自動安定化装置)
                 built-in stabilizer
─────────────────────────────
 藤井聡京都大学大学院教授は、所得税と法人税には、一種のビ
ルト・イン・スタビライザー機能が、備わっていると述べていま
す。これについて説明します。
 所得税には「累進性」があります。所得が高ければ高いほど、
所得税率が高くなっていく仕組みです。もし、所得が150万円
であれば税率は5%ですが、所得が500万円になると、20%
もし1000万円なら33%、4000万円以上であれば45%
になります。
 デフレになると、多くの人の所得が下がり、税率が下がれば下
がるほど、自動的に減税されることになります。そのため、所得
税による所得の下落を緩和し、それを通して家計の消費の拡大が
もたらされ、貨幣循環量が拡大されます。これに対して、インフ
レになると、税率が上がり、それを通して貨幣循環量の拡大が抑
止されることになります。
 法人税の場合はどうでしょうか。法人税は「売り上げ」にかか
るのではなく、「利益」にかかります。景気が良くて黒字経営に
なれば法人税は支払わなければなりませんが、景気が悪く赤字経
営になると、法人税の支払いは免除されます。所得税と同様に、
法人税も、日本の場合は景気の動向によって20%から0%へと
自動的に減税されます。これによって、デフレ圧力は自動的に軽
減されることになります。
 これに対して、所得税、法人税にみられるビルト・イン・スタ
ビライザー機能が付いていないのが消費税です。しかし、藤井教
授は、消費税に一種のビルト・イン・スタビライザー的機能をつ
けることは、不可能ではないといいます。消費税は、市場におけ
るマネーの循環そのものに対する徴税であり、貨幣循環量を直接
的、かつ、効果的に調整するものとして機能します。消費税の税
率を「インフレ率」に連動させるのです。藤井教授はこれについ
て、カナダの例を上げています。
─────────────────────────────
 カナダでは、1990年までは「付加価値税」(日本で言う消
費税)が導入されていなかったが、80年代後半はインフレ率は
4%を超えていた。こうした状況の中、1991年に付加価値税
を7%で導入したところ、90年代のインフレ率はおおよそ2%
を下回る水準に抑制された。一方で、景気後退局面に入った20
06年7月に、月に5%へと引き下げられた。
                   ──藤井聡著/晶文社
   『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/056]

≪画像および関連情報≫
 ●ハーヴェイロードの賢者はいずこ
  ───────────────────────────
   今の日本社会は、ひどく混乱をしているようにみえます。
  国民の気持ちや願いが、政治に反映されているようにはみえ
  ません。経済や金が重要課題として、政策がつくられていま
  す。一方で、拝金的な行為を蔑み、幸福や満足度などを重視
  している多くの個人がいます。社会的弱者や若者を守り育て
  る社会であるべきだとわかっていながら、しわ寄せがいく仕
  組みが、日本では徐々につくりあげられています。
   テレビや紙面ではコメンテータや評論家が、好き勝手な意
  見を述べますが、だれもその発言に責任は負いません。責任
  を問われるようなジャーナリズムは、横並びの報道や意見、
  あるいは社の方針に基づいた考えしか述べていません。発言
  に責任を持つべき政治家も、言葉尻やささやかな不祥事は追
  求され、ポストを追われます。しかし、政治生命を立たれる
  ことなく、発言力を持っています。国を危険に陥れるような
  もっと大きな政策の誤りに対しては、だれも責任を取りませ
  ん。みんなが、このような間違いに気づいているはずです。
  かつての世界には、賢者と偉大なる指導者がいました。偉大
  なる指導者が、賢者の判断に基いて、混乱した世の中を治め
  ていたことがありました。日本でも、偉大な武将にはよい軍
  師が革命の英雄には賢者の思想がありました。そのような賢
  者が存在したのは、明治維新から明治ころまででしょうか。
                  https://bit.ly/3drVvcr
  ───────────────────────────

ジェームズ・M・ブキャナン.jpg
ジェムズ・M・ブキャナン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

RDF Site Summary