(JGP)」とは、具体的に何でしょうか。
すべての経済政策の目的は、「国民の幸福の確保と拡大」にあ
ります。重要なのは、それを左右するのが「失業率の低減」であ
ることです。多くの不幸の原因は「貧困」にありますが、その多
くは、「失業」によってもたらされるからです。
添付ファイルをご覧ください。2つのグラフがありますが、上
のグラフを見てください。これは1978年から2018年まで
の「自殺者数の推移」をあらわしています。
グラフのスタート時点の自殺者は、年間約2万人です。総数の
推移を目で追っていくと、バブルが崩壊した1990年頃から自
殺者はゆるやかに増加していることがわかります。
1997年には自殺者は約2万4千人になり、デフレに突入し
た1998年には3万2千人に跳ね上がっています。それ以来約
10年間、3万2千人のレベルに高止まりしています。これが下
落をはじめるのが2010年以降です。この頃から雇用状況は少
しずつ改善をはじめ、安倍政権になってから、失業者は大きく減
少すると、2018年頃には、1978年当時の2万人のレベル
までまで減少しています。不況は自殺者を増やすのです。
続いて下のグラフを見てください。これは賃金の推移をあらわ
しています。2015年を100として設定しています。バブル
崩壊後の1990年以降も賃金は伸びていますが、デフレのはじ
まる1998年以降、一貫して低下しています。
「名目賃金」とは、給料などの額面をあらわし、「実質賃金」
は、名目賃金の物価に対する割合をあらわしています。平成のは
じまりは1989年ですが、以来30年間、実質賃金は一貫して
下落しています。実質賃金の低下は、給料で購入できるものの量
が減ったことをあらわしており、それだけ貧乏化が進んだことを
意味します。主要国でこんな異常事態になった国は日本のみ。日
本は経済政策を完全に間違っているのです。それを端的にあらわ
しているのは次の事実です。
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◎一人当たり名目GDP
2000年 ・・・・・ 2位
2017年 ・・・・・ 25位
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それでは、JGPとは、どのようなプログラムでしょうか。藤
井聡京都大学大学院教授は、次のように説明しています。
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失業者が一定以上存在するような状況において、公務員を増や
したり公共投資などを行って雇用を生み出し、失業者がいない完
全雇用を目指すと同時に、政府が設定した最低賃金を実現させる
ことを目指す政策である。したがって、JGPはこれまで雇用保
障プログラムや、就労保障プログラム等と呼ばれてきたが、ここ
では、そのJGPが賃金水準の確保も明確に視野に収めたもので
あることから「就労・賃金保証」プログラムと呼称する。
──藤井聡著/晶文社
『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
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この「就労・賃金保証」プログラムは、1929年の世界大恐
慌のさい、米国は「ニューディール政策」として行っています。
このニューディールという言葉は、「新規まき直し」という意味
の思い切った経済政策のことをいいます。
このプログラムは、政府が「最後の雇い手」としての役割を担
い、民間では雇ってくれない人々を対象とし、政府が直接的な雇
い手となり、完全雇用を目指します。世界ではじめて、ジョン・
メイナード・ケインズの理論を取り入れた経済政策ともいわれて
います。この「最後の雇い手」という言葉ですが、資金不足に陥
った銀行が、他の銀行からお金を借りることができなくなったと
きに、中央銀行が「最後の貸し手」としての役割を果たすという
ことになぞらえています。
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◎最後の貸し手 Lender of Last Resort ELR
◎最後の雇い手 Employer of Last Resort LLR
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大恐慌のさいは、大規模な治水事業や道路事業を展開し、全国
で1300万人もの人々を雇用しています。このさい、政府が作
り出す就労機会の賃金はどのように設定されるのかというと、政
府が想定する「最低賃金」になります。最低賃金のレベルは、普
通に生活をしていける最小必要限のレベルに固定されます。そう
することによって、それ以下の賃金で働いている、ブラック企業
の労働者に転職を促し、吸収できます。そうなると、そういうブ
ラック企業では働き手が奪われていき、労働賃金を上げることに
よって、脱ブラック化が進むことになります。
もし、景気が回復すると、当然のことながら、より高い賃金を
保証する民間企業が増えるので、労働者はそのような企業に転職
して行くことになります。これについて、井上智洋教授は次のよ
うに説明をしています。
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政府がJGPで雇用する労働者の賃金は、「基本的公共部門賃
金」と言われています。ここでは、たんに「基本賃金」と呼ぶこ
とにします。仮に、JGPの賃金を時給1500円と決定したと
しましょう。そうすると、民間企業では、1500円以上の時給
に設定しないと、労働者を雇用することはできません。コンビニ
でのバイトの時給が1200円だったら、労働者はそのバイトを
辞めてJGPのほうに参加することでしょう。したがって、基本
賃金は、事実上最低賃金になるのです。 ──井上智洋著
『MMT/現代貨幣理論とは何か』/講談社選書メチエ
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──[消費税は廃止できるか/055]
≪画像および関連情報≫
●MMTの雇用保障プログラムが目指すものとその限界
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ネット界隈では非主流派経済学の一つMMTは、しばらく
話題になりそうだ。毎日新聞のコラムで取り上げられている
し、日経新聞でも紹介された。しかしメディアではまだMM
Tの柱の一つ、雇用保証プログラム(JGP)について注目
されていない。MMT教祖たちの長い議論でもはっきり言及
されているので、これを無視してMMTは理解はできない。
このように書くと、なにやら壮大な仕掛けな気がするが、
JGPの概要の説明は難しくない。政府や地方自治体が最低
賃金で雇用を用意し、望む全員に提供するというものだ。M
MT教祖は、総需要管理政策で雇用を増やすのではなく、J
GPによってルーズな完全雇用をインフレなしで実現すると
している。 https://bit.ly/2vKQtXF
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●グラフの出典/──井上智洋著の前掲書より
自殺者数の推移と名目賃金指数・実質賃金指数の推移