いわれます。世の中の一般の人が、常識的に認識しているお金に
関する考え方が「天動説」であるとすると、MMTにおけるそれ
は「地動説」であるというのです。天動説を信じていた人が、な
かなか地動説を受け入れられなかったと同じように、MMTの考
え方を理解できない人が多いのです。
昨日のEJの続きです。「国債とは何か」について考えます。
そのためにはもう一度「お金(マネー)とは何か」について検討
する必要があります。しかし、「お金」の定義をうんぬんすると
話が面倒になるので、単に「お金」として話を進めることにしま
す。いろいろな本を読んだのですが、井上智洋駒澤大学准教授の
説明が一番わかりやすいと思うので、以下に要約して説明するこ
とにします。
いわゆるお金は、紙幣も硬貨もありますが、そのほとんどは銀
行に預けている預金のように、データであり、記録のかたちで存
在しています。ところでそれは、何の記録でしょうか。
それは債務の記録です。MMTでは、「お金は『債務証書』で
ある」というのです。つまり、借金の証拠となる書類を意味して
います。MMTでは、この債務証書のことを「IOU」と呼んで
います。「IOU」は、次の頭文字をとっています。
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◎IOU/ I owe you. 「私は君に借りがある」
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お金が債務証書であるとすると、預金は民間銀行の債務証書で
すし、現金と預金準備は中央銀行(日銀)の債務証書ということ
になります。預金準備というのは、民間銀行が中央銀行に対して
持つ当座預金に貯まっているお金のことです。
国債といえば、政府の国民に対する債務(借金)であり、まさ
に債務証書そのものですが、MMTでは、お金(貨幣)も同様に
国民に対する債務であるというのです。
ここで「政府」とは、主流派経済学では慣例上、政府と中央銀
行をまとめた「統合政府」のことですが、MMTでも政府という
場合は統合政府を意味しています。しかし、お金が統合政府の債
務証書であることに、MMTでは哲学的な含蓄を込めています。
MMTの有力な主唱者のランダル・レイ教授は、これについて次
のように述べています。
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国王は、支払いにおいて割り符や硬貨を発行する。それが、国
王を罪深い債務者の立場に置く。国王は、自らの債務証書を受け
戻して、負債から解放される。
──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
講談社選書メチエ
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上記のランダル・レイ教授の言葉で、「国王」を総合政府、割
り符や硬貨を現金や預金準備に置き換えると、罪深い債務者の統
合政府は、自らの債務証書を受け戻して負債から解放され、租税
義務を負っている国民は、債務証書たるお金で税金を納めること
によって、この義務から解き放たれるのです。つまり、租税は、
統合政府と国民の双方を債務から解放させるのです。
つまり、お金も国債も、いずれも統合政府の債務証書であり、
ほとんど同じものであるといえます。それについて井上智洋准教
授は、最近イタリアで起きた次の出来事を通して、このことを説
明しています。
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2019年9月まで、イタリアの連立政権の第一党は「五つ星
運動」で、連立相手は「同盟」という政党でした。2019年5
月にその「同盟」が、「ミニBOT」という、国債(短期財務証
券)を発行する計画を発表しています。これは無利子永久債、つ
まり利子が付かないし満期もない国債です。
満期がないというのは、国債を償還しなくてよい、つまり国債
と引き換えに政府がお金を返さなくてよいということです。利子
がもらえないし元本すら返してもらえないような国債を持ってい
て何の得があるのかと誰しも疑問を抱くでしょう。
ミニBOTは代わりに、納税や決済(買い物)に使うことがで
きます。要するにこれは貨幣であり、実際にユーロとは別の「第
2の通貨」などと言われています。ユーロ圏の国が貨幣を勝手に
発行したら、ユーロの意味がなくなってしまうので、EUの本部
からは「またイタリアか、いい加減にしろ!」などと怒られてい
ます。結局のところ、この計画は実行には移されないようですが
イタリアらしくてやんちゃな、そして微笑ましいエピソードと言
えるでしょう。 ──井上智洋著の前掲書より
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イタリアの連立政権は、なぜ「ミニBOT」なる通貨まがいの
国債を発行しようとしたのかというと、ユーロ圏の国々は、自国
の通貨発行権を放棄しているからです。そのため、自国の通貨量
をコントロールできないのです。そうかといって脱退することは
イギリスの例を見ればわかるようにほぼ困難です。これがEUと
いうシステムの最大の問題点であるといえます。
これによってわかることは、国債というものをほんの少し変形
するだけでお金、すなわち貨幣になり得ることです。したがって
整理すると、次のようになります。
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お金=決済と納税が可能な無利子永久債
国債=決済と納税には使えぬ有利子貨幣
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問題は、お金(貨幣)にせよ、国債にせよ、いわゆる統合政府
の債務証書、すなわち借金であるとすると、それは本当に返済す
べきものなのかどうかにあります。MMTでは、それは租税を通
じて統合政府に戻ってくるべきであると考えています。
──[消費税は廃止できるか/046]
≪画像および関連情報≫
●第11話・通貨と国債の関係について
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ある国の経済成長を促すために、インフレを積極的に利用
しようというやり方がある。この手法を用いる場合、「市中
に通貨を供給してやる」必要がある。ではどうやって通貨の
供給量を増やすか?
中央銀行が紙幣を作って、勝手に空からバラ撒いてもお金
は増える。これで確実にインフレにはなる。しかしインフレ
が行き過ぎて、逆にお金を回収する必要に迫られた場合、は
たして市民が空から降ってきた紙幣をシュレッダーにかけて
くれるかは甚だ微妙だ。必要以上の圧倒的な量のお金が市中
に流通したままでは、コントロールできない悪性のインフレ
のタネとなる。
また外国人がそういう国と商取引をする場合、当該国の紙
幣に価値を見出すことも出来ない。ヘリでカネをばらまく国
の通貨を後生大事に保有していても、ある時突然カネが増え
ていて、結果、通貨の価値が下落していた・・・では、所有
する気にはならない。
しかもこれは外国人も自国民も同じ。なのでその国は誰か
らも信頼もされないだろう。無責任なお金ということでは、
お菓子のおまけについてくる「こども銀行券」と同じだし、
利子もお菓子もついてない。 https://bit.ly/3cL2Fbn
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ランダル・レイ授.教