日講演のさい、示したグラフを今日のEJの添付ファイルにして
います。ケルトン教授は、「財政再建」の旗印のもとで、いつも
目の敵にされている「財政赤字」について、添付ファイルのグラ
フを示し、次のように述べています。
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財政赤字は政府側からの見方でしかありません。我々民間の側
からバランスシートを見ましょう。すると、政府の赤字と同じだ
けが民間の黒字となります。政府の赤字は悪でも脅威でもなく、
財務のミスマネジメントの証拠となるものでもない。そういう見
方ではなく、政府の赤字は単なる手段なのです
https://bit.ly/2TGp3tQ ─────────────────────────────
確かにグラフを見ると、「民間の黒字=政府の赤字」になって
います。このことをMMTの「理論的な想定」とする向きがあり
ますが、そうではなく、これは「定義上の事実」なのです。狐に
つままれるようだという人もいますが、そんなことはなく、ごく
当たり前の事実をいっているのです。
これについて、駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏は、自著
で、次のように解説しています。とてもわかりやすい解説である
と思います。
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「MMTはただの会計学的な事実なので否定しようがない」と
か、「経済学者よりも、経理係や税理士のような実務家のはうが
MMTを理解しやすい」といったことが、しばしばMMTの支持
者によってつぶやかれて(文字どおりツイートされて)いますが
ゴドリーのSFCモデルのことを指して言っているのでしょう。
借り手がいれば必ず貸し手がいるわけで、考えてみれば当然の
ことです。民間部門の中でも、誰かの「債務」は誰かの「債権」
を意味しています。債務というのは金品を支払う義務ということ
で、債権というのは金品を要求する権利のことです。
私が友達にお金を貸せば、私は債権者で友達は債務者です。銀
行が政府にお金を貸せば、銀行が債権をもち政府は債務を負いま
す。そして、債権は土地やお金などとともに資産に含まれます。
したがって、政府が借金をすればするほど、民間部門の金融資
産が増大するのです。こうしたこともまた、当たり前の事実で重
要であるにもかかわらず、主流派経済学者によって見過ごされが
ちでした。 ──井上智洋著『MMT/現代貨幣理論とは何か』
講談社選書メチエ
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井上智洋准教授の説明にわからないことがひとつあります。そ
れは「ゴドリーのSFCモデル」です。これは、何を意味してい
るのでしょうか。
実は、来日講演会のさい、ケルトン教授は、MMTに関連して
アバ・ラーナー、ハイマン・ミンスキー、ウェイン・ゴドリーの
3人の名前を上げて、会場に次のように問いかけています。
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ウェイン・ゴドリーを知っている人、手を上げて?
──ステファニー・ケルトン教授
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これに対して挙手したのは、60人いる参加者のうちのたった
の3人だったといいます。しかし、ゴドリーのMMTへの貢献度
は、ラーナー、ミンスキーに何ら劣ることはないのです。それは
何といっても、「ストック・フロー・一貫モデル」にあります。
SFCとは、次の頭文字をとっています。ゴドリーは、「政府部
門の赤字」は、「民間部門の黒字」という当たり前の会計的事実
を、このSFCモデルとして定式化し、MMTに取り込んだので
す。SFCモデルの定義も書いておきます。
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ストック・フロー・一貫モデル
Stock-flow Consistent Model
厳密な会計のフレームワークに基づくことにより、経済のすべ
てのフローとストックを正しく包括的に統合することが保証され
たマクロ経済モデルの一群のことである。
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ゴドリーは、少し変わった英国の経済学者で、オックスフォー
ド大学を卒業したあと、なぜか、パリ音楽院で音楽を学び、BB
Cウェールズ管弦楽団の首席オーボエ奏者を務めていたことがわ
かっています。
政府の借金の限度は、民間の金融資産が天井になる──このよ
うなことがよくいわれますが、これはSFCモデルを踏まえると
ナンセンスなのです。なぜなら、政府が借金した分だけ、民間金
融資産が増えているからです。財務省は、民間金融資産が政府へ
の貸し出しに回されているといっていますが、これは完全に順序
が逆です。なぜなら、政府が借金をすればするほど、民間部門の
金融資産が増大するからです。
井上智洋准教授は、次のような興味ある事実を自著のなかで指
摘しています。
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政府の借金がゼロということは、民間金融純資産がゼロである
ことを意味します。果してそれは望ましいことなのでしょうか。
そして政府部門の黒字は、民間部門の赤字を意味します。アメリ
カのクリントン大統領の時代に政府黒字が達成され、多くの経済
学者がそれを肯定的に見ている一方で、ゴドリーやランダル・レ
イ氏は警告を発しました。 ──井上智洋著の前掲書より
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政府部門の黒字は、民間部門の赤字を意味するのです。だから
ゴドリーは警告をしたのですが、そのとき誰もこの警告を一顧だ
にしませんでした。それが政府部門の赤字が巨大化して、MMT
が注目されています。 ──[消費税は廃止できるか/043]
≪画像および関連情報≫
●ウェイン・ゴドリー/危機をモデル化した経済学者
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ボストン─2008年の金融危機と大停滞は、依然として
生々しく痛みを伴う記憶だが、多くの経済学者は、1930
年代の大恐慌時代とその後に起こった考え方に根本的な変更
が必要かどうかを自問している。国際通貨基金(IMF)の
チーフエコノミスト、オリビエ・ブランチャードは2011
年の会議で「我々は新世界に入っている」と述べた。「経済
危機は私たち多くの信念を疑わせるものであった。私たちは
この知的挑戦を受け入れる必要がある。」
危機を予測することができなかった主流モデルの改革に経
済学者たちが挑戦するならば、差し迫っていた危機に気づい
ていた数少ない経済学者の一人である、レヴィ経済研究所の
ウェイン・ゴドリーを参考にしなければならないだろう。残
念ながらゴドリー氏は、2010年に83歳で亡くなった。
しかし、彼の影響は広がり始めている。フィナンシャル・タ
イムスの著名コラムニスト、マーチン・ウルフや、ゴールド
マン・サックスのグローバル投資研究のチーフエコノミスト
ジャン・ハッジアスが、ゴドリーのアプローチを拝借してい
る。北米と欧州のいくつかの経済学者グループ(危機後に金
融と慈善家ジョージ・ソロスによって設立された新経済思考
研究所が支援しているグループも含まれる)も彼のモデルを
使い始めている。 https://bit.ly/2PVAnRH
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ケルトン教授が2019年7月の日本講演で使用したグラフ