の原田泰氏は、MMTについて次のように批判しています。
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(MMTをやれば)必ずインフレが起きる。(提唱者は)イン
フレになれば、増税や政府支出を減らしてコントロールできると
言っているが、現実問題としてできるかというと非常に怪しい。
──2019年5月22日付、日本経済新聞
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政府の借金をどんどん増やすと、必ずインフレになる。インフ
レになったら、コントロールできない──これがMMTに反対す
るほとんどの経済学者の意見です。
安倍首相率いる日本政府は、アベノミクスを行いながら、20
25年には借金をゼロにする(プライマリーバランスゼロ)とい
う目標を立て、消費増税を繰り返し、毎年の予算を可能な限り抑
制しようとしています。つまり、MMTとは真逆の政策を展開し
ていることになります。
考えてみると、アベノミクスが好調だったのは、日銀による異
次元の金融緩和と機動的な財政出動を同時にやっていた最初の時
期に限られていたことがよくわかります。日経平均株価は急上昇
し、やがて株価は倍以上になり、雇用が劇的に改善しています。
そのアベノミクスを完全に壊したのは、2014年4月の3%
の第1回目の消費増税と、息の根を止めたというか、止めるであ
ろうと思われる、2019年10月の2%の消費増税です。現在
ではアベノミクスという言葉すら使われなくなっています。それ
に、予期していなかった新型コロナウイルスの蔓延による深刻な
経済へのダメージが加わって、個人消費は大幅にダウンし、日本
のデフレはさらに深化してしまうことは確実です。このさい思い
切って、消費税の税率を5%に戻すべきです。もし、やらなけれ
ば、次の選挙で、現在の与党(自民党プラス公明党)は確実に敗
北することは必至です。
メディアが伝えないので、ほとんどの日本人は認識していませ
んが、2015年までの20年間で、日本のGDPは、ドル建て
換算で20%も縮小しています。このマイナス20%という数字
はもちろん世界最下位です。なぜ、マイナス成長になるのかとい
うと、日本は「緊縮病」という病気にかかっているからです。主
導しているのは財務省です。同じように、緊縮病にかかっている
国にドイツがあり、ドイツは世界のなかで、日本に次いで成長率
の低い国家になっています。
財務省は、政府の借金があまりにも膨大になると、財政破綻が
起こり、日本が破綻してしまうと国民に説いています。これは完
全な間違いですが、そのことを一般家庭の借金に置き換えて説明
するので、多くの国民は納得してしまいます。
そこで、これを防ぐために、消費税を増税して、少しずつでも
借金を返し、基本的には入ってくる税収ですべてを賄うようにす
べきであるとして、2014年からわずか5年間で、消費税の税
率を5%から10%に倍増させたのです。
それでいて、海外の格付会社が、日本国債の格付けを下げよう
とすると、財務省は「自国通貨建ての国債が破綻することなどあ
り得ない」とMMTの主張と同じ理屈で反論します。この財務省
の「外国格付け会社宛意見要旨」については、2月27日のEJ
第5195号で紹介しています。 https://bit.ly/39ozYz7
いつも国民に訴えていることと、海外の格付会社にいっている
ことが真逆なのです。もし、格付会社にいっていることが正しい
のであれば、財務省は国民を騙していることになります。
ここで考えてみるべき国があります。それは中国です。中国の
債務の対GDP比は、あまり大き過ぎて公表されていませんが、
それは日本の比ではないはずです。そのため「そのうち中国経済
は破綻する」と期待している向きもありますが、一向に財政的に
潰れそうもありません。中国は巨額の財政出動で得た潤沢な資金
をあらゆる分野に投入し、経済の面でも、軍事面でも、科学技術
の面でも、米国に着々と迫りつつあります。
この中国について、藤井聡京都大学大学院教授は、「中国は緊
縮病にかかっていない」として、次のように述べています。
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そんな緊縮病という不安神経症を全く患っていないが故に、こ
こ20年ほど超絶なるスピードで経済成長を果たした国がある。
中国だ。彼らは、リーマンショックなどの不況になれば、借金が
増えることなどお構いなしに、50兆円を上回る凄まじい財政出
動を果たし、たちどころにショックから立ち直った。そのおかげ
で凄まじく経済は成長し、税収も拡大、今度はその資金を使って
ユーラシア全土でインフラ投資を展開する「一帯一路構想」をぶ
ち上げ、政府支出を拡大し続けている。そしてその結果、税収も
格段に上昇させ、中央政府においては、財政赤字の問題など何も
なかったように成長し続けている。 ──藤井聡著/晶文社
『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
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考えてみると、戦後の日本も緊縮病などにかかっておらず、積
極的な政府支出を行い、それを拡大させています。それだけでは
足りず、世界銀行から多額の借金をして、東名高速道路などの大
型のインフラ投資を繰り返し、積極的な政府支出を大きく積み上
げていったのです。その結果、日本は超高度成長を成し遂げ、世
界第2位の経済大国になっています。
それが一転して、現在の日本は、過剰なほどの緊縮を行うよう
になり、それが国家の衰退と国民の貧困化を招いています。それ
でいて、政府は一向に緊縮化をやめようせず、借金を減らすこと
しか考えておらず、財政規律の重圧に押しつぶされるようになっ
ています。MMTはその真逆の考え方です。このMMTの考え方
に基づいて、大胆な減税、思い切った財政出動などの政府支出を
行い、何よりもデフレからの脱却を成し遂げる必要があると思い
ます。 ──[消費税は廃止できるか/042]
≪画像および関連情報≫
●MMTも主流派経済学もどっちもどっちな理由
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財政赤字の積極的な拡大を推奨する「現代金融理論/MM
T」をめぐり、米国では経済学者たちがメディアを巻き込み
論争を展開している。その論争の内容は、われわれ日本人に
とっては失笑を禁じえないところがある。また、ある種のデ
ジャビュを感じるものでもある。
MMTを主張する経済学者たちは、経済学コミュニティに
おいては少数派だ。批判する経済学者のほうが数も多いうえ
地位や名声もはるかに高い。この数カ月間で、ポール・クル
ーグマン、ラリー・サマーズ、ケネス・ロゴフといったそう
そうたる面々がMMTを批判する議論を展開しており、ジェ
ローム・パウエルFRB(米国連邦準備制度理事会)議長や
黒田東彦日本銀行総裁をはじめ、現役の中央銀行幹部も批判
の弁を述べている。メディアはこの論争を「主流派経済学V
S非主流派経済学」という描き方で盛り上げている。
印象から言えば「非主流派」がずいぶんと威勢よく攻勢を
かけているのに対し、「主流派」の反論は何やら昔ながらの
教科書を紐解くような内容で、今ひとつ歯切れが悪い。経済
学コミュニティの外野からは、小勢ながら果敢に攻める「非
主流派」に「ヤンヤ」の声が掛かる状況だ。MMTは現状打
破のための最終兵器であるかのように喧伝されており、米国
では特にポピュリスト政治家やトランプ政権を政治的に攻め
あぐねている野党民主党の政治家の中にこの理論の信奉者が
少なからずいる。 https://bit.ly/2vwMdLk
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原田泰日銀政策委員会審議委員