たいかがわしい理論と捉えているようです。まず、この誤解から
解く必要があります。MMTについて、藤井聡京都大学大学院教
授は、自著で次のように紹介しています。
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その源流は、19世紀後半から20世紀初頭に活躍したドイツ
歴史学派の学者、G・F・クナップが展開した貨幣論にある。そ
して経済学全体に巨大な影響を及ぼしたJ・A・シュンペーター
や、J・M・ケインズ等の経済理論やA・ラーナーが提唱した財
政論に影響を受けつつ経済政策論を展開した(ポストケインズ主
義の代表的論客であった)H・ミンスキーの薫陶を受けたL・R
・レイらによって体系化されたものだ。実際レイは、彼の著書、
『MMT現代貨幣理論入門』の中で、MMTを「巨人たちの偉業
の上に成り立っている」ものと的確に表現している。
だからそれは、MMTについて聞きかじった程度の知識しかな
い日本の記者達が「トンデモ理論」だの「異端」だのと批判でき
るようなレベルの代物ではない、正統な経済理論なのである。し
たがって、その中身を知れば知るほどに、誰もが納得してしまわ
ざるを得ない、極めて理性的な理論なのである。
──藤井聡著/晶文社
『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
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いわゆるお金、マネー (money)は、「貨幣」とも「通貨」と
も呼ばれます。この違いをはっきりさせておく必要があります。
「貨幣」は「紙幣」に対応するものであり、狭義としては「鋳造
貨幣」、すなわち、政府の発行する「硬貨」(500円ニッケル
黄銅貨幣、100円白銅貨幣、50円白銅貨幣、10円青銅貨幣
5円黄銅貨幣、1円アルミニウム貨幣の6種類)を意味します。
これに対して「紙幣」とは、日本銀行が発行する「日本銀行券」
を指しています。
これに加えて「通貨」という言葉を使って整理すると、通貨に
は「現金通貨」と「預金通貨」があります。現金通貨には、流通
している紙幣と硬貨、それに銀行に預金されている預金通貨があ
ります。この預金通貨のほとんどは、紙幣や硬貨という具体的な
お金の数ではなく、デジタルな預金情報として存在しているだけ
です。これはこれまでも何回も述べています。
MMTを理解するには、現代社会におけるお金とは、国家が作
り出すものであることを理解する必要があります。よく「日銀は
お金(紙幣)を刷る」といいますが、実際にお金を刷っているの
は、日銀ではなく国立印刷局です。それも、日銀の指示によって
印刷しているのではなく、財務省の計画にしたがって、必要な分
だけ印刷しているのです。
これは、今回のテーマの冒頭でも述べましたが、ここで必要な
分とは、古くなったり、破損した紙幣を交換する分と、お金の総
量が増えるにしたがって増やす分の2つです。この後者の「お金
の総量が増えるにしたがって増やす分」とは、何を意味している
のでしょうか。
世の中に流通しているお金の総量と、紙幣(日本銀行券)の総
量は、同一ではないのです。紙幣の総量は約100兆円、世の中
に流通しているお金の総量は約1300兆円(M3)です。流通
しているお金のほとんどは預金情報としてデジタルなかたちで存
在しており、紙幣というお金としての具体的な形が必要な分しか
印刷しないのです。
もうひとつはっきりさせておくべきことがあります。一般的に
は、政府は国債の発行をすることはできるものの、お金を作り出
すのは中央銀行である日銀の仕事であるという考え方です。日銀
には政策の独立性が認められており、あくまでお金を作り出すの
は、日銀であるというです。これについて、藤井聡教授は、次の
ように述べています。
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実際、私達が普段使っている千円札や一万円札には「日本銀行
券」と書かれている。つまりそれは、「日本銀行」という日本の
中央銀行が作り出したものだ。そして、その日本銀行の株主は、
55%が日本国政府であり、日本政府の事実上の「子会社」であ
る。もちろん、日本銀行には経営の自主性が認められているが、
日本銀行法第四条に「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節
が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の
経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡
を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とも明記さ
れており、政府から完全に独立な振る舞いをすることは法律的に
も禁じられている。だから、政府というものを中央銀行と一体的
なものとして捉えるのなら、政府は貨幣を作り出すことができる
のである。 ──藤井聡著/晶文社の前掲書より
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政府と日銀を一体のものと捉え、政府と日銀のバランスシート
を合体させることを「統合政府」といいますが、この考え方に立
つとMMTはスンナリ理解できるのです。統合政府の場合、国債
は政府の債務であるが、日銀にとっては資産であり、この資産と
負債は相殺できることになります。
統合政府はともかくとして、「政府は貨幣を作り出すことがで
きる」のは確かです。そうであるなら、次のことが成立します。
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政府は、自国通貨建ての国債で破綻することは、事実上あり
得ない。 ──MMTの基本的前提
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要するに、日本政府が日本円の借金を返せなくなってしまうこ
とはあり得ないということです。なぜなら、日本円を作っている
のが日本政府であれば、自身が「作ることのできる円」を返せな
くなることはあり得ないからです。
──[消費税は廃止できるか/041]
≪画像および関連情報≫
●「天下の暴論」MMTから学ぶこと
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「国はどんなに借金をしても、その重荷で破綻することは
ない」と言い切って、積極的な財政出動をよびかけるアメリ
カ発の異端の経済理論=MMTが話題になっています。
最初に聞いた時、わたしは「天下の暴論」と思いました。
長年、国の財政を取材し、借金が膨らみ続ける状況に警鐘を
ならす原稿を書き、解説してきた身にとって、借金を減らす
努力を「全否定」するかのような経済理論は、「元も子もな
い」と思ったからです。日本の政府、中央銀行の関係者も含
めて、そう思う人が多いでしょう。
ただ、暴論として片づけずに、世界一の経済大国アメリカ
で議論になっているわけを知りたいと、取材することにしま
した。(アメリカ総局記者 野口修司)
MMTは、「Modern Monetary Theory」という学説。その
要点は、「自国の通貨を持つ国家は、債務返済に充てるお金
を際限なく発行できるため、政府債務や財政赤字で破綻する
ことはない」というもの。景気を上向かせ、雇用を生み出し
ていくためにも、「政府は借金を気にせず、積極的に財政出
動すべきだ」と説いています。私が取材に向かったのは、ニ
ューヨークから車で北に2時間あまり。バード・カレッジの
ランダル・レイ教授。MMTを四半世紀にわたって研究して
いる経済学者です。 https://bit.ly/38jdwWL
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MMTを体系化したL・R・レイ教授