続きです。引き続き、『週刊現代』記者である、小川匡則氏のレ
ポートに基づいて、要約してご紹介します。
ケルトン教授は、「インフレをどうやって防ぐか」というのは
同時に「デフレをどう防ぐか」を考えることでもある、といいま
す。つまり、経済とは、「インフレもデフレも過度にならない、
ちょうどいい状態を維持させるための調整を行うことである──
それがMMTの柱であるといいます。
ここで、ケルトン教授は、2つの洗面台の図を示して、講演を
続けます。その図を添付ファイルにしてあります。上のシンクを
見てください。
─────────────────────────────
シンクに水が溢れているのは、インフレの状態です。税金は、
その水を減らすためのものなのです。税金の目的は所得を誰かか
ら奪うことです。なぜ、支出能力を減らすのか。それはインフレ
を規制したいからです。つまり、徴税というのは政府支出の財源
を見つけるためではなく、経済から支出能力を取り除くためのも
のです。 ──小川匡則氏のレポート要旨
https://bit.ly/3ciIX6D ─────────────────────────────
また、ケルトン教授は、インフレを抑制する手段として「規制
緩和」も上げています。かつて石油ショックで石油価格が暴騰し
たとき、規制を緩和して天然ガスも使えるようにしてインフレを
防いだことがあるからです。政府は、インフレが過度になりそう
なときは、増税や規制緩和などの政策を駆使して抑えるべきであ
るというのです。
続いて下のシンクを見てください。下のシンクは水が少なく、
景気が悪い状態をあらわしており、まさに今の日本であるとケル
トン教授はいいます。問題は、どのようにして水を貯めるかが問
われています。それは、政府が国債を発行して、政府支出を増や
し、水をたくさん出し、それに加えて減税をすることによって、
出て行く水を減らし、水を貯めるのです。現在の日本にはそれが
求められています。
しかし、現在の日本は、景気の良くないデフレ下にあるのに、
短い間に消費税の税率を2回も引き上げ、「プライマリー・バラ
ンス黒字化」と「財政均衡」と「財政再建」をやろうとして、真
逆の政策を取っています。ケルトン教授は、「現在インフレの問
題を抱えていない日本のような国が、消費増税をするということ
は経済的な意味をなしていない。それによって予算の財源を得よ
うとしても適切な政策目的になり得ない」といい、次のように主
張しています。
─────────────────────────────
経済のバランスをとることです。予算を均衡することではなく
支出と税金を調整することによって、「シンクの水が完全雇用に
なっても溢れ出ない」、「インフレをきたさない」という状況に
コントロールすることです。MMTは、特定の予算支出を目標と
することはないし、政府赤字を何%にするといった目標設定もし
ない。適切な政策目標は「健全な経済を維持する」ということで
す。あくまで経済のバランスをとることが重要です。つまり、予
算の均衡ではなく、経済の均衡です。
──小川匡則氏のレポート要旨
https://bit.ly/3cloUnY ─────────────────────────────
ケルトン教授の主張は、日本の財務省の財政に対する考え方と
は完全に真逆です。経済学の主流を自任する経済学者もこぞって
反対しています。なぜなら、もし、この考え方を認めると、自ら
の学説が壊れてしまうからです。
MMTに対する反論は、掃いて捨てるほどたくさんありますが
「いかがわしい」とか、「そんなうまい話があるわけはない」と
かいう、非論理的なものばかりです。
このレポートの最後で、レポートの制作者である小川匡則氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
MMTの話題になると、必ず「ハイパーインフレになるリスク
がある」といったステレオタイプな批判が出るが、むしろそのイ
ンフレ率の調整にこそ注力するのがMMTなのである。だからこ
そ、いま日本人が考えるべきは、経済状況や社会状況を踏まえた
上で「インフレの要因」を分析することだろう。
例えば、国債を財源として教育無償化を実現するとしよう。そ
れで果たしてインフレ要因になるだろうか。タダで教育を受けら
れ、教員をはじめとしてそこで働く人たちに仕事を与えることが
できる。それでいて何かの価格高騰を招くのだろうか。
一方、公共工事を一気に極端に増やした場合には人手不足、資
材不足などで工事費が大幅に上がり、一時的にインフレ圧力を招
くかもしれない。では、どの程度の投資であれば適切なインフレ
率に収まるのか。大切なことはそうした分析をして、適切な政府
支出額を決めていくことである。 ──小川匡則氏
https://bit.ly/3abP7nl ─────────────────────────────
このMMTについて、麻生財務大臣は次のように、反論になら
ない反論をしています。この人はビットコインのときもそうでし
たが、新しい発想や概念に対して、いつもトンチンカンなコメン
トをして失笑を買っています。
─────────────────────────────
MMTなんてナンセンス。日本はMMTの実験場になる気は
さらさらない。 ──麻生太郎財務相
─────────────────────────────
それにしてもこのようなレベルの人が財務大臣を何年やってい
るのでしょうか。これでは、日本は貧しくなるばかりです。
──[消費税は廃止できるか/039]
≪画像および関連情報≫
●MMTに強い違和感を感じざるをえない2つの理由
──エコノミスト/村上尚己氏
───────────────────────────
アメリカで経済論争を巻き起こしているMMT(現代貨幣
理論)の提唱者の1人、ステファニー・ケルトン教授(NY
州立大学教授)が来日した。MMTは「異端の経済理論」と
紹介されるとともに、これについてさまざまな見解が伝えら
れている。筆者は、東京都内で行われたケルトン教授の講演
会に参加する機会に恵まれたので、今回のコラムではこれを
紹介したい。
MMTの理論は幅広い分野に及んでいるため、筆者は、M
MTについて全てを十分理解しているわけでない。ただ投資
家の視点からは、ある程度理解を深めることができたと考え
ている。まず、MMTが異端の経済理論とされる特徴の一つ
は、財政赤字や公的債務の規模にとらわれずに、財政赤字を
大きく増やすことが可能、と主張する点である。
https://bit.ly/388h6my
───────────────────────────
ケルトン教授提示のイラスト