れだけあれば何でもできるだろうと思うよね。ところが、国が使
うお金は1年間で約97兆円。つまり47兆円も足りない、とい
うことです。税金を倍にしたら足りるかもしれないけど、みんな
大反対するに決まっているよね。そこで日本は、足りないぶんを
借金してまかなっています。(・・・)
日本は毎年のようにお金を借りて、いまでは全部で1000兆
円までふくらんでいます。こんなにたくさんの借金をしている国
は世界で日本だけ。だから「日本はこのままでは借金を返せなく
なり、つぶれてしまいますよ」と心配している人もいます。
──池上彰著
『池上彰のはじめてのお金の教科書』/幻冬舎
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これは池上彰氏の子供向けの絵本に出ている説明です。池上彰
氏は、テレビの番組で、日本や世界で起きているさまざまな出来
事を取り上げ、ていねいにわかり易く解説をする人物としては第
一人者です。しかし、政治的に微妙な問題については、慎重な表
現を巧みに使って解説を施しています。
上記の日本政府の借金についても「『日本はこのままでは借金
を返せなくなり、つぶれてしまいますよ』と心配している人もい
ます」という微妙な表現を使っています。けっして政府の方針に
逆らってはいないのです。政府の方針とは、2025年までにプ
ライマリーバランスを黒字化するというものです。池上氏の解説
は、基本的にはこれに沿って説明しています。そうしないと、池
上氏といえども、長期間にわたってテレビに出演し続けることは
できないでしょう。財務省の目が光っているからです。
日本という国は、首がまわらないぐらい膨大な借金を抱えてい
て、このままでは破綻する──今やこれは、子供も含めて、日本
人の共通認識になりつつあります。それだけ財務省のプロパガン
ダが効いてきています。
しかし、日本政府は、それほどの借金を抱えながらも、国連を
はじめとする国際機関の出資金は米国に次いでつねに上位を占め
ODAを含め、貧困国に積極的に資金を援助しています。安倍首
相も世界各国を飛び回ってお金をばら撒いています。とても借金
大国らしくありません。どうしてそのようなことが、できるので
しょうか。そんなお金はどこにあるのでしょうか。
この政府の借金の捉え方について画期的な解釈を施し、現在話
題になっている経済の運営に関わる理論があります。MMT──
Modan Monetary Theory がそれです。その定義は次のようになっ
ています。
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MMTとは、自分の国のお金(通貨)で債券を発行できる国は
デフォルトに陥ることはなく、政府は財政の悪化をそれほど気に
せず、積極的に国債を発行して、景気刺激策を進めることができ
るという財政の運営に関する理論です。
MMTの条件には次の3つがあります。
@経営黒字である
A自国通貨建ての国債が発行できる
Bインフレが起きていない ──真壁昭夫著
『MMT(現代貨幣理論)の教科書
/日本は借金し放題?暴論か正論か見極める』
ビジネス教育出版社刊
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MMTに対する日本のメディアの反応をひろってみると、次の
ようになります。
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◎産経新聞/2019年4月23日
「財政赤字を容認する現代貨幣理論(MMT)」
◎日本経済新聞/2019年3月15日
「『財政赤字は問題ない』とする異端の経済政策論」
◎朝日新聞/2019年4月26日
「財政赤字なんか膨らんでもへっちゃらで、中央銀行に紙幣を
刷らせれば財源はいくらでもある、というかなりの『トンデモ
理論』である」 ──藤井聡著/晶文社
『MMTによる令和「新」経済論/現代貨幣理論の真実』
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このように日本においてMMTは、「異端」「トンデモ理論」
として捉えられており、米国でも、グリーン・スパン元FRB議
長やサマーズ元米財務長官などの主流派の学者はみなこの理論を
否定していますが、米国ではある若い下院議員がMMTを主張し
たことで大きな話題になったのです。
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実際、MMTが話題になったのは、アメリカの下院議員選挙で
最年少議員として当選した20代のアレキサンドリア・オカシオ
=コルテスが、MMTの重要性を主張し、政府による積極的な財
政拡大を通してアメリカ経済を活性化していくことが必要だ、財
政赤字を気にしてそれをしなければ、アメリカ経済は疲弊してし
まうのではないかと、主張したことがきっかけだった。オカシオ
=コルテス議員は今、ツイッターで300万人のフォロワーを抱
え、彼女の動画再生回数は4000万を超え、オンラインメディ
ア、ナウ・ジスの動画で、過去最高を記録するほどの「フィーバ
ー」状態になっている。 ──藤井聡著/晶文社の前掲書より
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MMTは、EJがここまで述べてきたことと重要な関係がある
と思います。財務省系の日本の経済学者は、ろくに調べもしない
で、MMTを「トンデモ理論」とコキ下ろしていますが、それは
自分たちにとって都合の悪い理論だからです。明日から、MMT
にメスを入れていきたいと考えています。
──[消費税は廃止できるか/035]
≪画像および関連情報≫
●「MMT」がトンデモ経済理論と言えないこれだけの理由
/安達誠司氏
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最近、「MMT(現代貨幣理論)」という新しい経済理論
が内外で話題になっている。MMTとは、簡単にいえば「自
国通貨建てで政府債務を拡大させれば物理的な生産力の上限
まで経済を拡大させることができる」という考え方である。
つまり、MMTは「自国通貨建てで財政赤字を拡大させれば
政府は簡単に経済の長期停滞から脱出できる」と主張して世
間の注目を集めているのである。
当然のように、主流の経済学者のほとんどがMMTを強く
批判している。特に、ブランシャール、クルーグマン、ロゴ
フ、サマーズといった主流派経済学の重鎮たちは、執拗にM
MT批判を展開している。
ところで、彼らの批判は大きく分けて2つである。1つは
財政支出の拡大によって金利が急騰し、民間投資が阻害され
てしまう懸念(クラウディングアウト)である。そして2つ
めは、財政支出を無限に拡大させることによる(ハイパー)
インフレ懸念である。このような批判に対し、MMTを主張
する人たち(「MMTer」といわれているらしい)は、以
下のように反論している。1つめのクラウディングアウト懸
念に対しては、「中央銀行が固定(ゼロ)金利政策を採用し
財政赤字をそのままファイナンスすれば、財政赤字の増加分
そのまま資金供給が増加するので、民間投資が押し出される
ことはない(また、中央銀行がゼロ金利政策を長期間維持す
ることが予想できれば、将来の政策金利の予想で決まる長期
金利も低位安定するはずである)。https://bit.ly/3a3pJQF
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オカシオ・コルテス下院議員