中心は、元財務大臣経験者です。財務省は予算を握っている関係
上、他の省庁とは違い、大臣として大過なく過ごすためには、官
僚の協力がとくに不可欠な部署といえます。そうすると、どうし
ても財務省に洗脳されてしまうのです。
統一見解があるわけではありませんが、財務省の政府紙幣に関
する一般的な考え方は次のようなものです。
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日本銀行券に加えてさらに政府紙幣を大量発行すれば、大幅な
供給過剰に陥って円の信用が著しく低下し、収束不能の高インフ
レーション、過度な円安に向かう危険性がある。
ある程度の円高是正であれば景気対策として有効性もあるが、
それを超えて大幅な円安が進行すれば、輸出には有利な反面、原
料の輸入価格の著しい上昇も招くため、結果的に高インフレ発生
を意味する。 ──ウィキペディア
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このように、「収束不能の高インフレ」、すなわちハイパーイ
ンフレを恐れているようですが、とくに日本の場合、政府紙幣を
発行したからといって、インフレになる可能性は低く、ましてハ
イパーインフレにはなりません。
安倍政権の発足以来、黒田総裁が率いる日銀は、異次元金融緩
和と称して、大規模な金融緩和をスタートさせてから8年になろ
うとしていますが、設定した2%のインフレ目標にまだ到達して
いない状況です。インフレにしようと努力してもなかなかインフ
レにはならないのです。まして現在の日本が、政府の借金を政府
紙幣に置き換えたとしても、ハイパーインフレになることはあり
得ないことであり、政府紙幣導入の反論になっていないと思いま
す。政府紙幣に対して反対論を唱える一部の自民党議員の発言を
以下にまとめます。
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◎中川昭一元財務相
日銀券を2つ作るようなもので、中央銀行があるなかでは、世
界中にこういうものを使っているところはないと聞いている。あ
まりに次元の違う問題を喚起する可能性がある。
◎伊吹文明元財務相
政府紙幣はマリファナである。有権者に吸わせて、いい気分に
して票を取ろうという意図でやってはいけない。
◎高村正彦元外相
中央銀行が一元管理することが大切だということは、歴史上人
類が学んできた知恵。安易に例外を認めるべきではない。
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このように、政府紙幣はいわば奇策のひとつとされ、あまり人
前では口にできない政策であったといえます。しかし、口には出
さないが、この政策に賛同している政治家、経済学者(とくにケ
インジアン)は多くいます。
その一人に元大蔵官僚の榊原英資青山学院大学教授がいます。
榊原氏は、『中央公論』/2002年7月号に次の論文を執筆し
ています。しかし、榊原氏は、政府紙幣をあくまで緊急避難的な
政策として位置付けています。
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「日本が構造的デフレを乗り切るために/政府紙幣の発行で
過剰債務を一掃せよ」──『中央公論』/2002年7月号
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また、元大蔵官僚で、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、2004
年に日本政府内で政府紙幣の発行を提案し、その準備の文書「政
府紙幣発行の財政金融上の位置づけ」を作成しています。この高
橋論文では、日銀券とは別に財務省が政府紙幣を発行し、国民に
配るという政策を提言しています。
それでは、現日銀総裁の黒田東彦氏は、政府紙幣に関してどの
ように考えていたのでしょうか。これについては既にご紹介済み
の『経済コラムマガジン』に、内閣官房参与(前財務省財務官)
時代の黒田東彦氏の意見が紹介されています。
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筆者は、スティグリッツ教授の提案に対して、経済の専門家か
らこのような初歩的で的外れの疑念や批難が続くこと自体を危惧
する。このような状況では、いきなり政府紙幣発行はちょっと無
理かもしれない。
このように混乱している議論に対して、黒田東彦内閣官房参与
(前財務省財務官)が「日銀がもっと大量に国債を購入すること
が現実的」と発言している。これは穏当な意見であり、筆者もこ
れに同感せざるを得ない。ちなみに黒田前財務省財務官は、以前
からリフレ(穏やかなインフレ)政策を主張している。
政府紙幣の発行も日銀による国債購入も実質的に国の借金にな
らない。そこで政府紙幣への理解が進まないようなら、まず日銀
の国債購入によって積極財政政策のための資金を賄う他はない。
ただ日銀による国債購入には難点がある。日銀は国債購入の限度
を日銀券の発行額と一応定めているのである。これがネックとな
る可能性がある。したがって日銀がどうしても限度額にたいして
柔軟な姿勢を示せないなら、最後の手段として政府貨幣(紙幣)
のオプションは取って置くべきである。 2003年5月5日付
『経済コラムマガジン』第295号 https://bit.ly/38vO7tD ─────────────────────────────
かりそめにも経済学者として世界的な権威であるスティグリッ
ツ教授が勧めている提案です。単に政府紙幣を発行せよといって
いるのではなく、現在の日本には、大きなデフレギャップが存在
するので、相当額の政府紙幣が発行できるし、やってみる価値が
あるといっているだけです。この政策によって物価上昇率が限度
額を超えるようであれば、政府紙幣の発行をセーブすればよいの
であって、目くじら立てて反対するような話ではないのです。
──[消費税は廃止できるか/033]
≪画像および関連情報≫
●新紙幣を「政府の電子マネー」として発行したら
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政府が2024年から新紙幣を発行すると発表したが、キ
ャッシュレス化を進めているとき、時代錯誤な話だ。むしろ
脱税の温床になっている1万円札は廃止すべきだ、というの
がロゴフの提案である。そこで電子マネーの時代にふさわし
い新通貨を考えてみた。これは日本銀行の発行する紙幣では
なく、政府(財務省)の発行する電子マネーである。日銀が
1882年に設立される前は、政府紙幣が発行されていた。
今でも政府が紙幣を発行することは(立法すれば)可能であ
る。2003年にもスティグリッツが提言したことがある。
その論理は明快だ。
政府紙幣の発行により債務のファイナンスを行います。日
銀と財務省の適切な政策についての私の観察では、たとえ政
府紙幣の発行を始めたとしても印刷機のスピードをただ速め
るようなことはしないと確信しています。政府紙幣の発行ス
ピードは非常に緩やかなものとなるでしょう。真の問題は、
政府紙幣を増発しすぎるということではなく、むしろ政府紙
幣の増発が不十分な量で終わるということです。したがって
不連続性については例証は存在せず、緩やかに増発すればハ
イパーインフレを引き起こすことはありません。経済理論に
よれば、適正なインフレ率が存在し、この水準となるように
供給量を調節することができるのです。
https://bit.ly/2P3hs7j
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榊原英資氏と黒田東彦氏.