2020年02月20日

●「政府紙幣を発行するとどうなるか」(EJ第5191号)

 「政府紙幣」を具体的に考えてみます。政府紙幣については、
賛否両論がありますが、日本の国内では否定的であり、「怪しい
もの」という見方がほとんどです。ビットコインのときとよく似
ています。しかし、本当のところは、政府紙幣がどういうものか
わかっている人が、きわめて少ないのです。
 当時、与謝野馨経済財政相(故人)が、テレビ番組(テレビ朝
日『サンデープロジェクト』)に出演して、司会の田原聡一郎氏
から政府紙幣についてコメントを求められたとき、与謝野氏が政
府紙幣を日銀紙幣と別物にして、「『円』は使えないよ。『両』
にでもするのか」とバカにしたように話したとき、私はテレビを
視ていたので、印象に残っています。経済財政大臣ですら、ほと
んどわかっていないのです。
 そこで、既出の大西つねき氏の所説に戻って、政府紙幣につい
て具体的に検討します。政府には、通貨発行権があり、その気に
なれば、政府紙幣を発行できます。しかも、やり方はそんなに難
しくありません。必要なのは首相の決断だけです。
 100兆円の政府紙幣を導入することにします。この場合、1
兆円の政府紙幣を100枚印刷します。これで100兆円。そし
て、その政府紙幣を全額日銀に預けます。日銀は、それを金庫に
収納し、政府預金口座に100兆円と書き込みます。これで終わ
りです。したがって、流通するのは、日銀券であり、政府紙幣と
いう名のお札が流通するわけではないのです。与謝野大臣は、そ
のことが理解できていなかったのです。
 しかし、政府がこれをやるには、法改正が必要になります。当
然国会で審議されます。政府はその目的をきちんと国民に説明し
十分な国会審議を経て、法改正を行い、そのうえではじめて実施
可能になります。
 1月24日のEJ第5173号では、平成29年度(2017
年度)予算案の数字を使って分析をしましたが、これと同じモデ
ルを使って100兆円の政府紙幣を導入するとどうなるかについ
て分析を行うことにします。添付ファイルの図をご覧ください。
この図は大西つねき氏の本に出ているものです。
 図の中央の「平成29年度予算案」の部分を見てください。税
収は58兆円、その他の収入は5兆円で、合計63兆円の歳入で
す。この歳入に対して、国債費以外の政府支出が74兆円であり
基礎収支(63−74)は、マイナス11兆円になります。
 これに国債費は、次の通り、23兆円になりますが、償還分の
14兆円は借り換え分であるので、正味の不足金額は20兆円と
いうことになります。この20兆円を、従来は毎年赤字国債でカ
バーしていたのです。
─────────────────────────────
    基礎収支11兆円 + 利息9兆円 =20兆円
─────────────────────────────
 こういう前提に立って、政府紙幣100兆円を導入してみるこ
とにします。100兆円あれば、赤字分の20兆円を賄っても、
80兆円残るので、この分に対応する政府の借金を削減すること
ができます。図の右部分の「国債残高」を見てください。国債残
高は、平成28年度末で845兆円ですが、そこから、80兆円
を差し引くと、残高は765兆円になります。
─────────────────────────────
     845兆円 − 80兆円 = 765兆円
─────────────────────────────
 続いて、図の左部分、「マネーストック」のところを見てくだ
さい。市中にどのくらいのお金が回るかを見ることができます。
58兆円と5兆円の63兆円は、税金などとして政府に吸い上げ
られますが、政府支出の74兆円、基礎収支の差額11兆円、利
息の9兆円は支払われるので、民間に流通する通貨量に変化はあ
りません。その結果、政府紙幣でカバーした20兆円が増加して
次のように1010兆円になります。
─────────────────────────────
    990兆円 + 20兆円 = 1010兆円
─────────────────────────────
 ここで重要なことは、100兆円の政府紙幣を導入することに
よって、市中に流通するお金は20兆円増加しながら、政府の借
金は80兆円減少することです。あくまで計算上ですが、これを
10年間続けると、政府の借金はほぼなくなり、市中に回るお金
は毎年20兆円ずつ増えて、約1200兆円になります。
 しかも政府紙幣として発行するお金は政府の借金にはならない
のです。法改正は必要であるものの、ここまで述べてきているよ
うに、比較的簡単に発行できます。それにも関わらず、なぜ政府
はやらないのでしょうか。
 日本の場合、政府の借金がある程度巨額になっても、それに対
応する資産が十分あり、財政破綻を起こすことはありません。し
かし、借金が年々増加し、増えて行くことは決して好ましいこと
ではありません。それは利息がバカにならないからです。
 国債の利息の9兆円ですが、元本である約900兆円からする
と、0・1%に過ぎません。しかし、この利息水準でも10年経
つと約100兆円になるのです。まして、金利が上がると、大変
なことになります。既に利息分だけで、この35年で累計300
兆円になっています。しかしそれを政府紙幣で返した場合、向こ
う10年の利息はおそらく半減し、50兆円ぐらいになるでしょ
う。この50兆円でいろいろなことができます。教育予算を充実
化させたり、少子化対策にも役立てることができます。
 このように金利の重しを取り除くだけでも、経済は間違いなく
活性化します。だからこそ、スティグリッツ教授は、日本政府に
政府紙幣の導入を勧めたのです。日本は現在深刻なデフレ下にあ
り、相当量の政府紙幣を発行してもインフレにはならないからで
す。日本にはそれをやれる条件が整っているのです。このまま経
済に弱い財務省の役人にまかせておくと、日本の財政はも確実に
破綻します。     ──[消費税は廃止できるか/032]

≪画像および関連情報≫
 ●借金でお金を発行する時代は必ず終わる/大西つねき氏
  ───────────────────────────
   今の金融経済を俯瞰で見てみましょう。お金というのは、
  信用創造の仕組みで説明した通り、誰かの借金として発行さ
  れます。つまり、常にほぼ同じ額の借金が表裏一体で存在す
  るということです。これは政府の借金がお金を増やす仕組み
  で述べたように、政府の借金を返せば皆さんのお金がなくな
  る、ということからもわかります。相殺すればゼロというこ
  とです。私たちの金融経済というのは、最も単純化して言う
  と、相殺すればゼロのお金と借金を、奪い合い、押しつけ合
  っているだけです。もちろん奪い合うのはお金で、押し付け
  合うのは借金です。借金を押しつけるというのは実感が湧か
  ないかもしれませんが、この日本に生まれただけで政府の借
  金(=後払いの税金)が押しつけられるのです。そして、そ
  こから脱却するために奪い合うのです。奪い合うという言葉
  にも抵抗があるかもしれませんが、全て相殺すればゼロ、つ
  まりお金の部分だけ見ればゼロサムの世界ですから、みんな
  がプラスということはありません。奪わなければ負けるので
  す。つまり、金融の世界というのは、みんなで仲良く分け合
  えない世界なのです。必ず、マイナスの人がいるわけですか
  ら。しかも、金利という仕組みがプラスもマイナスも加速度
  的に大きくし、その差を広げます。 https://bit.ly/3bGNC1X
  ───────────────────────────
 ●図の出典/大西つねき著『私が総理大臣ならこうする/日本
  と世界の新世紀ビジョン』/白順社刊

政府通貨で政府の借金を返すと?.jpg
政府通貨で政府の借金を返すと?

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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