2020年02月19日

●「スティグリッツ教授の提案の賛否」(EJ第5190号)

 2003年4月14日のことです。ノーベル経済学賞受賞のジ
ョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授が来日し、東京都
内で講演とシンポジウムを開いています。4月15日付、日本経
済新聞は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 日本経済新聞社と日本経済研究センターは14日、ノーベル経
済学賞受賞者のスティグリッツ米コロンビア大教授を招き、「日
本経済再生の処方を探る」と題したシンポジウムを東京都内で開
いた。スティグリッツ氏は基調講演で、デフレ克服のため「通貨
切り下げはプラス効果を持つ」と述べ、円安誘導が有効との見方
を示した。
 シンポジウムはスティグリッツ氏の来日を記念して開催。講演
後の討論会に榊原英資慶大教授、白川方明日銀理事、八代尚宏日
本経済研究センター理事長が参加した。スティグリッツ氏はデフ
レという難題を克服するには思考の転換が必要と指摘。「紙幣を
増刷する対策もある」と大胆な提言をした。日銀に代わって政府
が「政府紙幣」を発行する案だ。これに対し、日銀の白川理事は
日銀券が政府の紙幣に置き換わるだけだとし「問題を解決する方
策とは思えない」と反論した。  ──2003年4月15日付
                     日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 スティグリッツ教授といえば、消費増税の実施判断のさいにも
安倍首相は日本に招いて意見を聞いています。しかし、日本政府
は話は聞くものの、彼らの意見を絶対に採用しません。聞き置く
だけです。「高名な学者からも意見も聞いている」というポーズ
を見せているだけです。それに財務省は、スティグリッツ教授の
意見には絶対反対であり、安倍首相が教授の意見を採用しないよ
うに神経を尖らせています。
 2003年4月の来日のときは、上記の日本経済新聞の報道に
もあるように、講演後の討論会に、榊原英資慶大教授、白川方明
日銀理事、八代尚宏日本経済研究センター理事長が参加しました
が、榊原英資慶大教授は教授の意見を前向きにとらえていたもの
の、2008年に日銀総裁になる白川方明日銀理事は、スティグ
リッツ教授による政府紙幣の提案に聞く耳を持たず、反対してい
ます。「それなら、日本のデフレを何とかしろよ!」といいたく
なりますが、だから、日本の経済学者たちは、いつまで経っても
ノーベル経済学賞が取れないのです。
 驚くべきは、白川方明理事が、スティグリッツ教授の提案する
政府紙幣の発行に関して次のように反対したことです。
─────────────────────────────
 (政府紙幣は)日銀券が政府の紙幣に置き換わるだけである
                  ──白川方明日銀理事
─────────────────────────────
 本当にそういったとすると、5年後に日銀総裁になる白川氏と
しては、考えられない発言です。これについて、伝統ある『経済
コラムマガジン』は次のように論評し、白川発言に疑問を呈して
います。
─────────────────────────────
 大きな誤解は、政府紙幣が発行されても、日銀券が政府紙幣に
置き換わるだけであり、経済に何の影響を与えないという意見で
ある。たしかに公務員の給料支払いを日銀券ではなく、政府紙幣
で行ったり、国債の買いオペを政府紙幣で行えば、そのようなこ
とになる。もっともその分だけ国の借金は増えないが。しかしそ
のようなばかげたことを主張するため、わざわざスティグリッツ
教授が来日し、政府紙幣に関した発言を行うはずがない。
                  https://bit.ly/38vO7tD ─────────────────────────────
 ネット上で、そのときのスティグリッツ教授の提案を論評した
記事を探したのですが、よいものがなく、その中では『経済コラ
ムマガジン』の論評が光っています。スティグリッツ教授は、デ
フレギャップの大きい日本だからこそ、政府紙幣の発行の提案を
したと思われます。
─────────────────────────────
 スティグリッツ教授は、デフレに陥っている日本経済に処方箋
をいくつか提案している。「円安誘導」、「銀行システムの立直
し」と言ったありきたりの政策に加え、なんと「プリンティング
マネー(政府紙幣)の発行」をスティグリッツ教授は提案した。
これは各方面に衝撃を与えており、波紋がひろがりつつある。こ
れはまさに筆者達が以前から主張していた政策である。(中略)
 この政府紙幣発行に対して色々の反論や解説がなされている。
しかしそれらのほとんどが間違っているか、的外れである。この
ような反論を行っている人物達が、日銀の理事だったり、リチャ
ード・クー氏なのだから、こちらも驚く。それほど日本において
は政府貨幣(紙幣)に対する知識や情報が乏しいのである。
 日銀券と政府紙幣の違いは、日銀券が日銀の債務に計上される
のに対して、政府紙幣は国の借金にならないことである。今日の
コインにもいえることであるが、額面からコインの製造経費を差
引いた額が国の収入になる。
 スティグリッツ教授の主張は「この政府貨幣(紙幣)の発行を
もっと大規模に行え」ということである。さらに重要なことはこ
の貨幣鋳造益や紙幣造幣益を『財政政策』に使えと提案している
のである。今日、国債の発行が巨額になり、政府は、「30兆円
枠」に見られるように、財政支出を削ろうと四苦八苦している。
しかしこれによってさらに日本のデフレは深刻になっている。そ
こで教授は、国の借金を増やさなくとも良い政府紙幣を発行し、
その紙幣造幣益を使って、減税や公共投資を行えば良いと提案し
ているのである。         ──2003年5月5日付
 『経済コラムマガジン』第295号 https://bit.ly/38vO7tD ─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/031]

≪画像および関連情報≫
 ●風の行方とハードボイルドワンダーランド
  ───────────────────────────
   さて、2003年にノーベル経済学賞のスティグリッツ氏
  が来日し、財務省幹部の前で「政府紙幣」の発行について講
  演した。紙幣は日銀が発行し、貨幣は政府(造幣局)が日銀
  と独立して発行している。国債を日銀が購入することは、財
  政法で禁じられているので、政府が高額硬貨である政府紙幣
  を発行すれば、財政赤字問題は解決するというもの。国会議
  員の何人かも興味を示していたが、やがて話はなくなった。
  多分、実務レベルから見ると、明らかな財政ファイナンスと
  して日本の信認が失われ、円暴落等のリスクを勘案すれば非
  現実的だったのだろう。日銀の白川総裁の記者会見における
  政府紙幣に対する回答がある。「政府紙幣が市中から日銀に
  還流して来たとき、仮に政府がこれを回収せず、日銀に保有
  され続けるという形で政府紙幣が発行されるケースを考える
  と、政府は回収のための財源を必要としないことになるが、
  この仕組みは日銀に無利息で償還期間のない政府の債務を保
  有させるという点で、無利息の永久国債を日銀に引き受けさ
  せることに等しく、大きな弊害が生じる」。当時は国債を日
  銀が買い取るなどということ自体考えられなかったのだ。
                  https://bit.ly/2Sx32hR
  ───────────────────────────

「政府紙幣」の採用を説くスティグリッツ教授.jpg
「政府紙幣」の採用を説くスティグリッツ教授




posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]