ロになるまで返済を急ぐ必要はありませんが、そうかといって借
金が年々増加するのを放置するのは好ましくありません。この場
合、重要なことは、経済を冷やさないことです。なぜなら、経済
が活性化し、税収が増えれば借金は少しずつでも減少していくは
ずです。個人と違って国家は永遠の存在ですから、超長期間にわ
たって少しずつでも返済していけばよいのです。
ところが、現在政府や財務省がやっていることは、消費税を増
税してその増収分のほとんどを借金の返済に回すという「増税し
て借金を返す」最悪の手段です。これでは、いつまでもデフレか
ら脱却できず、逆に借金が増えてしまいます。
それでは、どうすればよいでしょうか。
その1つの手段として、「政府紙幣を発行する」という方法が
あります。この話は、2008年9月のリーマンショックの影響
で、深刻な不況が広がるなか、2009年の時点で、一時話題に
なったことがあります。この政府紙幣発行を取り上げ、導入を提
言したのは、あの高橋洋一嘉悦大学教授(当時/東洋大学教授)
です。高橋洋一氏は、2009年2月13日付の産経新聞「単刀
直言」で政府紙幣について次のように述べています。
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10年や20年に1度の不況ならば、政府紙幣の発行は必要な
いが、「100年に1度」の大不況となれば別だ。「100年に
1度の対応」が当然必要となる。そこで、私が提案しているのが
政府紙幣25兆円を発行し、日銀の量的緩和で25兆円を供給、
さらに「埋蔵金」25兆円を活用し、計75兆円の資金を市中に
供給するプランだ。2、3年で集中的に行い、さまざまな政策を
組み合わせれば、多方面に効果が出るはずだ。
大デフレ時のインフレは良薬だ。デフレは、例えて言えば氷風
呂。政府紙幣は熱湯。普段のお湯ならやけどをするが、氷風呂な
ら熱湯を入れない方が凍え死ぬ。金融政策は本来日銀の仕事だが
日銀が何もしないのならば政府がやるしかないのでないか。イン
フレ懸念の観点から歯止めが必要、というのならば、「インフレ
率3%になれば発行を止める」など物価安定目標をさだめればよ
い。これは同時に財政規律の確保にもつながる。
──2009年2月13日付の産経新聞「単刀直言」より
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政府紙幣とは何でしょうか。
政府紙幣とは、「通貨発行権」を持つ政府が直接発行する紙幣
のことで、「国家紙幣」とも呼ばれます。政府紙幣などというと
禁断の方法のようにいわれますが、シンガポールの通貨「シンガ
ポールドル」は政府紙幣です。これは、シンガポール金融管理局
が紙幣の発行と管理を行っているので、中央銀行の業務を政府が
自ら行っていることになります。
まだあります。「香港ドル」がそうです。中国の香港特別行政
区の法定通貨「香港ドル」は、香港金融管理局で民営銀行3行が
紙幣を発行していますが、そのうち、10ドル香港紙幣は、香港
特別行政区政府の発行する政府紙幣です。
歴史的に見ると、日本、とくに明治維新後の明治政府は、政府
紙幣を何回も発行しています。戊辰戦争のときの「太政官札」、
西南戦争時の「明治通宝」などがそうです。
明治維新の新政府は、税制などの歳入システムが未整備のまま
で発足したので、当時の政府支出の大部分は、太政官札などの政
府紙幣で行われていたのです。このような政府紙幣を発行すると
ハイパーインフレが懸念されますが、当時は経済がデフレ状態に
あったので、物価も上昇せず、経済も順調に拡大しています。現
在の日本もデフレ状態にあるので、この事実は重要な参考ポイン
トになります。
しかし、明治15年(1877年)6月にそれら政府紙幣の整
理の目的もあって、日本銀行条例が制定され、同年10月10日
に日本銀行が業務を開始しています。その後太平洋戦争下の19
38年、金属を優先的に軍需に回すため、当時補助貨幣(硬貨)
だった50銭が政府紙幣化されていますが、その後、政府紙幣の
話が浮上することはなかったのです。
リーマンショックにより深刻化した景気後退期において、自民
党のある政治家が、当時の麻生太郎首相に対して、政府紙幣発行
の政策提言書を提出しています。その政治家は、第1次安倍改造
内閣で金融担当大臣を務めた渡辺喜美氏です。その政策提言書の
最後には、次のような文言が書かれていたのです。
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政府紙幣発行などの提言が速やか、かつ真摯に検討、審議され
ない場合、政治家としての義命により、自民党を離党する。
──渡辺喜美
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麻生内閣は、この政策提言を無視したので、渡辺喜美氏は自民
党を離党しています。当時、麻生内閣は、不況対策を含むあらゆ
る面で、小沢一郎代表の指揮する民主党に追い詰められており、
不況も深刻化していたので、もし総選挙を行えば、ほぼ確実に政
権を失う危機にあったのです。麻生政権は、野党から解散総選挙
を要求されていたのです。
この時期の政府紙幣発行の提言は、従来とは、次の2つの面で
背景が異なっていたのです。
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1.財政上の目的である。国債の発行残高が膨れ上がってい
る状況下で、国債を増やさずに、政府の財源をつくるこ
とである。
2.金融政策上の目的である。政府紙幣発行によってマネー
サプライを増やし、デフレからの脱却を図ろうというわ
けである。
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──[消費税は廃止できるか/030]
≪画像および関連情報≫
●「お札を刷って国の借金帳消し」ははたして可能か
──「高橋洋一の俗論を撃つ!」より
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ある人から、お札を刷って国の借金を帳消しにできないか
と聞かれた。これは、後で詳しく述べるが、ある程度はでき
る。また、これと大いに関係があるが、かつて筆者が政府紙
幣の発行を主張したこともあり、しばしばそのメリットとデ
メリットを聞かれる。
実は、政府紙幣の発行と日銀の量的緩和は、経済効果とい
う観点から見れば、両者はほぼ同じである。日本の経済学者
は、財政学と金融論(金融政策)が縦割りになっており、政
府紙幣はそれらの狭間に入るのでキワモノ扱いである。この
ため、日銀の量的緩和でも理解不足の人が多いのは残念であ
る。まず政府紙幣はそれほど突飛なものではなく、ほぼ現行
制度の中の話である。かつて政府紙幣を生理的に嫌った与謝
野馨氏は、経済財政相時代にとんでもない発言をした。
テレビ番組で与謝野氏は、政府紙幣について「『円』って
いうのは使えないんですよ。だから、『両』とかにね、しな
いと。信用あります?流通しないですよ」と言った。
これは、政府紙幣が現行制度で構成できることを知らずに
言ったことで、ある意味法律違反の発言だ。通貨の単位及び
貨幣の発行等に関する法律(以下「通貨法」)第二条第一項
には「通貨の額面価格の単位は円とし、その額面価格は一円
の整数倍とする」とある。政府紙幣は法定通貨であり、その
通貨単位を「両」なんて勝手に言ってはいけない。それも、
現職経済担当閣僚がテレビで公言するのだから、困ったもの
だった。 https://bit.ly/2OYDU17
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渡辺喜美氏