実です。「早くも復活論」という記事もネット上にはあります。
しかし、マレーシアが消費税を廃止したのは、2018年6月の
ことであり、まだ1年7ヶ月ちょっとしか経過していないので、
もう少し様子を見る必要があります。それに、国にはそれぞれ事
情があり、一概に増税廃止の賛否を問うことは困難であると思い
ます。マレーシアと日本は事情が異なります。
添付ファイルに、マレーシアが、消費税を導入する以前の20
13年と、導入後の2016年を比較できるマレーシア中央政府
の歳入の内訳のグラフを付けています。ちなみに、マレーシアが
消費税を導入したのは2015年のことです。添付ファイルのグ
ラフをご覧ください。このグラフは、既出の熊谷聡氏がマレーシ
ア財務省のデータから作成したものです。
グラフを見ると、マレーシアという国は、石油関連収入と法人
税の高い国であることがわかります。マレーシアには、ペトロナ
スという国有石油会社があり、消費税導入前の2013年の石油
関連収入は27%と3割に近く、マレーシアが石油関連収入に大
きく依存していたことがわかります。当時原油価格は安定してお
らず、これに過度に依存することにはリスクがあったのです。
奇しくも消費税を導入した2015年は、原油価格は大幅に下
落し、石油関連収入は15%減少して12%になったのですが、
2016年のグラフを見ると、消費税が歳入の15%を占め、石
油関連収入の減少分をカバーしています。つまり、マレーシアは
その分、財政赤字を増やさずに済んでいます。そういう意味で、
消費税導入はなかなかの英断であったともいえるのです。
マレーシアが日本と違う点は人口の平均年齢の若さです。20
19年の時点でそれは28・9歳であり、日本の47歳と比較に
ならない若さです。マレーシアの依存人口(15歳未満+65歳
以上)は6・7%に過ぎず、生産人口(15歳〜64歳)はその
2倍以上です。これを「人口ボーナス期」といいますが、これか
らますます経済が発展する可能性を秘めています。
つまり、マレーシアは日本と違って、消費税を導入しても、経
済成長ができる国です。なぜなら、マレーシアは目下「人口ボー
ナス期」を謳歌しており、民間消費支出は堅調であり、消費税が
消費支出に強い影響を与えているわけではないからです。それな
ら、なぜ、野党連合・希望連盟(PH)は、なぜ、消費税廃止を
行ったのでしょうか。
強いていえば、「生活費の上昇を抑える」ことです。これにつ
いて、熊谷聡氏は次のように述べています。
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物価指数全体で見ると、2018年6月の消費者物価指数は前
年同期比でプラス0・8%となり、前月のプラス1・8%から、
1・0%ポイント下落した。また、SSTが再導入された9月の
消費者物価指数の伸びはプラス0・3%と低く、その後も消費者
物価指数の変動はプラス1%以下、(2019年1、2月につい
てはマイナス)で推移している。消費税の廃止は、SSTの再導
入を含めても、消費者物価の上昇を沈静化させる効果があったと
言える。 https://bit.ly/2tLEdoF
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このように、消費税廃止は、消費者物価の上昇を沈静化させる
効果はあったわけです。しかし、幅広く課税できるGST(消費
税)を一部にしか課税できないSST(物品税)に替えたことに
よって、マレーシア政府の税収は220億リンギ(歳入の8・4
分に相当)の減収になっています。当然のことです。
マハティール首相は、これへの対応策として、次の2つのこと
を実施しています。
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1.輸入サービスと不動産売却への課税を強化
2.国有石油会社ペトロナスの特別配当を充当
─────────────────────────────
しかし、「1」については理解できるとしても、「2」につい
ては、特別配当300億リンギを拠出したものの、毎年できるも
のではなく、安定財源が必要になります。
マレーシアは1997年のアジア通貨危機と2009年の世界
金融危機で財政赤字が拡大し、2013年時点では、政府債務残
高はGDP54・7%にまで達しています。この数字は、マレー
シアの財政規律である「GDP比55%」ギリギリです。消費税
を廃止して、この問題をマハティール政権がどのように解決しよ
うとしているのかは、まだ見えていない状況です。
ただひとついえることがあります。これは、マレーシアに限ら
ないのですが、消費税を導入している国と日本との比較では、ど
うしても税率だけを見てしまうのですが、食料品などの生活必需
品などについては非課税の国が多いし、その対象も広いのです。
マレーシアのケースでいうと、食品・飲料など545品目は消
費税の対象外です。日本の場合、そういう生活必需品などについ
ても、軽減税率と称し、8%の税率をかけています。こういう国
は先進国では日本だけです。
日本では、その軽減税率の導入でも、十分過ぎる時間があった
にもかかわらず、財務省は最初からやる気はなく、真剣に取り組
んでいるとはいえません。軽減税率対象を決めるのが技術的に難
しいとか、何とかいって、ていねいな対応を怠っています。しか
も税率は8%に据え置きしたままで、非課税はもとより、税率を
下げるという検討すら、一切やっていません。
そしてその導入のタイミングは、結果論ではありますが、わざ
わざ最悪のときを選んでやっています。その結果、日本は20年
以上もの間、デフレから脱却できず、日本経済はまるで冷え込ん
だままです。「5%まで税率を下げる」議論もありますが、その
前段階として、「生活必需品を8%から0%にする」だけでも、
国民の生活はずっと楽になると思います。
──[消費税は廃止できるか/026]
≪画像および関連情報≫
●日本と逆に消費税を廃止したマレーシア、早くも復活論
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10月1日から10%に上がった消費税。税収が増えれば
福祉や行政サービスが充実するという考え方もあるが、家計
を圧迫するのは間違いない。日本が増税した一方、昨年、消
費税の廃止に踏み切ったのがマレーシアだ。この廃止につい
て、日本の一部にも「英断」と評価する声もある。だが、別
の財源を探し出すことは容易ではなく、政府は対応に苦慮。
既に「消費税復活論」が浮上する。
「GST(消費税)は、すべての国民から支払われる。赤
ちゃんにさえ課税される」
2017年11月、在野の立場にあったマレーシア元首相
のマハティール氏(現首相)はブログにこんな投稿をした。
当時のナジブ政権が15年に導入したGSTを痛烈に批判す
るものだ。投稿の約半年後に行われた総選挙で、マハティー
ル氏は野党連合「希望連盟」の首相候補として出馬。ナジブ
政権の腐敗を追及すると同時に、GST廃止を公約に掲げ、
勝利を収めた。
マハティール氏は18年5月に首相に就任すると、さっそ
くGSTの廃止を決定した。15年まで導入されていた売上
・サービス税(SST)を修正し、9月から新税として復活
させた。新しいSSTは、製品の出荷時に製造者に課される
売上税(5〜10%)と、消費者が無形のサービスを利用し
た際に課されるサービス税(6%)を柱とする。GSTが消
費活動すべてに適用されたのとは大きな違いだ。
https://bit.ly/2Se1l8S
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マレーシア中央政府歳入の内訳