2020年02月04日

●「強力な影響力を持つ高名学者の嘘」(EJ第5180号)

 昨日のEJで取り上げた、ケインズ系の経済学者、アバ・ラー
ナーの機能的財政論(functional finance)について、既出の青
木泰樹氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
 一言で言えば、「財政の役割は民間経済のためにある」という
民間経済を支える財政論である。そこにあるのは、民間経済の状
態が第一に重要であって、財政状態は副次的な問題にすぎないと
いう認識である。デフレによって経済停滞が続いている場合、政
府は積極的に財政を拡張して民間経済を支えるべしとの主張であ
る。ただしそれは歯止めなき財政拡張を示唆しているわけではな
い。財政拡大の限界はインフレ率が決める。インフレが高進する
ようならそれ以上の財政拡張は民間経済のために実施してはなら
ないのである。一般にインフレ率は2%程度が望ましいと言われ
ているので、そこまでは拡張可能となる。
    ──青木泰樹教授論文/「増税論に潜む経済学者の嘘/
         『家計と財政の同一視』に騙されるな」より
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 つまり、アバ・ラーナーは、政府の経済政策は、完全雇用の産
出と物価安定を実現するよう設計されるべきで、それが公的債務
を増やすか減らすかについては、気にするべきでないと主張して
いるのです。アベノミクスでは、第1の矢である大規模な金融緩
和政策を行いながら、物価目標2%を目指していたのですが、な
かなか目標の2%には到達しないでいます。アバ・ラーナーの考
え方によれば、それは、第2の矢である機動的な財政出動が足り
なかったことが原因であると思われます。それが公的債務を増や
すことになるとの躊躇いが少しでもあると、どうしても中途半端
になってしまうからです。
 昨日のEJで「22年デフレ」について言及しましたが、19
98年に生まれた子供は、現在22歳の社会人になっています。
彼らは生まれたときから繁栄を知らず、日本という国が多くの借
金を抱えた貧乏国であるとしか認識できないでいます。それに、
これまで3回にわたって消費税を引き上げて10%にしても、税
収は増えるどころか、減っているのです。
 さて、不思議な現象ですが、現在の日本では、消費増税に関し
ての国民の反発は縮小していると、藤井聡京都大学大学院教授は
慨嘆しています。それは、多額の税金を投入した財務省の執拗き
わまるプロパガンダと、昨日のEJで述べたように、それを支援
するわが国の一部のエコノミストや経済学者などの消費税につい
ての「ウソ」や「デマ」がメディア、とくにテレビでまき散らさ
れた結果です。
 2013年のことですが、安倍政権では、2014年に予定さ
れている消費税8%への増税前に、首相官邸は「消費増税・集中
点検会合」が開催されています。日本国内の消費税の増税につい
て、専門的な知識、見識を持つ60名の専門家たちを集めて会合
が行われたのです。
 このときの意見集約の結果は、条件付き賛成を含めて、実に約
86%が賛成を表明しています。その共通した意見は、次のよう
なものだったのです。
─────────────────────────────
     今回の消費税の増税の影響は軽微である。
─────────────────────────────
 しかし、結果は「軽微」どころか、景気は激しく冷え込み、ア
ベノミクスによって、上昇しつつあった景気は「腰折れ」になり
デフレは、さらに悪化したのです。京都大学大学院教授で、当時
内閣官房参与の藤井聡氏が、とくに問題があるとした3人の経済
学者の発言が以下にあります。
─────────────────────────────
◎慶応義塾大学経済学部・土居丈朗教授
 消費税率を上げても大きく景気が悪くなるということはない。
◎東京大学大学院経済学研究科・伊藤隆敏教授
 引き上げても景気の腰折れやデフレ脱却の失敗につながること
 はない。
◎東京大学大学院経済学研究科・吉川洋教授
 私は、消費税率は予定通り引き上げるべきだという意見を述べ
 た。・・・日本経済の現状は基本的には順調。昨日色々な経済
 指標も出たが、日本経済の成長プロセスはかなり底堅いとみて
 いるとの意見を述べた。
     ──藤井聡教授論文/「学者のウソが日本を滅ぼす」
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 これら3人の経済学者のなかで、東京大学大学院経済学研究科
・吉川洋教授は、日本の経済学会の重鎮(元経済学会会長)とい
われる人物ですが、安倍総理に具申した意見とは、まったく異な
る結果が生じています。とても専門家とは思えない消費増税のイ
ンパクトの読み違いですが、吉川教授らは何ら反省せず、安倍首
相が10%のへの消費増税の延期を公表した政府に対して、次の
見解を公表しています。鉄面皮とはまさにこのことです。
─────────────────────────────
 消費税引き上げは国民の安全・安心の基礎となる社会保障制度
を持続可能なものにし、財政再建の一歩となるものだった。日本
経済にとっての大きなリスクを取り除き、民需主導の持続的な経
済成長を生み出すはずだった。        ──吉川洋教授
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
─────────────────────────────
 彼らは反省のかけらもなく、平然と首相に対して、大ウソを述
べたのです。     ──[消費税は廃止できるか/021]

≪画像および関連情報≫
 ●【青木泰樹】100回の嘘と101回の正論
  ───────────────────────────
   いよいよ五月になりました。今後の日本経済の浮沈を左右
  する本年最大のイベント、安倍総理の消費税再増税に関する
  決断の時期が近づいてまいりました。予定通り実施か、延期
  か、凍結か(最も望ましい5%への減税は無理でしょうが)
   5月18日には、増税可否の判断材料の一つとされている
  2016年1〜3月期のGDP速報値が公表されます。あま
  り良い数字は出ないと予想されていますが、実際はどうなる
  でしょう。直近の2015年10〜12月期の実質GDPが
  前期比▲0.3%でしたから、ここでマイナスにでもなれば
  定義上はリセッション(景気後退)となります。3〜4月に
  官邸が主催した「国際金融経済分析会合」にて世界的に著名
  なクルーグマン教授やスティグリッツ教授が増税延期と財政
  出動の必要性を総理に説いたと報じられていますし、伊勢志
  摩サミットでも財政出動が主要テーマになるとのことですか
  ら、延期の可能性が高まっていると予想する向きが多いと思
  われます。
   しかし、なにぶん政治の世界ですので予断を許しません。
  政財官の増税推進派が、圧力を強めてくることも懸念されま
  す。大方の予想を覆すように「予定通り増税を実施します」
  と総理が決断すればショックは倍加するでしょうから、一気
  にデフレスパイラル突入という事態にもなりかねません(シ
  ョックに備え、そうした事態を想定しておくことも、必要で
  しょう。杞憂に終わればそれに越したことはありません)。
                  https://bit.ly/2vAUv4g
  ───────────────────────────

藤井聡教授/吉川洋教授.jpg
藤井聡教授/吉川洋教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]