2020年01月31日

●「財政健全化は財政均衡化と同意義」(EJ第5178号)

 財務省は、なぜ内閣を動かしてまで、消費税の増税をしようと
するのでしょうか。それは、繰り返し述べているように、彼らは
「財政均衡論」という考え方に立っているからです。
 経済や財政の問題は、科学のように絶対的な「正解」というも
のがない分野です。したがって、財政均衡論というのは、たくさ
んある経済や財政の考え方のひとつに過ぎないといえます。むし
ろ、財政均衡論というより、「財政均衡主義」か「財政均衡化」
というべきものです。そういう考え方もあるという意味です。
 ところが、いつの頃からか、彼らは「財政均衡化」を「財政健
全化」という言葉に言い換えています。非常に巧妙です。一般国
民にとって「健全」という言葉はプラスのイメージでとらえられ
るので、財政健全化といえば良いことだと思い、この言葉を繰り
返し聞かされていると、そうしなければならないと思い込んでし
まうものです。それが、世論調査で消費税の10%引き上げにつ
いて、賛成が反対を上回るという驚くべき結果となってあらわれ
ています。国民は、完全に謀られています。
 この点を指摘したのは、京都大学レジリエンス実践ユニット特
任教授の青木泰樹氏であり、次のように述べています。
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 健全なる肉体は健康体、健全なる経済は成長を続け、国民の暮
らし向きが少しずつ良くなる状態。それでは、財政均衡がなぜ健
全なのか。現実には、デフレ継続のような不健全な経済状態が存
在するのである。その状況下では財政均衡化のための緊縮財政を
すれば、民間経済はますます不健全化してしまう。第一に目指す
すべきは国民経済の健全化ではないか。経済学の世界と異なり、
現実世界は自動的に最適な状態に至らないのである。緊縮財政派
の政策順序は完全に誤りである。個人と政府を同一視させる嘘を
ついた後に、収支の一致を健全と称する嘘を重ねる。経済学者の
罪は深い。      ──京都大学レジリエンス実践ユニット
                   特任教授の青木泰樹氏
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
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 財務省は、「近年の日本において、財政状況が先進国最悪であ
り、消費増税は避けられない」という前提に立って、世論形成を
してきています。とくにメディアに対しては、長年にわたって、
硬軟さまざまな圧力が加えられ、昨年の10月に実施した10%
への消費増税に関して主要メディアは次の社説を掲げています。
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 ◎2018年10月1日付、朝日新聞社説
  ・政治的な理由で、三度目の延期をすることがあってはな
   らない。
 ◎2018年9月22日付、読売新聞社説
  ・来年10月の消費増税を着実に実施し、給付の抑制と負
   担増の制度改正にも取り組まなければならない。
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 東京理科大学の田中晧介助教をはじめとする調査チームは、全
国5紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)の論調の、定量分析を
行っていますが、その結果について、東京理科大の田中晧介氏は
次のように述べています。
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 その研究結果によれば、5紙ともに、緊縮財政を主張する画一
的な論調であったことが学術的に明らかとなった。それはつまり
いずれの新聞社も、消費増税を肯定するとともに、政府の財政支
出拡大を否定する論調に偏っており、少なくとも全国紙において
は、意見の多様性が見られなかったことを意味する。もちろん、
現代社会においては、インターネットの台頭で新聞の役割が分散
化したとはいえ、人々にとって、依然として主要な情報源である
新聞社の論調の偏りは、人々の認識に偏りを生じ、客観的な事実
に基づく適切な判断を歪めかねない。
               ──東京理科大学田中晧介助教
   『消費増税を凍結せよ』/「別冊クライテリオン」増刊号
              2018年12月号/啓文社書房
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 大手メディアが財務省に完全に取り込まれています。ある新聞
社の論説委員が増税反対の論陣を張っていたところ、国税庁に狙
い撃ちされ、飲食費などの伝票に虚偽の記載がないか徹底的に調
べられたそうです。完全な嫌がらせです。
 新聞記者も少しでも増税批判の記事を書くと、財務省の役人が
複数やってきて、「君の記事は間違っている」とクレームを付け
るのです。そのとき、少しでも反論すると、その後、あらゆる情
報から遮断されてしまったのです。まして、テレビなんかに出演
して、増税反対論でも話そうものになら大変なことになります。
財務省からテレビ局の上層部に圧力がかかり、確実に次の出演の
オファーはなくなります。
 現在、長期にわたってテレビのコメンテーターをやっている人
は、絶対に財務省に楯突かないと、財務省から認められている人
たちばかりです。そうなってくると、どうしても保身のために、
「長いものには巻かれろ」ということになってしまうものです。
その結果、国民から正しい情報を遮断し、国民を間違った方向へ
導いてしまうことになります。
 財務省が狙っているのは、消費税の税率を上げて、その税収増
で政府の負債の返済を行い、歳入と歳出のバランス──プライマ
リーバランスをゼロにしようとしています。いわゆる財政均衡論
であり、緊縮財政路線です。
 そんなことをすれば、デフレがますます深化して、とくに低所
得者を苦しめ、日本を亡国に追いやることになりますが、彼らは
そういうことは一切考慮に入れない血も涙もない連中なのです。
財政均衡論の問題点については、来週もとことん検討しようと考
えています。     ──[消費税は廃止できるか/019]

≪画像および関連情報≫
 ●【青木泰樹】財政均衡主義の正体
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   財政健全化に向けてとるべきは、「先憂後楽」。
   財政制度等審議会(吉川洋会長)は、半年ごとに財務大臣
  に建議をしていますが、直近の建議の中で、財政健全化の基
  本的考え方としてこの故事を使っています。元来の意味から
  若干離れますが、「先に苦労・苦難を体験すれば、後で楽に
  なれる」と言いたいのでしょう。
   もちろん、その含意は「少しでも早く増税および歳出削減
  を断行し、財政健全化を図れば将来不安は払しょくされる」
  ということです。恒例行事のように、毎回毎回、2020年
  度までの基礎的収支(PB)バランスの達成、すなわちプラ
  イマリー赤字の解消を唱え続けています。
   さらに今回はハードルを上げて、PBに利払い費も加えた
  財政収支のバランスを目標にすべしとの提言も加えておりま
  す。まさに財務省の意を忖度した建議と言えましょう。財制
  審を主導するのは著名な経済学者たちですが、彼らはなぜこ
  れほどまでに財政均衡にこだわるのでしょうか。
   今回は、財政均衡の経済学的論拠について考えます。結論
  から言えば、彼らは主流派経済学の論理に縛られ、現実が見
  えなくなっているということです。もしくは意図的に見よう
  としないのかもしれません。経済学者は「経済学の見地から
  すれば・・」という前置きをよく使いますが、この常套句を
  聞いたときは「現実には当てはまらないが・・」と、彼らが
  言っていると解釈するのが適切です。
                  https://bit.ly/38M4KBa
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青木泰樹氏.jpg
青木泰樹氏

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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