ることにします。バランスシート不況というのは、多くの銀行が
守りの姿勢に入って、貸し出しをせず、ひたすらバランスシート
の修復に力を入れることです。これによって何が起きるでしょう
か。消費(支出)という観点から考えていきます。
1000円の所得のある人がいます。通常このうち900円を
自分で使い、100円を貯蓄していたとします。そうすると、消
費した900円は誰かの所得になり、残りの100円は銀行をは
じめとする金融機関によって貸し出され、そのお金を借りた人に
よって消費されます。この貸し出しがスムーズに進むことは、借
金をする人が増えることを意味します。
そうすると、900円プラス100円の支出が行われたことに
なるので、経済は順調に回っていきます。もし金融機関が100
円すべてを貸せない場合は、金利を下げると、通常、借り手は必
ずあらわれるものです。
ところがバランスシート不況下では、1000円の所得のうち
900円は消費されても、銀行に貯蓄した100円は、借り手が
見つからず、ストックされてしまうのです。企業が借金の返済に
力を入れているからです。もちろん金利は下げて、ゼロ金利に達
しているのですが、それでも借り手はあらわれないのです。
そうすると、経済全体としては、900円しか需要は発生しな
かったことになります。ある人の支出は別の人の所得ですから、
この場合、経済全体としては、規模が、当初の1000円から、
900円に縮小してしまうことになります。
そうすると、家計は900円の所得のうち、10%の90円を
貯蓄して、810円を使うことになります。経済全体が縮小する
と、資産価値も当然下落します。そうすると、銀行はますます貸
せなくなり、バランシートの修復を必死にはじめることになりま
す。これが行き着くところまで行くと、どうなるかについて、リ
チャード・クー氏は次のように述べています。
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1000円の所得が500円まで落ちてしまったとしよう。そ
こまで所得が落ちると、所得が1000円あるという前提で取り
決めていた家賃や生活費だけで人々は精一杯で、全く貯蓄ができ
なくなる。つまり、この人は生活のためだけに500円の所得を
全額使うことになるが、その結果、次の人の所得も同じく500
円となる。この500円を受けた次の人も全額使わないと生活を
維持できないとすればその次の人の所得も再び500円となる。
つまり、民間部門(家計と企業)が一銭も貯蓄できないほど貧乏
になったところで、経済は新しい均衡に達することになる。つま
り、貯蓄されてはいるが投資されないという「所得の漏れ」が全
くなくなると、経済は安定を取り戻す。そしてこの500円の世
界が、世に言われる「大恐慌」なのである。
──リチャード・クー著/楡井浩一=訳
『 デフレとバランスシート不況の経済学』/徳間書店刊
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どうしてこんなことが起きるのでしょうか。繰り返し述べてい
るように、銀行が貸し出しを増やせないのは、根本的には経済が
成長していないことが原因であると思います。
2020年に入っていますが、この年に安倍首相はアベノミク
スの総決算として、「名目GDPを600兆円にする」といって
いたのですが、安倍首相は通常国会の演説ではまったく触れてい
ません。どうなっているのでしょうか。この首相は、うまくいっ
たときは大々的に宣伝しますが、自分にとって都合の悪いことは
同じ答弁を繰り返して逃げるのが得意です。これによって多くの
ことがうやむやにされています。許し難いことです。
財務省の最大の間違いは金科玉条としている財政均衡論です。
そして、政府の借金を税金で返そうとしていることです。これに
ついて、大西つねき氏の所論をご紹介します。添付ファイルを見
てください。これは、1月26日のEJ第5173号の添付ファ
イル「政府支出とマネーストック」をベースとしています。
中央に注目してください。政府の借金を返すために、税金を上
げて税収をほぼ倍増の100兆円集める一方で、政府支出を24
兆円削って、50兆円にしたとします。超緊縮予算です。そうす
ると、マネーストックに何が起きるでしょうか。
マネーストック(M2)は、税金を徴収した時点で100兆円
減り、その他収入の5兆円も徴収するので、計105兆円減りま
す。そこから政府支出の50兆円が戻り、利息の9兆円も戻りま
すが、差し引きで、マネーストックは46兆円も減少します。
しかし、財政は、基礎収支が、税収・その他55兆円、基礎支
出が55兆円で黒字化し、国債残高は次のように46兆円削減っ
て、799兆円になります。
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845兆円 − 46兆円 = 799兆円
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財務省は、自分の庭先をきれいにして気持ちがいいかしれませ
んが、マネーストックが45兆円も減ると、経済は大変なことに
なります。そもそも政府の借金を税金で返すなどということが無
謀なのです。これを可能にするには、消えてしまう46兆円以上
を銀行が民間への貸し出しを増やすことですが、これが不可能な
ことは、ここまで述べてきたことで明らかです。大西つねき氏は
この問題の解決策について、次のように述べています。
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この問題を解決する方法はたった一つだけ。それは、の問題の
本当の原因である、誰かが借金しないとお金が発行されない、全
く間違ったお金の発行の仕組みを根本的に変えることなのです。
──大西つねき著/白順社刊
『私が総理大臣ならこうする/日本と世界の新世紀ビジョン』
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──[消費税は廃止できるか/016]
≪画像および関連情報≫
●政府が“本当に”借金を返すとどうなるか
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政府が借金を返す方法は、税金を徴収して返すか借り換え
るかのどちらかです。この他に、政府が政府紙幣や一兆円硬
貨などを発行して返すことも可能ではありますが、政治的に
実現は難しそうです。
借り換えについては、返済を先延ばしにしているのと同じ
ことであり、借金を“本当に”返していることにはなりませ
んよね。結局、政府が“本当に”借金を返すには、税金を徴
収して返すしかないわけです。
今回の記事では、政府が税金を徴収して“本当に”借金を
返すと何が起きるのかを、グリーンマネーのモデルで考えて
みることにします。国債を持っているのは公衆(企業や家計
など)、銀行、日銀のいずれかですから、この3つに分けて
考えましょう。
公衆が持っている国債を、政府が税金を徴収して償還(返
済)すると何が起きるでしょうか。公衆が持っているグリー
ンマネーが徴税によって政府に移動し、それが再び公衆の手
元に戻り、国債は公衆から政府に移動して消えます。グリー
ンマネーは生まれたり消えたりしていませんから、マネース
ティックは増減しません。そして、公衆が保有する金融資産
としての国債が減ります。あまりいいことは無いように見え
ますね。 https://bit.ly/3aKmnTC
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●グラフの出典/──大西つねき著/白順社の前掲書より
もし政府の借金を税金で返そうとすると