2020年01月10日

●「『国』と『政府』は同じではない」(EJ第5164号)

 「毎年60兆円の税収しかないのに、毎年100兆円を超える
予算を使っている。これでは財政は破綻する。あくまで税収の範
囲内での政府支出を目指すべきである」──これが財務省の「財
政均衡論」です。
 この財務省の主張に関しては、まったく反論の余地はありませ
ん。こんなことをしていたら、確かに国家財政は破綻します。一
般家計に置き換えてみると、「30万円の月収しかないのに、毎
月60万円の支出をしている」ようなものであり、破綻必至であ
ることは誰でもわかります。
 しかし、問題はその分かり易さにあります。財務省は、このよ
うな素人でもわかる理屈を使って、国(本当は政府)の借金の深
刻さを訴えて、消費増税をしやすい環境を作っています。
 令和2年度(2020年)の予算案について、実際の数字で確
かめてみることにします。「歳入」は次のようになっています。
─────────────────────────────
         税収 ・・ 63兆5130億円
     その他の収入 ・・  6兆5888億円
        公債金 ・・ 32兆5562億円
     ―――――――――――――――――――
              102兆6580億円
                  https://bit.ly/2QRhwH0 ─────────────────────────────
 これによると、公債金は、32兆5562億円であり、そのう
ち特例公債(赤字国債)は、25兆4462億円、建設国債は、
7兆1100億円です。公債全体の金額は、2014年には41
兆円でしたが、年々減らしてきており、2020年度は32兆円
です。安倍政権もそれなりの努力をしているのです。
 財務省は、国債の残高を平然と「国の借金」といいます。財務
省が2019年2月8日に発表した最新の数字では、国の借金は
2018年12月末で1100兆5266億円になっています。
この数字には、国債のほか、借入金、政府保証債務現在高(政府
短期証券)が入っています。2019年末の数字も今年の2月に
財務省から発表されることになっています。年々凄い勢いで、国
の借金が増えていることを国民に知らせるためです。
 しかし、正確にいうと、これは「国の借金」ではなく、「政府
の借金」です。財務省は意図してそういうようにいいます。その
方が彼らにとって都合がよいからです。だが、「国」と「政府」
は明らかに異なります。「国=政府」ではないのです。国という
ときは「民間」も入ります。財務省は、慎重にそこから「民間」
をわざと外しているのです。なぜなら、「民間」を入れると、困
ることが起きてしまうからです。
 ここで借金を国債に絞って考えます。国債は政府の借金です。
その国債の残高が1000兆円あって、それが、国民一人当たり
800万円に該当するとします。個人にとっては、過大な借金と
いえます。1000兆円といってもピンとこない人が多いので、
赤ん坊も含む日本人一人当たりの借金がそれぞれ800万円にな
る──こういえば、危機感を感じてくれるということで、財務省
はこういうアッピールをするのです。
 しかし、これはおかしいです。日本の場合、国債の90%以上
は、民間が持っています。具体的には、日本の金融機関、すなわ
ち、銀行、生命保険会社、損害保険会社、年金運用基金などが保
有しています。もちろん個人で国債を保有している人もたくさん
います。したがって、政府からみると借金ですが、民間の立場か
らみると、国債は「資産」になります。国民一人当たり800万
円の借金ではなく、それだけの資産を保有しているのです。
 まさにパラドックスです。だから財務省は、「民間」を隠して
「国の借金」と表現するのです。つまり、国債の90%は貸し手
も借り手も日本であり、これは国内の貸し借りであって、国の借
金ではないのです。しかも、そのうち、約400兆円を政府の子
会社である日銀が保有しており、今や「政府の借金」ですら、な
くなっているといえます。
 なお、既に述べているように、政府は、借金も多いですが、た
くさんの資産を保有しています。しかも、政府のバランスシート
上の資産を見ると、金融資産が大半を占めています。その資産の
総額は672・7兆円もあるのです。本来は負債から、これらの
資産を引くべきですが、財務省はそうしていないのです。借金を
多く見せようとしているからです。
 これに加えて、「対外純資産」があります。日本が海外に保有
している資産から負債を除いたものをいいます。具体的な形態は
資産としては外貨準備,銀行の対外融資残高,企業の直接投資残
高などがあり,負債としては海外からの証券投資,借入金などが
あります。日本はこの対外純資産で世界一です。2017年現在
約328兆円で世界一、それも27年連続の世界一です。日本は
世界一の債権国家です。
─────────────────────────────
 ◎主要国の対外純資産    2017年末現在
      日本 ・・  328兆4470億円
     ドイツ ・・  261兆1848億円
      中国 ・・  204兆8135億円
      香港 ・・  157兆3962億円
   ノルウェー ・・  100兆3818億円
     カナダ ・・   35兆9305億円
     ロシア ・・   30兆2309億円
    イタリア ・・  ▲15兆5271億円
      英国 ・・  ▲39兆6540億円
    フランス ・・  ▲62兆4874億円
    アメリカ ・・ ▲885兆7919億円
          ──財務省資料/https://bit.ly/36thfRq
─────────────────────────────
           ──[消費税は廃止できるか/005]

≪画像および関連情報≫
 ●「円」はなぜ安全資産と呼ばれるのか
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   金融市場にさほど興味を持たない読者でも、「リスク回避
  ムードが高まった結果、比較的安全とされる資産の円が買わ
  れ・・・」というフレーズを1度は見聞きしたことがあるの
  ではないか。その際、同時に「なぜ円が安全なのか」という
  疑問を抱いた経験もあるだろう。
   実際、100年に1度の大地震が起きても、大津波に襲わ
  れても、原子力発電所が事故に遭い、「東京壊滅か」という
  仰々しい懸念に煽られても円はその都度、買われてきた。最
  近では自国に向けてミサイルが発射されても円買いが進んだ
  ことも記憶に新しい。これらの動きに関しては直感的に納得
  のいかない向きもあるだろう。為替市場分析を生業としてい
  る中で「なぜ円が安全なのか」という論点は頻繁に照会を受
  ける論点の1つだが、最も模範的かつ、異論が少ない解答が
  「日本は世界最大の対外債権国だから」というものになる。
  これは「日本は世界で一番外貨建ての資産を保有している国
  だから」とも言い換えられる。この点に関する数字は毎年5
  月末財務省が前年分について公表する『本邦対外資産負債残
  高の状況』が大いに参考になる。 https://bit.ly/2sF0kg9
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主要国対外純資産/2017年末現在.jpg
主要国対外純資産/2017年末現在
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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