2020年01月07日

●「クリントンの経済再生計画に学べ」(EJ第5161号)

 最近よくモーニングショーなどに解説者として登場する加谷珪
一氏という経済評論家がいます。元日経BP社の記者で、野村證
券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務
を担当して独立し、経済評論家として活躍されています。
 その加谷珪一氏の最近刊書の冒頭に、次のようなことが書いて
あります。
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 日本の経済力の著しい低下を示すデータは、いくらでもありま
す。世界競争力ランキングの順位は63ヶ国中もはや30位と、
1997年以降では最低の結果となっていますし(IMD調べ)
平均賃金はOECD加盟35ヶ国中19位でしかありません。相
対的貧困率は39ヶ国中29位、教育に対する公的支出のGDP
比率は43ヶ国中40位、年金の所得代替率は49ヶ国中40位
障害者への公的支出のGDP費は36カ国中31位、失業に対す
る公的支出のGDP比は34ヶ国中32位(いずれもOECD調
べ)など、これでもかというくらいひどい有様です。
 日本が貧しくなった原因は様々ですが、もっとも大きいのは、
日本の労働生産性が相対的に低い水準のまま伸び悩んでいること
です。経済学的にいうと、労働生産性と賃金には密接な関係があ
りますから、生産性が低いままでは、賃金はなかなか上昇しませ
ん。賃金が低いと家計に余裕がなくなりますから、消費が低迷し
これが企業の設備投資を弱体化させます。   ──加谷珪一著
        『日本はもはや「後進国」』/秀和システム刊
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 多くの日本人は、日本は経済では、世界第3位の経済大国だと
思っています。G7にも属しているし、貧しい国へODA(政府
開発援助)もしているし、堂々たる先進国のひとつであると自負
しています。しかし、上記指摘の平均賃金はOECD加盟35ヶ
国中19位、相対的貧困率は39ヶ国中29位、教育に対する公
的支出のGDP比率は43ヶ国中40位と指摘されて見ると、少
なくとも現在の日本は、こと経済に関しては、かつての豊かな先
進国とはほど遠い存在に変貌しつつあるといえます。つまり、日
本の貧乏化が急速に進んでいることは確かです。
 原因は、長期的に続くデフレにあります。原因ははっきりして
いるのです。しかし、日本はなかなかそれから抜け出せないでい
ます。デフレの起点を3%の消費税を5%に上げた1997年と
するなら、それからの23年間、日本はデフレから脱出できない
どころか、デフレを深化させています。明らかに、経済の舵取り
を間違えています。他の国も等しく経済不振に陥り、デフレの危
機に何度も瀕したことがあるはずですが、いずれも乗り切ってい
ます。つまり、この問題を解決できないのは日本だけということ
になります。その証拠に、この20年を超える長い期間にわたっ
て、経済を成長がマイナスなのは日本だけです。
 その責任は、その間の政権を担った10人の総理大臣にありま
す。10人の総理とは、橋本、小渕、森、小泉、安倍、福田、麻
生、鳩山、菅、野田の10人です。これら10人の総理は、いず
れも経済のことはよくわかっておらず、赤子の手をひねるように
財務省にコントロールされています。諸悪の根源は財務省にあり
ますが、彼らは何の責任をとる立場にはないのです。
 それなら、日本としては、どうすればよかったのでしょうか。
この問題を考えて行きます。初代ドイツ帝国宰相のオットー・フ
ォン・ビスマルクに次の有名な言葉があります。
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    愚者は『経験』に学び、賢者は『歴史』に学ぶ
         ──オットー・フォン・ビスマルク
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 格好な歴史の事例があります。大幅な財政赤字を6年かけて黒
字に転換させた米国の大統領がいます。1993年〜2001年
を担当したクリントン第42代米国大統領です。クリントン大統
領というと、不名誉な事件で史上2人目の弾劾訴追を受けた米国
の大統領という印象が強いですが、見事な財政運営において米国
財政の黒字化を達成させ、米国の危機を救っています。
 1993年1月に大統領に就任したクリントン大統領は、「ア
メリカ変革のビジョン」を掲げて、米国の変革に取り組んだので
す。当時米国経済はデフレ傾向にあり、経済の立て直しに重点が
置かれたのです。
 クリントン大統領は、湾岸戦争に勝利した父ブッシュ大統領の
再選を阻んで大統領になった人ですが、最初から就任から2期目
も自分がやるという前提で、8年計画で歳出額を年平均で3・3
%増加させる政策を実施します。このさい、物価上昇率見込みは
プラス1%から2%としています。
 それではその歳出を何に使ったのかというと、政府投資を増や
し、輸送関係、地域開発、教育訓練の支出に対して、財政支出を
辛抱強く集中させています。実際にこの8年間に財政支出は、大
統領就任前の1992年に比べて33%増加し、政府投資は55
%増加しています。
 これに加えて、クリントン政権は、不公平税制の是正を図って
います。実施までに若干時間を要したものの、法人税の最高税率
を34%から35%に、高額所得者への所得税を31%から39
・5%へ引き上げ、クリントン大統領が、大統領に就任した19
93年1月に遡って税金を徴収しています。
 この結果、通算8年間で、名目GDP成長率は年平均5・7%
(1・5倍)、実質GDPは年平均2・8%(GDPデフレータ
ーはプラス2・9%)となり、財政赤字は6年間で解消している
のです。しかも、財政規律の指標も、1993年の55%から、
2000年には36%に改善しています。
 このようにクリントン政権は、官民共同の積極的な投資活動と
法人税の引き上げが、税収を劇的に増加させたのです。このよう
なことが、なぜ、日本の政権にはできないのでしょうか。
           ──[消費税は廃止できるか/002]

≪画像および関連情報≫
 ●米国を救ったクリントン「経済再生計画」
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   クリントンが大統領に就任した93年当時、アメリカ政府
  は、巨額の財政赤字、日本とのあいだに生じた貿易赤字に苦
  しんでいた。また、89年には5・3%だった失業率は92
  年には7・5%に上昇、89年12月に6・5%だった経済
  成長率は91年12月に4・25%に低下していた。
   「変革」を掲げて大統領に当選したクリントンは、何より
  もまずアメリカ経済の再生を最優先課題として着手する方針
  であった。93年2月17日、クリントンは、「経済再生計
  画」を議会で演説し、独自の経済再生案を公表する。
   クリントンは、共和党政権の経済政策は「中間層・低所得
  者層を犠牲にして富裕層を優遇するトリクル・ダウン経済」
  だと批判し、その上で、@増税と歳出抑制によって94年度
  から5年間で財政赤字を4720億ドル削減する財政再建策
  A長期公共投資による国民と企業の生産性の促進策、B2年
  間で320億ドルの短期的景気刺激策を実施して景気回復の
  呼び水とする策という3つの柱からなる経済再生案を提示し
  た。93年補正歳出予算法案に、Bにあたる短期的景気刺激
  策の実施に必要な大型公共投資支出などを緊急支出として盛
  り込んだことを共和党は強く批判していた。上院審議では、
  民主党の重鎮ロバート・バード上院歳出委員長が強硬な姿勢
  で法案可決を狙ったため、共和党の執拗な議事妨害にあい、
  同法案の審議は予想以上に難航する。
                  https://bit.ly/2sEfyls
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過去25年間の米国財政支出の推移.jpg
過去25年間の米国財政支出の推移
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posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税は廃止できるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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