2019年12月26日

●「大企業が内部留保を貯め込む理由」(EJ第5158)

 最近安部首相は「アベノミクス」という言葉をあまり口にしな
くなっています。当初は何かといえば「アベノミクス」を口にし
その成果を強調していたものですが、最近はこの言葉を、あまり
口にしません。しかし、アベノミクスで景気がよくなったことは
確かです。なぜなら、安部政権が発足する前と、7年後の現在と
では、次の2つの数字が明らかに異なるからです。
─────────────────────────────
            日経平均株価   有効求人倍率
  2012年11月   8661円    0・80倍
  2019年11月 2万3278円    1・57倍
─────────────────────────────
 日経平均株価に関しては2・68倍、有効求人倍率に関しても
2倍になっています。これは大変なことです。この数字だけを見
ても、景気がよくなったことは確かです。安部政権が最長期政権
になったのはこの成果があってのことです。
 しかし、多くの人は、景気が良くなった実感が感じられないで
います。それは賃金が上昇しないからです。つまり、景気拡大の
成果が、広く国民に還元されていないのです。それは、企業の数
字を見ると、よくわかります。
 安部政権が発足したのは、2012年12月です。したがって
安部政権の初めての決算は2013年1〜3月期です。このデー
タと、5年後の2018年1〜3月期のデータを比べてみると、
その5年間で何が起きたかが鮮明になります。
 法人統計を見ると、金融・保険業を除く全産業の売上高は、5
年前よりも10・7%増えています。これは、この5年間で経済
が大きく成長したことを意味しています。そのなかにおいて、経
常利益は38・8%増と、売上高をはるかに上回る伸び率になっ
ています。どうして、こんなに経常利益が増えたのでしょうか。
 それは、従業員給与が2・5%増に抑えられているからです。
売上高を伸ばして、従業員給与を抑制すれば、利益が増えるのは
当然のことです。その結果として、企業が抱える内部留保(利益
剰余金)は、2018年3月末で、427兆円という莫大な金額
に達しています。427兆円といえば、日本のGDPに近い数字
です。途方もない数字になっています。
 企業がこれらの内都留保のほんの一部でも従業員に還元すれば
労働者の所得が増えて、国民は、景気回復の実感が得られるよう
になるはずです。しかし、昨今の企業は、労働分配率を下げる行
動をとり続けています。法人企業統計を見ると、企業の持つ現預
金の金額がわかります。2018年3月末の現預金は202兆円
で、5年前より35%も増えているのです。明らかに企業は膨大
なキャッシュを貯め込んでいます。
 どうして、企業は202兆円もの膨大な現預金を持っているの
でしょうか。預金を持っていても金利はわずかであり、それは、
企業の自己資本比率(ROE)の向上に貢献しないはずです。だ
から、賃上げで物価を上げ、デフレから脱却して物価上昇と賃金
上昇の好循環をもたらしたい安部政権としては、再三再四無駄に
キャッシュを持っていないで賃金を上げてくれと財界に要請して
います。ちなみに、自己資本比率とは返済不要の自己資本が全体
の資本調達の何%あるかを示す数値で、次の式で算出します。
─────────────────────────────
     自己資本÷総資本(自己資本+他人資本)
─────────────────────────────
 これに対して、次のような考え方があります。早稲田大学政治
経済学部教授、東京財団上席研究員、原田泰氏の考え方です。
─────────────────────────────
 経営者の立場で考えてみよう。企業にはよく分からない理由で
次々に危機が襲ってくるものだ。『ルーズヴェルト・ゲーム』な
ど、池井戸潤氏の企業小説を読むと、突然の融資打ち切り、取引
先の購入中止、購入中止をちらつかせた大幅な価格引き下げ、特
許を侵害しているという脅しなど、企業には次から次へと危機が
襲ってくる。危機の頻度が多すぎるような気はするが、それぞれ
はリアルである。個々の企業に対するショックだけでなく、経済
全体に対するショックもある。金融危機、世界不況、円の急騰、
資源価格の暴騰など、危機はいくらでも襲ってくる。
 一番頼りになるのはキャッシュである。融資を打ち切られても
キャッシュがあれば耐えられる。どんな場合でも銀行が貸し出し
に応ずるという契約をすることも考えられるが、突然、融資を打
ち切られるのであれば、そんな契約はあてにならないと企業は思
うだろう。             https://bit.ly/2PTdUFq
─────────────────────────────
 上記の原田教授の考え方は、大企業が内部留保を厚くする理由
として、一般的にいわれているものです。しかし、いまひとつ腑
に落ちないというか、納得できない考え方です。
 これに対して、森永卓郎氏は、企業が内部留保を貯め込む理由
について、「役員報酬の決まり方の変更」にあるとして、次のよ
うに述べています。これなら、納得できます。
─────────────────────────────
 かつては、一流企業の役員でも、年収は2000万円とか30
00万円の固定給だった。ところが、いまの役員報酬は、米国型
の報酬体系を採る会社が増えて、業績連動給とストップオプショ
ンのような株価連動給の2本立てになっている。しかも、役員報
酬の額は、数億円という高額報酬が珍しくなくなった。そうした
時代に役員が自分の懐を潤そうとしたら、やることは一つだ。成
長の成果を従業員に分配せず、利益を拡大する。それで業績連動
給が増える。そして、増やした利益を会社に貯め込む。そうすれ
ば企業価値が上がるから、株価も連動して、株価連動給が増える
のだ。         ──森永卓郎著/角川新書K−241
            『なぜ日本だけが成長できないのか』
─────────────────────────────
            ──[消費税増税を考える/056]

≪画像および関連情報≫
 ●それでも日本企業が「内部留保」をため込む理由
  ───────────────────────────
   19年9月の内閣改造に合わせて行われた自民党の役員人
  事で、税制調査会長に就任した甘利明衆議院議員は、就任と
  同時に、企業の内部留保を投資に回す環境を整えるための税
  制上の優遇措置を検討する考えをぶち上げた。党の税制調査
  会長は税制改正に大きな権限を持つポストで、会長ら「イン
  ナー」と呼ばれる非公式幹部会が事実上の決定権を握る。
   かつては山中貞則会長が税調のドンとして圧倒的な力を誇
  り、時の首相ですら口を挟めないと言われた。最近では税制
  に通じた長老は減り、力が落ちているとされる。それでも2
  代前、15年まで会長を務めた野田毅氏は、消費増税を巡っ
  て安倍晋三首相と対立した。
   そういう意味で、今回の税調会長交代はちょっとした「事
  件」だった。会長だった宮沢洋一・参議院議員が小委員長に
  まわる異例の人事で、しかも新会長に就いた甘利氏は安倍首
  相の信頼が厚いことで知られる。大蔵省(現財務省)出身の
  宮沢氏から民間企業経験もある甘利氏にバトンが渡ったこと
  で、税制改正に関して財務省の影響力が低下することになり
  そうだ。野田氏は最高顧問に残留したが、インナーには、塩
  崎恭久氏や石原伸晃氏、林芳正氏ら安倍首相に近い人物が並
  び、税制改正に首相の意向が反映できる体制が整ってきたと
  もいえる。           https://bit.ly/2ESqVZy
  ───────────────────────────

甘利明税制調査会長.jpg
甘利明税制調査会長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

RDF Site Summary