2007年07月09日

●研究すべきバランスシート不況論(EJ第2118号)

 経済を見る見方にはいろいろな学説や議論があり、決め手とい
うものがないのです。したがって、いろいろな学者や評論家が書
籍や雑誌で述べたり、テレビなどで話しているのを聞いても、今
ひとつピンとこない主張が多いものです。
 しかし、リチャード・クー氏の主張するバランスシート不況論
で昨今の経済の分析をしてみると、今まではっきりしなかったも
のが明確に見えてくるのは事実です。経済の素人にも十分納得性
のある主張だからです。
 それでは、このバランスシート不況論の評価はどうなのかとい
うと、内外の経済学者、経済評論家の間ではあまり高い評価を与
える人は少なく、この考え方を引用して話す学者や評論家もほと
んどいないのが現状です。
 しかし、上場企業の経営者による借金返済の行動は、これまで
見てきたように明確に数値で裏付けられており、否定できない事
実です。そして、そういう経営者の行動が景気に少なからず影響
を与えたであろうことも否定できないのです。バランスシート不
況論についての反論は改めて取り上げますが、この理論を認めた
うえで取る経済政策と知らないで取る政策とは大きく違ってくる
と思うのです。
 2007年7月5日――安倍首相は162日間の国会の終了に
当たって次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今国会では、憲法改正のために必要な国民投票法も成立しまし
 たし、4兆5千億円という過去最大の国債発行の減額を行った
 19年度予算、そして、教員免許更新制を含む教育再生3法を
 成立させることができました。        ――安倍首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍首相は、赤字国債について、過去最大の「4兆5千億円の
減額」の実現に胸を張っています。それは景気回復によって税収
が増えたからです。そしてそれは、小泉政権以来の改革の成果で
あり、引き続き改革を続行し、2011年にプライマリーバラン
スを達成させる財政再建を進めるとしています。さらに選挙の終
った秋には抜本的な税制改正を行い、おそらく消費税率の引き上
げに向けて動き出すものと思われます。
 2005年末に、当時の谷垣財務相や与謝野経財相がしきりと
消費税の引き上げに言及したことがあります。当時、名目成長率
は1.8%なのに税収は7.6%で伸びていたのです。こういう
状況になると、財務省は決まって財政再建を持ち出し、今まで何
回も景気回復の芽を摘んできているのです。
 谷垣財務相や与謝野経財相がなぜ消費税引き上げに言及したか
というと、景気が回復すると確かに税収も増えるが、同時に長期
金利も上昇するので、トータルでみると財政赤字は減らないと考
えているからです。
 谷垣財務相や与謝野経財相といえば経済の専門家であり、その
主張はそれなりの根拠があると考えてよいと思います。確かに、
通常の不況からの脱出時にはそういうことに配慮して手を打つこ
とは経済の常識になっています。
 しかし、現在までのところは事態はそのようには動いてはいな
いのです。税収が名目GDPの伸びを大幅に超えて回復する一方
で、長期金利はGDP成長率を下回っているからです。どうして
このようなことが起こるのでしょうか。
 これに対して、リチャード・クー氏は、今回の景気回復は通常
の不況からの脱出ではなく、バランスシート不況からの脱出であ
り、事情が違うとして、次のように説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 10年以上もバランスシート問題で借金返済に追われた経営者
 の多くは、既に骨の髄まで借金が嫌になっており、自社のバラ
 ンスシートが健全になってもなかなかお金を借りなくなってい
 る可能性が高いからである。    ――リチャード・クー著
     『「陰」と「陽」の経済学』 ――東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 2001年3月の時価評価制度の導入によって生じた実現損の
繰り延べ期間(最長7年)中にある企業はまだ多く、税金は支払
わなくても済んでいます。それにバランスシート修復を終えた企
業はそれまで返済に回していた資金をそのまま設備投資に回すこ
とができる――これによって有効需要は増えて経済の成長率は上
昇し、名目成長率は長期金利を上回る状態になっているのです。
 企業が積極的に借入れをしないので、その結果、金利が上がり
にくくなっており、バランスシート不況の脱出時には通常の不況
のそれとは明らかに違う減少が起こるのです。
 鍵を握っているのは、実現層の損失繰り延べ期間が終了した企
業が、新たに支払わなければならなくなった税金に見合う金額を
借り入れてくれれば、政府の税収増と同じ金額だけの民間資金需
要が増えるので、景気の悪化は避けられることになります。
 しかし、これはそれぞれの企業が取る行動であって、コントロ
ールすることはできないのです。もし、企業が税金として支払う
分に合わせて設備投資などの支出を抑制すると、そのキャッシュ
フローの減少分がデフレギャップとなって、景気の足を引っ張っ
てしまうのです。
 したがって政府は、そのあたりのことを見極めて減税をするな
り、歳出を増やすなりして、経済全体が再び失速しないよう手を
打つ必要があるのです。
 したがって、税収が増えればその分国債を減額し、極力歳出を
カットして、増税をする――政府がこんなことをやっていると、
せっかく回復した景気は確実に失速してしまうでしょう。
 企業がバランスシートの健全化を達成しつつあるといっても、
民間資金需要は弱く、安心できるレベルまでには回復していない
のです。現在、不況期に取り崩した金融資産の積み増しをしてい
る企業も多く、企業は需要者ではなく、資金の供給者になってい
るのです。         ――[日本経済回復の謎/27]


≪画像および関連情報≫
 ・名目GDPと実質GDPについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国内総生産には名目国内総生産――名目GDPと実質国内総
  生産――実質GDPがある。名目GDPはその年の経済活動
  水準を市場価格で評価したものである。実質GDPは、名目
  GDPから物価変動の影響を除いたものである。つまり、G
  DPが名目で増加しても同時に物価が上昇していれば、経済
  活動が高まったとは必ずしもいえない。
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:27| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
[消費税増税 - 税率 10%, 16%, 18% or 30%?]
’07参院選:全候補者アンケート 消費税、自民「引き上げ論」74%−政党:MSN毎日インタラクティブ
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20070714ddm003010048000c.html
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/images/20070714dd1dd7phj002000p_size8.jpg

財界や政府・自民党から消費税増税・法人税減税大合唱
http://www.toshoren.jp/Ctg-Toshoren_Undo_News/news2007_06/news2007_06-02.htm
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/news/3695/1184750808/
米国からの便り 消費税が16%?
http://kensirou2001.blog79.fc2.com/blog-entry-67.html
八国山だより 消費税を16%に
http://patience052.blog101.fc2.com/blog-entry-4.html

日本経団連意見書:「近い将来の税制改革」についての意見 消費税率引上げの展望
「消費税率を、第一段階として3%程度は引き上げるべき」
「消費税率を遅くとも2007年度までには10%とすべきである。」
「消費税で賄おうとすれば30%以上の税率」
「2025年度までの消費税率の増加を18%程度までに」

経団連の40億円の政治献金「斡旋」は何をもたらすか
3.(2)(i)A 消費税の税率引上げ
http://www.rikkyo.ne.jp/univ/hikita/JapaneseEconomy/2007/SEIJIKENKIN.pdf
http://www.rikkyo.ne.jp/univ/hikita/JapaneseEconomy/2007/SEIJIKENKIN.pdf#page=9
http://cs.koukokukaigisitsu.com/copy/5404

棄権は危険!そのわけは??
http://senkyo2.seesaa.net/
http://cs.koukokukaigisitsu.com/copy/5348
言戯: 選挙に行かない人って、バカだなあ。
http://maruccho.way-nifty.com/sobae/2004/07/post_19.html
http://cs.koukokukaigisitsu.com/copy/5353
Posted by No More Tax at 2007年07月20日 00:02
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